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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
アレの町へ
26/221

026話

改訂版です



「あの、今の内に入城申請票を書きませんか? コレなんですが」


 レモン水を飲んで再度の一服をしてたワタシにコームさんが覗き窓から入城申請票を滑り込ませて来た。


「あ、これはお気遣いありがとうございます」


 礼を言って受け取ると、取り敢えずサラサラと必要項目を書き込む。

 町以上のちゃんとした対魔物城壁に囲まれた街区は正式には城塞と呼ばれる。

 だから「入城申請」になるし、手数料も「入城税」だ。

 魔物の侵攻に対する拠点と言う意味だけど、魔物の大規模侵攻はそれ程の脅威なんだよね。

 そんな事を思いつつ書き上げた申請票を覗き窓越しに返すと、程無くして外から声が聞こえて来た。


「コーム、そちらは?」

「あ、隊長! こちらはさっき着かれた討伐従騎士の方で、認証はまだですが、取り敢えずここでお待ち頂いている所です!」

「そうか」


 直後にノックの音がしたので返事をすれば、ちょっとシブい感じの中年のおじさんが入って来た。


「御協力に感謝します。この門の責任者を任されているマティアス・バラボーと申します」

「御勤めご苦労様です。討伐従騎士のマリア・コーニスと申します」


 まずは挨拶をすると、隊長さんは妙に恐縮した様子で反対側の椅子に座った。

 こんな子供相手に随分と丁寧だなと思ったら、此処でやっと門前の人達が黙った理由に気が付きましたよ。

 おっちゃんの騒ぎで頭から飛んでたけれど、ワタシってば暫定官位を持つ本物の従騎士に成ってたんだよね。

 この身分至上主義の世の中じゃ、従騎士なんて一般人には「様」呼ばわりされちゃうエラい人だ。

 そんな人を目の前でネタにして騒いじゃったと気が付けば誰でもビビるわな。


「すみませんな。数日前からこの辺一帯で色々と騒ぎがありまして、今は外部の方の入城がちょっと厳しくなっておるのです」

「ああ、それは聞きました。何でも凶賊が捕らえられたとか?」

「ええ。まぁ一人も生きては捕らえられなかったそうですが、血盟兄弟と言う名を御存知ですか? 天下に悪名を轟かせた凶賊中の凶賊、狂犬ギュンターも遂に誅されたそうですよ」


 神妙な顔で切り出した隊長さんの話を聞くと、殺し屋共が有名人だった事が判ってビックリ。

 アイツらってそんなに有名な連中だったんだね。

 道理で強いと思ったよ。

 でも惜しかったなぁ。

 だとしたら相当な賞金が掛かってた筈なのに、全部投げ捨てちゃったもんね。


「そんなに有名なのですか? すみませんがワタシは討伐一筋でやって来た者なので、少し世間の事情に疎いのです。でも誅されたのであれば安心ですね」

「はははっ、確かにその年齢で従騎士に任じられる程の方ならば、世間の事情に疎くても仕方がありませんな」


 しかし今は殺し屋共の事なんて考えてる余裕は無い。

 だって奴らがそれ程有名な賊だったのなら、母上が腹黒大将ちちうえに口を割ってる可能性が高くなるからだ。

 その場合、マリア・コーニスの名は間違い無く手配されてるだろう。


「しかしですな、実は我々が探しているのは凶賊共などでは無く、さる高位貴族家の姫君なのですよ」

「はぁ。貴族様の御令嬢、ですか?」


 おっと。

 顔を覗き込む様にして身を乗り出した隊長さんの言葉に知らん振りを決め込む。

 やっぱりそっちが本命でしたか。

 盗賊の嫌疑なら、捕縛もせずに一人で部屋に閉じ込めるのはおかしいと思ったんだよね。

 でももう此処まで来ちゃったら取り敢えずのハラは括るしかない。

 さてマリア・コーニスの名は手配されてるのか?

 吉と出るか凶と出るか丁半勝負だ。


「まあ背格好からして貴殿とは全くの別人なので問題は無いとは思いますが、討伐士章を少々お預かりしても宜しいですか?」


 うんみゅ。

 さも当然と言った感じで否定台詞を言ってくれた隊長さんにホッとする。

 どうやら助かったみたいですよ。

 でもここで討伐士章を出せと言うのはちょっとヘンだな。


「構いませんが、どうされるのですか?」


 取り敢えず訊きながらも討伐士章と魔法士章を出す。

 まあ討伐士章は金貨一枚で再発行を頼めるし、それは魔法士章だって同様だから、町中なら失くしてもどうにでもなる。

 それに衛士の隊長さんが妙なマネはしないだろうと思い、そのまま渡した。


「ああ、すいません。実はこの机は認証機の端末になってまして、ここで認証が出来るのですよ」


 ほぉ、ソレは初耳だ。

 何処の町の門にもあるあの認証用の魔導機械は馬鹿デカいだけじゃなくて、そんな裏仕掛けがあったんだね。

 道理でこの机、石の塊みたいな造りだと思ったよ。

 討伐士章を机上の真ん中に置いた隊長さんの言われるままにワタシが右手を置くと、彼は立ち上がって壁にある伝声管の蓋を開き、「バラボーだ、こっちを頼む」と指示を出した。


「名前も年齢も申請票通りで間違いありませんっ。我が西聖王国の討伐従騎士、マリア・コーニス殿で確定です!」


 するとこっちにまで聞こえる声量で声が聞こえて、伝声管に耳を傾けてた隊長さんがちょっと顔をしかめた。

 あら、これはさっきのコームさんの声ですな。

 零落した士族家から復活を果した様な事を言ってたけれど、オペレーターまで出来る魔法力を持ってるとは思わなかったわ。


「いやはや、お手数をお掛けしました。早速入城票を持って来させますが、もしお急ぎでないならお茶でも如何ですか?」


 疑いが完全に晴れたお蔭か、こちらを振り向いてにこやかに笑う隊長さんに肯く。


「ええ、頂けるのでしたら頂きますが、隊長殿は宜しいのですか?」


 勿論こっちはOKだ。

 衛士隊の隊長さんなら町の事を最も良く知る一人だからね。

 宿の話とか服屋の話とか、訊きたい話は色々ある。


「こんな田舎町に身分を持つ武装外来の方など滅多に来られませんからな。それにセヴンの山岳森林から来られたのならば少し訊きたい事もあります」


 伝声管でお茶を頼んで蓋を閉めた隊長さんから討伐士章を返して貰い、それを首に掛け直していると扉からノックの音が聞こえた。

 直後にトレイに乗ったお茶を持つ従兵っぽい人が入って来てビックリ。

 仕事早!

 リプロンでもそう思ったけれど、衛士の人達は本当に動きがイイよね。

 ちょっと見習う所があるかも知れませんな。


「ああ、入城税は頂きません。さすがにご協力頂いた方に請求は出来ませんので」


 従兵の人から入城票を渡されたので財布を出すと、隊長さんが止めてくれたので有りがたくそうさせて貰う。

 お礼を言うと彼はそのままトレイを置いて出て行った。


「さて。もう疑いも晴れた事だし普通の口調でイイんじゃないのかな。大体、衛士隊の隊長さんなら官位だって同格以上でしょ?」

「ん? ああ……まあそうなんだが、官位は同格でもバックが違いすぎるだろ? いずれは騎士になる人物にそうそうぞんざいな口は利けないさ」


 再度二人きりになった取調室で思い切って口調を崩せば、隊長さんは一瞬戸惑ったものの、こっちに合わせてくれた。

 お手上げのポーズまでしてくれて、一気にリラックスした雰囲気だ。

 うむ。役人にしては結構良い人っぽいですな。

 常に自分の周辺状況に気を配り、ヘタを打たない様に気を付ける事が基本である役人の人からすれば、どんなバックが付いてるか判らない討伐従騎士なんて本当なら腫れ物に触る様な扱いでもおかしく無い。

 余計な会話をしたお蔭で変な所に触れちゃって、後でおエラいさんとトラブルになったら目も当てられないからね。

「ハハハ」と乾いた笑いで返事をしたワタシは、それからリラックスした中で世間話に興じつつ、町中の情報を仕入れる事が出来た。

 流石は町を仕切る衛士隊の隊長さんだけあって、こっちの知りたい事はほぼ完全に押さえられましたよ。

 思わぬ幸運だったわ。

 でもそろそろ話を終えて立ち去ろうかと言う頃になって、隊長さんが思い出した様に新たな話を振って来た。


「そう言えばさっきの話なんだが、セヴンの山岳森林のどの辺を通って来たんだ?」

「ああ、南側を抜けて来たって感じかな? ハイオーク位としか出会わなかったから大した魔物は居なかったよ」

「おいおい。ハイオークも随分と軽い魔物になったもんだなぁ」

「ストレージに入ってるから見る? 後はトカゲ野郎が数匹って所なんだけど……」

「流石に見せろとまでは言わんさ。本物の討伐従騎士の力量に驚いただけだよ」


 そう言えば最初に訊きたい事が云々と言ってたのを思い出して、何か調査してる事でもあるのかと獲物を出そうとすると何故か止められた。

 ちょっと訝しげな顔で見返すと、真顔になった隊長さんがググッと身を乗り出す様にしながらこちらに手招きをする。


「実はここらでも数十年に一度の頻度でデカい魔獣のガッシュ(魔物が湧く事)があるんだ。こっちが訊きたいのはその話でね」


 応じて顔を近づけたら、小声で話し出した隊長さんの話は結構ヤバい魔獣の話だった。

 しかも今年辺りはかなり危ないらしくて、見当を付けてる場所に衛士隊を巡回させたり、色々と対策を組んでるのだそうだ。

 動物が魔物化すると大抵は発狂状態になって長くは保たないものの、ザリガニみたいな原始的な生き物だと偶に長生して化け物化する事がある。

 大抵は魔法抵抗力を身に付けられなくて自滅しちゃうのに、物凄い低い確率でアタリが出る場合があるんだよね。

 でも山森を歩いてる間にそんな大きな魔物の反応は無かったのでそれを言うと、隊長さんはホッとした顔になって肩を竦めた。


「いや助かった。山岳森林越えは衛士隊の職務から外れるから是非とも聞いておきたかったんだ」

「大した役に立てなくて悪いね」

「南側が今現在はシロだと判っただけでもこっちには大きいさ。それにもし少しの間でも町にいてくれるなら、協会を通じて他の調査も依頼出来るしな」

「それは構わないけど、他にも騎士や従騎士はいるでしょ?」

「この町には討伐騎士なんて数える程しか居ないから、皆予約で一杯なんだ。そう言う意味じゃマリー殿が来てくれて助かった」

「成る程ね。一週間は居る積りだから依頼があれば受ける事にするよ」


 嬉しそうに言う隊長さんを見れば、どうやらこの依頼の件が本題だったみたいだね。

 こっちにすれば衛士隊長の依頼で魔物討伐が出来るのは美味しいから断る事もないけれど、ザリガニのガッシュは勘弁して貰いたいところだ。

 もし十フィート(約3m)を越す様な化け物だと衛士隊じゃ歯が立たないし、そうなったら城塞都市から騎士団や協会の軍隊が来るまで町で篭城戦になるので、暫くここで足止めになっちゃう。

 ちょっと考えどころかも知れないな。




◇◇◇◇◇◇◇




「宜しく頼む」と言う隊長さんと握手をして別れ、衛士隊の詰め所を辞去したワタシは早速町中へ入った。

 門を出るとそこはよくある門前広場で、色々な人達が色々な事をやってる。

 しかし本当に規模が大きい町だ。

 見渡せば一本の石畳の舗装路が真っ直ぐ町の反対側に続いてる様で、これがメインストリートらしいけれど、こんな田舎町で舗装路と言うのは凄い。

 普通の町じゃ門前広場すら土のままだったりするからね。

 件の代官とは一体何者なのかなぁ?

 余程の権力者じゃないと田舎の村を数年でこんな町に造り変えるのは無理だと思うんだけど……。


「ボウズ、討伐士かい?」


 広場でボーっと立って大通りを見てたら、屋台のオッサンが声を掛けて来た。

 肉とか野菜を串に刺して焼いた物を売ってる串焼き屋だ。

 にゅうん。ちょっとイイ匂いがしますよ?

 一本買って食べながら行こうかな。


「ああ、そうだね。おっちゃん一本貰えるか?」

「まいど!」


 匂いに釣られて思わず注文したら、威勢のイイ声を上げたオッサンが串焼きを一本焼き始めた。

 益々漂うイイ匂いについ焼かれてる串を見ると、何だか肉が結構上等な感じがする。


「おっちゃん、この肉ってもしかして豚肉か?」


 何となく思った事を聞くと、オッサンは自慢げに胸を反らした。


「はっはっはっ! ボウズはいい目をしてやがるなっ。お察しの通り豚肉だ。オークなんかじゃないぜ?」

「へぇ。こんな屋台で豚肉なんて珍しいねぇ」

「ボウズはこの町は初めてか? この町じゃ豚を一杯飼ってて、色んな町に卸してるのさ」

「なーるほどぉ。そんなら屋台で豚肉が売られてるのも納得だね」

「へい、お待ち!」


 ワタシはお礼を言って串焼きを受け取ると、銅貨三枚の代金を払って歩き出した。

 協会支部はメインストリート沿いだと聞いたから、このまま行けばすぐ見えて来る筈だ。

 そして当然の様に歩きながら串焼きにかぶり付く。

 うむ。これぞ正しく貴族に有るまじき行いだねっ。

 ちょっと前ならこんな事やれば大目玉必至だったからなぁ。


「しかしコレは買って正解だったわぁ」


 もう「姫」じゃない事に感慨を覚えつつ、ピーマンやら玉ねぎやらと一緒に刺さった豚肉を噛んだら、ジュワっと肉汁が口中に溢れて幸せな気分になる。

 中々に旨いわ、コレ。

 塩だけで無く独特のタレも塗られてて、コレがまた豚肉と良く合ってイイ感じですよ。

 これはまた買いに来ないといけませんな。

 あっという間に一本を食べ尽くしてインベントリに入ってるゴミ袋に串を仕舞うと、目の前に目的の建物が見えて来た。

「討伐士協会アレ支部」と看板が出てる建物は飾り気の無い石造りの四角い造りで、如何にも田舎町の協会支部と言った風情だ。

 ちょっと他と違うのは、棟続きっぽい隣の建物が食堂(飲み屋)の様になってる所かな。

 田舎町の支部なんて飲み屋だか協会支部だか判らない様な所も多いから、これは結構珍しい様式かも知れない。

 ワタシはちょっと気合を入れ直すと、支部の出入り口に当たる大きな扉に手を掛けた。



この辺りで終わりにさせて頂きます。読んで頂いた方、有難う御座いました。


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