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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
アレの支部
27/221

027話

改訂版です



 中に入ると支部内は割とマシな雰囲気だった。

 何がマシかと言えば、まず昼間っから飲んだくれている様なバカがいないのが大きい。

 だから当然、子供が一人で入って来ても絡んで来るようなアホはいない。

 例え仮成人前の子供でも、目に見えて武装してるヤツが入って来れば御同業と見るのが普通だからね。

 それにそもそも討伐士の子供従者は大抵使いっ走りなんだから、一人で来るのはむしろ当たり前なのだ。

 だと言うのに、イイ感じに酔っ払っちゃえばそんな常識はお空の彼方になっちゃって、子供と見れば絡む輩は良くいるのですよ。


「ふむ」


 支部がやってる食堂(飲み屋)と支部自体が明確に別れてるとこんなに違うのかと思いながら、ワタシは改めて中を見回した。

 建物のほぼ真ん中に当たる出入り口から見れば、右側は壁までずっとカウンターが続いてて、端は衝立で仕切られた相談者用のボックスになってる。

 カウンターも無く、奥までラウンジになってる左側は人相の悪い下っ端討伐士連中が各テーブルに屯ってた。

 タイミングが良かったのかカウンターには誰も居ないので、そのまま真っ直ぐ受付嬢らしい人のいるカウンターへ向かう。


「見ない顔ですね。どなたかの先触れ?」


 カウンターに近付くと、向こう側に座ってた表情の薄そうなお姉さんが声を掛けて来た。

 まあ顔とか言われても、例の隠蔽魔導具使ってるから美少女には見えないだろうけどね。


「んー。先触れと言うより、師匠が引退しちゃって独りなんだよね。取り敢えずコレ」


 即座に座って討伐士章を出しながら答えれば、あっと驚いた顔になったお姉さんにフフッと笑いを返す。

 余裕の笑顔ですな。

 こんなちびっちゃい子がブロンズなんて出せば誰だって驚くからね。

 こう言う時はさも当然な顔をしてないと変に疑われちゃう。


「これは失礼しました」


 すると流石は歴戦の受付嬢サマ。

 驚いた顔を一瞬で戻し、直ぐに裏面の討伐士証の確認に入ってくれた。

 うんむ。

 仕事の出来そうな女性ひとは違いますな。

 でもそのブロンズを見たらしいラウンジの連中が案の定騒ぎだしちゃった。


「おいあのガキの討伐士章、ブロンズだぞ!」

「あんなガキが最低でも九級ってコトかぁ?」

「ありえねぇ、マジかよ!」


 まあ予想通りですね。

 関わると面倒臭いから、ここは知らん振りで通させて貰いましょう。


「おい小僧、討伐士章の誤魔化しは重罪だぞっ。判ってるんだろーな?」


 適当に無視してボーッとしてたら、如何にもちんぴら風討伐士なオッサンが絡んで来た。

 ああ面倒臭い。


「ウソかホントかなんてすぐに判んだろ? 幾らでも調べて貰ってイイぜ」


 速攻でタンカを切って様子見。

 実際に本当の話なんだから幾らでも騒いでちょうだいな。


「ちっ。おいソレーヌ、どうなんだ?」


 こっちの態度に舌打ちしたオッサンが今度はお姉さんに詰め寄る。

 カウンター越しだから知れてるとは言え、慣れてない人だとビビるかも知れないな。

 このオッサン、顔が超恐いし。


「間違いなくこの方は九級討伐士で、しかも八級間近です。更に正真正銘の討伐従騎士様でもありますね」


 しかしこの程度は慣れてるらしいソレーヌと呼ばれたお姉さんが無表情に答え、勢いを殺されたオッサンが何処かホケっとした表情になった。

 同時にすっと目線で合図されたので、こっちはソレーヌさんに軽く肯いておく。

 受付嬢が討伐士の個人情報を漏らすのは重罪だからね。

 でもこちらのトラブル避けの為に答えてくれたのは明白だから気にしない。


「オレはもうすぐ十三だっ。背がねーからって舐めんな。こちとら、もう三年以上魔物共とやりあってるんだからよ!」


 ついでにその配慮に乗って追い討ちの大声を出すと、更にポカンとした表情になったオッサンがカウンターから離れた。

 うんみゅ。

 どうやら効いてくれたみたいですよ。


「そ、そうか。苦労してるんだな。あ、いや、その、悪かった。頑張ってくれ……」


 ぬう?

 しかし言い訳めいた事を言いながらさっさとラウンジへ戻って行くオッサンを見ながら首を傾げる。

 因縁でも付けに来たのかと思ったのに、意外とあっさりしてますね。

 それとも単なる確認だけだったのかな。

 そう思って周囲を見渡すと、さっきまでの喧騒がピタっとやんで、ラウンジにはヒソヒソ声が飛び交ってた。

 何コレ?

 前もって色々な反応を予測してはいたものの、こんなのはちょっと予想外だ。

 治外法権の支部内にいれば討伐士連中は身分なんてあまり気にしないから、門の衛士サン達と違って「従騎士」のタイトルにビビる事も無いと思うのに解せぬ。


「ところで、従騎士様はこの支部にブーツを脱ぐ御積りですか?」


 意外な反応にキョドってたら、空気を読んだソレーヌさんが無表情で話し掛けてきた。

 うむ、ナイスなフォローだわ。

 数多のトラブルを乗り越えてるプロの受付嬢サマはやっぱ違いますな。

 ちなみに彼女の言葉は「支部の管轄内でお仕事をする積りですか?」と言う意味だ。


「ああ、うん。回国修行中だけど一週間はいる積りだよ。それとコイツを口座に入れてくれる?」


 ちょっと気を良くしたところで、例の旧聖王国大金貨を三枚(約60万円)さり気なくカウンターの上に出しながら答える。

 服や靴に皮鎧まで新調するのならギリギリの額であるものの、山岳森林で狩った魔物の換金もあるからね

 主目的はコレが両替出来るかどうかなんだから、ここはこんな程度で良いと思う。


「きゅ、旧聖王国大金貨ですか!? 少々お待ち下さい!」

「へっ!?」


 しかしそれを見たソレーヌさんがすっとんきょうな声を上げて驚いたのでビックリ。

 釣られてこっちまで変な声が出ちゃったよ。

 やっぱりマズかったかなぁ。

 ダッシュで預り証を書くと、金貨と共に奥に行っちゃったソレーヌさんが消えた扉を見ながら盛大な溜め息を吐く。


「すっげ、旧聖王国大金貨だってよっ」

「オレ、あんなの初めて見たよ」

「やっぱガキでも歴戦のヤツは違うよな」


 しかもソレーヌさんの声のせいで、ラウンジの連中がまた一気にざわめき始めちゃってゲンナリ。

 ウン。どう考えてもコレは「やっちまった」ってヤツ臭いわ。

 そもそも旧聖王国大金貨は各国王家や領主達が自前通貨発行の担保として大量に抱え込んでるから、普通はそうそうお目に掛かれるモノじゃない。

(領地持ちの公爵や侯爵は銀貨までなら自前通貨を発行出来る)

 子爵時代の自分だってほとんど見た事が無かったからね。

 でも田舎のマルシルと違って旧聖王国直系の国ならそれ程珍しく無いと、あのサラが言ってたから間違い無いと思うんだけど……。


「小僧、お前の様な者が旧聖王国大金貨なぞ持っておる訳は無い。何処で盗んできたのか正直に申せっ」


 周囲の騒ぎにゲンナリしてると、カウンターの端にあるボックスからエラそうな役人風のヤツが現れて因縁を付けて来た。

 超絶ゲッソリ。

 治外法権を持つ討伐士協会の支部や支局には、その特権故に領主の目付け役がウロウロしてる事が良くある。

「幾ら協会でも我が領内で勝手な事は許さないぞ」と睨みを利かせる為だけど、実態は居るだけで心付けをせびって来るクズ役人だ。

 このテは領主や代官が公に認める強請りタカり野郎で、常に何か銭金を強請るネタは無いかと嗅ぎ回ってるんだよね。

 全く嫌なヤツに目を付けられちゃったモンだわ。


「役人サマよう、討伐従騎士のオレにいちゃもん付けるってのは、オレの師匠だの後援者だのらに纏めてケンカを売るのと同じコトだぜ? ソレ、判ってやってるんだよなぁ?」


 面倒臭いので、先ずは凄んでみせて様子見。

 なんだかなぁ。

 こう言う事になるのがイヤだったから控えめにしたのに意味が無かったよ。


「ふんっ、お前の様な小僧の後ろにいる者共なぞ、たかが知れておるわ!」

「へぇ。面白い事を言うじゃねえか」


 しかしこっちの脅しも何のその、全く意に介さない感じの役人野郎が嫌な笑いを浮かべて腰の剣に手を掛けた。

 ほう。

 改めて見ればソイツはとっても上等なご衣裳でキメてて、手を掛けた剣も結構な装飾付きのサーブル剣(片手片刃剣)だ。

 どう見ても小役人風情の俸給ではムリな金の掛かり具合ですよ。

 この手のクズ役人は大抵ゲロ弱なのに随分と強気ですな。


「小僧が良く吼えよる。従騎士に成った程度でもう騎士気取りとはな」


 仕方無しに椅子から立ち上がると、クズ役人は剣に手を掛けたままでゆっくりとこちらに向かって来た。

 ああ。これはヤる気満々だわ。

 単なる強がりかと思ってたのに剣気まで放って来やがったし、こりゃ相当腕に自信があるようですな。

 まあ人間が屑でもソイツの腕とは関係無いからね。

 例の殺し屋連中もそうだったし、腕っ節の強い悪人なんて世には腐るほど居る。


「ヤるってんなら受けて立つぜ。何時でも来いよ」

「その言葉、しかと耳にしたぞ。命まで取らぬが我輩を愚弄した以上、腕の一本や二本は覚悟せよ」


 おおっと!

 このクズ役人、こっちの最後通牒を言下に切り捨てて来ちゃいましたよっ。

 たかが小金のカツあげ程度なのに、天下の討伐士協会支部内で役人が決闘も辞さないなんて辺境田舎町の無法っぷりは凄いわ。

 とは言え、それが辺境の流儀だと言うのならこっちも望むところだ。

 こんなクズ野郎、さっさと冥土に送ってやるのが世の為人の為だからね。

 対一なら支部内での決闘は認められてるし、証人も大勢いるから安心してヤれる。


「はっ。余裕ブッこいてると首が飛ぶのはお前だぜ?」


 一気に乗り気になったワタシは売り言葉に買い言葉を返しながら、ゆっくりと片手剣に手を掛けた。

 どれだけ自信があるのかは知らねど、こっちにすればこんなヤツは楽勝だ。

 あの殺し屋リーダーと比べても完全に格下の気配だし、そもそもこっちが気配を隠してる事にも気が付けないんだからお話にならない。


「ふっ、言っておれ」


 おやん?

 今の言葉で即座に剣を抜くかと思ったのに、クズ役人はゆるゆるとこちらに歩を進めるだけで、一向にそんな気配を見せない。

 謎だ。

 そう思って良く見れば、クズ役人の剣はかなり特徴的だった。

 グリップガードが無い鍔元のソードストッパーのみの拵えで、長さ的には片手剣なのに柄だけが妙に長い。

 鞘の構造から刀身自体はサーブル剣の筈なのに、まるでカタナ剣の様ですよ。

 クズ役人はその柄を右手で握り締めて、ちょっと前屈みな感じでゆっくりと近づいて来る。

 妙に堂に入った雰囲気から、どうもこれは何かの剣技の構えみたいだけど……。


「ちょっと待ったぁぁぁっ!」


 ん? なんじゃい無粋な。

 明後日の方からデカい声がしてクズ役人が動きを止めると、背後に人の気配がやって来た。

 何かと思ってチラ見すればさっきのオッサンだ。


「寄騎サマよぉ、そいつはこの従騎士殿が地獄を潜り抜けて稼いだ金だ。アンタみてえなのが手を付けてイイモンじゃねえぜ!」


 更に続けてオッサンがそう言うと、周りの討伐士達も一斉に「そーだそーだ!」と立ち上がって騒ぎ出した。

 はぁ?

 何なの、コレ?


「黙れぃ下郎共! 貴様らの指図など受けぬわっ」


 一瞬で顔真っ赤になったクズ役人が構え(?)を解き、討伐士達に向かって大声で吼えるものの、騒ぎに掻き消されちゃって彼らには全然聞こえてないみたい。

 突然始まった怒号が飛び交う喧騒に目をパチクリさせてると、そこへさっきのソレーヌさんが戻って来て、途端にピタッと騒ぎが止まった。


「失礼ですが、先の旧聖王国大金貨は既に討伐士協会が受け取りましたので、貴方様には関係の無い事となりました。他に御用が無ければ御引き取り頂けますか?」


 涼しい顔でそう言って、クズ役人に一礼するソレーヌさんが頼もしい。


「そーだそーだ、代官の手先はさっさと出てけ!」

「ココでデカいツラすんな!」

「タカリ野郎がっ!」


 無表情なソレーヌさんが口上を言い終えてカウンターに座ると再び騒ぎが始まった。

「用が無いなら帰れ」と言われた上に再度の罵倒を受け捲るクズ役人は真っ赤な顔で怒り心頭だ。


「ええーい! 貴様ら纏めて捕縛しても良いのだぞ!」


 こっちの事なんかそっちのけで喚くクズ役人、お疲れ様です。

 こんな雰囲気になっちゃえば幾ら何でも多勢に無勢で分が悪過ぎると言うのに、未だ権力を振り翳しちゃってますよ。


「あー。ここは討伐士協会の建物内ですので、例え代官閣下の御指図でも何も出来ない事は御承知かと思いますが?」


 手持ち無沙汰で突っ立ってたら、カウンターの向こうから騒ぎの中でも良く通る低い声がした。

 見ればちょっとダンディな感じのおじさんが笑顔でカウンターの向こうに立ってる。


「ちっ」


 それを見たクズ役人が舌打ちをして剣から手を離したので、どうやらこのおじさんはここのエラい人っぽい。


「その様な子供が旧聖王国大金貨を持つなど有り得ぬ! きちんと詮議はするのであろうな!?」

「だとしてもそれはこちらの話ですよ。貴殿や代官閣下には関係ありませんな」

「うぬぅ……」


 ああ、こりゃ本当にエラいヒトだわ。

 クズ役人の言葉も何処吹く風で肩を竦めて返すおじさんからは、この手の修羅場を数多潜り抜けて来た余裕を感じる。

 あまりの貫禄の違いにクズ役人も唸るだけだ。

 恐らくこのヒトが支部長さんなんだろうなぁ。

 

「ええい! 覚えておれよっ!」


 流石に不利を悟ったのか、一瞬周りを見回したクズ役人は捨て台詞も鮮やかに、扉を乱暴に蹴り開けて出て行った。



この辺で終わらせて頂きます。読んで頂いた方、ありがとうございました。


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