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討伐騎士マリーちゃん  作者: 緒丹治矩
アレの町へ
25/221

025話

改訂版です



 倒したゴブの処理をちゃっちゃと済まし、ワタシは道に転がってる山菜を拾い集めた。


「はぁ、おっでれえた。まさかこんな所でゴブリンが出るなんて初めてだよ」

「そりゃ山の中なんだからゴブぐらいは出るだろっ」


 両脚を投げ出して座り込んだ背中のカゴにそれらを詰め込んであげると、漸く口を開いたおっちゃんに笑う。

 何だかなぁ。

 ゴブ程度に此処まで驚かれちゃうと逆にこっちが驚くわ。

 笑っちゃうのもしょうがないよね。


「しっかし、アンタァ、ホントに強いんだなぁ。あんだけいたゴブリンが影も形もねぇやな」


 気を取り直したのか、立ち上がったおっちゃんが辺りをキョロキョロしてるけど、もうゴブ三匹はストレージもどきの中だ。

 今頃見回しても何もいませんよ。

 でもたった三匹の筈なのに、おっちゃんには沢山に見えてたのかな?


「まあったく、アンタが居なかったら危なかっただよ。有り難えこった。山菜まで拾ってくれてホントにアリガトなぁ」


 訝しげに見てると、キョロつくのを止めたおっちゃんが今度はペコペコと謝り出しちゃった。

 ちょっとおっちゃん、ここは町中じゃ無いんだから未だ気を抜くには早いでしょうよ。

 グズグズしてたらまた魔物が出て来るかも知れないよ?


「ああ、うん。気にしなくてイイよ。それよりさっさと行こうぜ、またゴブとか出るのもイヤだろ?」

「お、おお、そうだなや! さっさとズラかるに越したこたぁねぇ」


 面倒臭いので即座に脅しを入れると、顔真っ青になったおっちゃんが転がる様に早歩きを始めたので笑いながら付いて行く。

 暫く行ってもスピードが落ちないから、速さはともかく足の持久力はあるみたいだ。

 ただこのおっちゃん、かなりの話好きらしく早歩きしながらもさっきの件でこっちを褒め捲くって来るから疲れる。

 ちょっとウザいかも知れませんな。


「そう言や、ゴブリンの死体はどうしちまったんで?」

「あそこで燃やすのもナンだから、一応ストレージに仕舞ってあるよ」

「そいつは僥倖ってヤツだで。ゴブリンの死体は売れっからな」

「え!? マジで?」


 褒め捲くるおっちゃんの話を適当に聞き流してたら、見過ごせない話が出て来たので訊き返した。

 だってゴブなんて普通は処分のメンドいゴミでしかないのに、引き取る所があるなんて初耳だ。


「んだ。討伐士協会の支部に持ってきゃ、一匹銅貨五枚で引き取ってくれるだよ。とーばつ報酬ってヤツとは別だからオラが持ってってもゼニくれる位だで」

「へぇ、そうなんだ! 良い事聞いたよ」


 成る程ねぇ。

 どんなカラクリかは知らないけれど、これはかなり耳寄りな話ですよ。

 山岳森林を抜けて来る間に狩ったゴブ死体は、実験で燃えちゃった一匹を抜かして全部が未だストレージもどきの中にある。

 ロダーヌ河の向こうに行ったら埋めちゃおうと思ってたのに、たったの銅貨五枚とは言え売れるのならば嬉しい。

 何しろ百以上の数があるんだから、もし話が本当ならそれだけで銅貨五百枚(約五万円)だもんね。


「おっ、見えて来ただよ」


 嬉しい誤算にニマニマしてたら、再度始まった褒め捲りを唐突に止めたおっちゃんが行く手を指差した。

 どれどれと見てみれば、木々の間から見える長い坂道の向こうに町らしき城壁が見える。


「おおっ。思ったより随分と大きな町なんだねぇ」

「そら広さだけならこの辺で町を名乗ってる中じゃ一等の大きさだでな。中はスッカスカだども」


 ぎゃはははと笑ったおっちゃんに釣られて笑いながらも、これは幸先がイイと安堵した。

 幾ら新興の町とは言え、あの規模なら色々と期待出来る。

 服や鎧を揃えるなら大きな町に越した事はないし、そんな町の支部ならば例の大金貨だって目立たずに処理出来るかも知れないもんね。




◇◇◇◇◇◇◇




 町の門前に着くと、こんな山側の門だと言うのに結構な数の人達が順番を待ってた。

 荷車と一緒の人や馬車が多いから商人が多いみたいだ。

 こう言う田舎町の門は大抵大きな門が一つきりなので、こんな朝の時間だとどうしても待ち列が出来ちゃうんだよね。

 確認の為に見てみれば、やっぱり門は一つしか無くて他は通用口みたいな出入り口が幾つかあるだけだった。

 ぬう。

 商人の通過には色々な手続きがいるから、これは結構待たされちゃうかも知れませんな。


「んん?」


 仕方無しに待ち列に並んだら、何故かおっちゃんまでもが後ろから付いて来て疑問が湧く。

 町の住民なら認識票を持ってる筈なので、通用口から出入する筈なのにどうしたんだろう?


「いやぁ、オラもこの歳になるまで色んな連中を見てきたけんど、こんなに強いお人を見たのは生まれて初めてよぉ!」


 声を掛けようとすると、何時の間にやら周囲の人達を捕まえて喋り始めてたおっちゃんにガックリ。

 しかも喋ってる内容はさっきのゴブに襲われた時の話ですよ。

 何やら武勇伝の様な話しっぷりだし、聞いてるこっちは超恥ずかしい。

 マジで勘弁して欲しいです。


「押し寄せるゴブリンの群れを千切っては投げ、千切っては投げ……」


 オヒオヒ。

 それでも仕方無く聞いてると、何だか物凄い尾鰭が付いちゃってる話の内容にゲッソリ。

 どんだけ話を盛ってるんだよ、もうっ。

 偶にこっちを指差してくるし、横に居るこっちはもう顔真っ赤だ。

 その上周囲の人達はどうやらこのおっちゃんを知ってる人が多いみたいで、結構熱心に聞いてたりするから始末に終えない。

 何の罰ゲームだよ、全く……。

 仕方無くワタシは完全に他人の振りを決め込む事にして、目の前にある城壁に見入った。


「うん。結構立派な城壁だよな」


 別に城壁フェチと言う訳では無いけれど、改めて見れば城壁は実に立派な出来だ。

 十三フィート(約4m)ともう少しありそうな高さのコンクリで出来てて、随分と本格的なブツですよ。

 外側が石組みで覆われてて、更にもっと高さのある城塞都市の城壁とは比べ物にならないものの、こんな田舎でコンクリの城壁と言うだけでも凄い話だからね。

 やり手の代官ってホントにやり手だったんだなぁ。


「おおぉー!」

「ぬう?」


 腕を組んで暫く城壁に見入ってると、何やら背後から大きな歓声が上がった。

 イヤな予感と共に振り向けば、興に乗ったらしいおっちゃんが棒っきれを振り回して見えない魔物と大乱闘を繰り広げてますよ!

 超絶ゲッソリ。

 ホントに何処までやれば気が済むんだよ、このおっちゃん。

 でも流石にそろそろ止めないとマズい雰囲気だ。

 盛り上がって五月蝿いせいか、衛士っぽい人が近付いて来たからね。


「やー、おっちゃん。そんなにオレを持ち上げたって何も出ないよ?」

「だーいじょうぶだ!」


 ああ、こりゃダメだ。

 婉曲に「もう辞めてね」と言ったのに、ワケの判んない返事を返すおっちゃんにグッタリ。

 何かもう興奮してて、手が付けられない雰囲気ですよ。


「だからー! オレって別にそんなに強いワケじゃないんだから、恥ずかしいって!」

「かぁーっ! やっぱホントに強いお人ってーのは違うだなっ。そこらのヤツらだったら自慢タラタラだってーのによ!」


 しょうがなく大きな声でダメ押しを追加してみたら、今度は大仰な仕草で天を仰いだおっちゃんが更なるデカい声で喚き出しちゃった。

 うへぇ。コレは本格的にダメだわ。

 もう処置無しだよね。

 どうしてくれようかと考える内に、遂に近くまでやってきた衛士の人が後ろからおっちゃんの肩を叩いた。


「何の騒ぎかと思ったらジョシュのおっさんかぁ。また山に行ったのかよ? 暫く行くなって言ってるだろ」


 やって来た衛士の人は結構若かった。

 二十代半ばって感じかな?

 でもおっちゃんとは知り合いみたいだから、ちょっと助かった気もするね。


「けっ、八百屋の倅のコームかよっ。そっちこそ良く聞きやがれってんだ、いいかぁ、このお人はなぁ……」

「あのなあ! 俺の親爺は確かに八百屋をやってるが元々は士族で、俺に至ってはちゃんと仕官した立派な士族なのっ。全く何度言ったら判るんだか!」


 おっちゃんが言い返そうとするのを途中で遮って、衛士のコームさんがちょっと大きな声を出した。

 と言っても、言って聞かせるような口調が衛士らしくなくて可笑しい。

 町中でご近所さんが言い争いでもしてるみたいですよ。


「バカ言ってんじゃねぇ。お前みたいなハナッ垂れが士族サマなら、オラなんか貴族サマだってーんだ!」

「だから一体何年前の話してんだよ! あぁもうっ!」


 しかし興奮してるおっちゃんは取り付く島も無い雰囲気で、得体の知れ無い事をデカい声で喚くだけだ。

 うん。これはおっちゃんがヒドいわ。

 コームさんもお手上げなのか、顔に手を当てて天を仰いじゃってますよ。

 丸っきりコントみたいなやり取りに、それを見てる周囲の人達が大笑いする中でこっちも釣られて笑うものの、同時に随分と良い雰囲気だなと驚く。

 大抵の衛士は一般人にはもっと高圧的なのに、この町ではこんなモノなのかな?

 そんな町ならワタシだって住みたい位だけど……。


「で、小僧は何だ? 何処かの討伐士の手先か?」


 笑いを浮かべて見ていると、手に負えないおっちゃんの相手を投げたコームさんが隣にいるワタシに話し掛けて来た。

 まあそうなるよね。

 使い込んだ片手剣を腰から下げ、肘と膝に防具のパッドまで付けてるこっちは見るからに剣呑な雰囲気だ。

 町の衛士としては真っ先に誰何すいかしたい「怪しいヤツ」だもんな。


「バカ野郎っ! お前みたいな洟垂れと違って、このお人はりぃっぱな討伐従騎士サマだぞ!? すげえ強えんだ! このオラが見たんだからウソじゃねえ!」


 ところが、よせばイイのに途端におっちゃんが火が付いた様に怒鳴り上げちゃって、コームさんに掴み掛かりそうになっちゃった。

 コレはマズいわ。

 門前で衛士に掴み掛かったりすれば幾ら顔見知りでもタダじゃ済まない。

 おっちゃんにはさっさと退場して貰わないといけませんな。


「いやいや、おっちゃん! とにかく中に入らないと山菜も売れないよ? ホラホラッ!」


 仕方が無いので実力行使ですよと、適当な事を言いつつおっちゃんの両腕を背後からガッチリとホールド。

 そしてそのまま住人が出入りしてる通用口まで強引に押して行く。

 普通の人の力じゃワタシの腕力には勝てないから、おっちゃんはされるがままだ。

 何か色々口走ってるのを無視してそのまま通用口に押し込み、そこに居た衛士サン達に目配せをすれば、彼らは「心得た!」とばかりに連れて行ってくれた。

 うん、これでイイよね。

 ワタシはホッとして通用口から離れると一息吐いた。

 ああ疲れたわぁ。

 主に精神的に。


「あの、従騎士様と言う話は本当ですか?」


 ん?

 城壁に手をついて心の動揺を鎮めてると、声を掛けられたので振り向く。

 さっきのコームさんだ。


「ああ、うん。サマは要らないけど、本当だよ」


 色々と騒がせちゃったお詫びにと即座に討伐士章を見せて返事をする。

 これから入城申請なのに、衛士サン達に嫌われるのもナンだからね。

 でも討伐士章を見たコームさんは何故か固まって、ついでに周囲の人達も急に大人しくなっちゃった。

 ぬう、解せぬ。


「うわっ、本当だ。って、すいませんっ。ち、ちょっとこちらへ!」

「はぁ?」


 なんでしょねと訝しげな顔で見ると、キョドった感じで復活したコームさんに手を掴まれて連行される。

 しかもそのまま衛士の出入口みたいな扉を開けて連れ込まれちゃったから、何だか強引なナンパみたいでドッキリ。

 まあそんな色っぽい話じゃ無いんだろうけどさ。

 しょうがないなぁと思いつつも付いて行けば、そこはやっぱり衛士の人達の通路の様でちらほらと他の衛士の人とすれ違う。

 コームさんはその中をズンズンと奥へ歩いて行き、取調室みたいな小部屋の前で立ち止まると手を離して振り向いた。


「申し訳ありませんが、今ちょっと色々と手配が掛かってまして、武装してる他所の方々には個別に対応させて貰ってるんです。暫くここでお待ち頂けませんか?」


 はぁ。何かと思ったらそう言う事ですか。

 でもこんなヤバそうな部屋で監禁状態って、ほとんど犯罪者扱いだよね?

 別に捕縛されたワケじゃないからイイけれど、理由くらいは知りたい。


「手配って、何かあったの?」

「実はセヴンの山岳森林で大捕り物があったらしくて、逃げた盗賊共を探してるんですよ」


 ぶふぉっ!

 秘密でも何でも無いのか、訊けば即座に答えてくれたコームさんの言葉に噴出しそうになる。

 アレがそんな騒ぎになってたとは知らなかったよ!


「何でも凄い有名な凶賊だそうで、マルシルの伯爵様の御家来方が追い詰めて頭目の二人は確保したそうです。しかし手下がまだ数人逃げてるとの事でして」


 ありゃりゃ。

 大げさな手振りと共にコームさんが話してくれる詳細にグッタリ。

 逃げてる手下と言うのは多分、爆炎地雷で燃えちゃったヤツらの事なんだろう。

 死体が無ければ逃げたと思われるのが普通だからね。

 やっぱりアレは不味かったと思うものの、それより何より伯爵様の御家来方って言葉が気になる。

 どう考えてもソレ、例のヤバい部隊の事だもんなぁ。


「では順番が来るまで此処でお待ち下さい」


 ちょっと顔が青ざめたワタシを部屋の中に入れて椅子に座らせると、そう言ってコームさんは部屋の外に出て行った。

 ううーむ。

 これは不味い展開ですよ?

 ヤバい部隊の連中はほぼ間違い無くワタシの追手の筈だ。

 アイツらがもう国境付近にまで出張ってるのなら、ここで足取りを掴まれるのは絶対にヤバい。

 かと言ってここで逃げ出すのも最悪の手だしねぇ……。


「どうしようかな」


 取り敢えず手下に間違われる事は無いだろうと椅子に座って考えるものの、取調べ用の椅子はやたらと大きくて座り心地が最悪だ。

 足がギリギリ地面に付く程度だし、何でこんなに大きいのかなぁ。

 ん?

 でもこれって、さっき見た時は普通の大きさの椅子に見えた様な……。

 どう言う事なんだろう?


「ああ、そーか!」


 椅子の事なんて考えてる場合じゃ無いだろうと思いつつも首を傾げると、即座に原因に思い当たってポンと手を叩く。

 何時の間にか忘れてたけど、ワタシってば普通の椅子が大きく感じる程に幼女化してるんでしたよ!

 うむ。

 この姿なら絶対にバレっこ無いわ。

 例え町の出入記録に要注意印が残ったとしても、さすがに身長と体重が大幅に違えば幾らあの連中でもスルーするに決まってる。

 これは助かっちゃいましたな。

 途端に気が楽になったワタシはインベントリから水筒を出すと勝手に一服し始めた。

 レモン水が美味しいわー。

 一時はどうなる事かと思ったけれど、考えてみれば全然危うくなかったよ。

 気分の良さに鼻歌まで出ちゃう。

 するとコンコンとノックの音がしたので「はーい」と返事をすれば、扉の覗き窓が開いてコームさんが声を掛けて来た。


「あの、何かありましたか? 担当の者がもうすぐ来ますので、そんなにお待ち頂く事も無いと思うんですが……」

「いえいえ。ただ勝手にちょっと一服させて貰ってるだけですよ。お気になさらずぅ」


 成る程。

 部屋から出た後、コームさんはそのまま扉の外に張り付いてたんだね。

 丸っきり犯罪者の扱いだと思うものの、お陰で気分はそんなに悪くない。


「私が訊く事では無いのですが、マリアさんは女性の方ですよね? 実は先程の件以外にも、何処かの貴族様の御令嬢が失踪されたと言う話がありまして、二重の意味でお付き合いをお願いしてる形なんです。本当に申し訳ありません」

「ソレハタイヘンデスネエ」


 はっはっはっ、何だか声が裏返っちゃいますな。

 例え父上がマルシル国外にまで手配を掛けてても、この姿ならそんなモノに引っ掛かるワケが無い。

 幼女化万歳ってな感じだわ。

 ワタシはまたレモン水を一口飲むと、ゆっくり担当者とやらを待つ事にした。



本日もこの辺で終わりにさせて頂きとう御座います。

読んで頂いた方、ありがとうございました。


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