023話
改訂版です
森の中をテクテクと歩く。
時刻は昼過ぎ。
山岳大森林地帯の森の中も、何となくのどかな感じで気分がイイ。
今ワタシが目指してるのはここから最も近いアレの町だ。
行った事は無いけれど、そこはセヴンの山岳大森林地帯の端にある元開拓村で、数年前に中央から来たやり手の代官が町へと変えたと聞いている。
魔物との戦いの最前線にある町だから色々とユルいとも聞いてるし、今の自分が潜り込むには絶好だと思うんだよね。
ちょっと大きな窪地をホイっと飛び超え、下草もまばらな土の上にフワッと降り立つと、ワタシは歩きながらも何気なく右手を見た。
「本当に可愛らしい手になっちゃったよなぁ」
正確に測り直して判った今の自分の身長は五フィート(約152cm)に三インチ(約8cm)も足りない。
元から七インチ(約18cm)も減った計算になる。
体重だって余裕で百ポンド(約45kg)は切ってるだろうし、この外見では修行時代に多少でも関わりがあった町に行くのは危険だろう。
幸いにしてロダーヌの大河の向こう(東側)には行った事が無いので、アレの町で身支度を整えたらさっさと河を越えちゃえばイイかなと思う。
大魔山脈から来る魔物を避ける為、大抵の町は河のこっち側にあって向こう側は人気が薄い。
お陰で野宿必須ではあるけれど、どのみち河を越えないと大魔山脈に入れないので早いか遅いかの違いだ。
無論、その先の大魔山脈でジュヴェインに寄っても、前の姿を知ってるアーベルさんに会うのはパスだね。
「ふっ」
目の前の茂みの先が十フィート(約3m)近く落ちてるのを見つけたものの、気にせずそのまま飛び降りる。
するとさっきの窪地同様、ワタシの体は何事も無かった様に下の地面にフワっと着地した。
魔法分身体の大玉と一体化してると、こう言う時は便利!
一々風系魔法を行使しなくても、勝手に似た様なコトが出来ちゃうからね。
昨日の夜の一体化成功以来、大玉との一体化もさすがに慣れて来た。
そりゃずっと続けてれば慣れもするし、朝起きてからは一体化したり解いたりの着脱(?)訓練もやってるんだから当たり前だ。
とは言え、この異様に大きな魔法力自体には未だ慣れない。
服や周囲を燃やしちゃった件一つとっても、あれ自体は自分の魔法力の一部が暴走した結果だと思うから驚かないけれど、服が燃え尽きる程の人体発火をカマしたのに身に着けてた魔導具から髪の毛一本一本までをも同時にレジスト(無効化)し切った魔法力は異様過ぎる。
そんなの、もう本物のバケモノ以外の何物でも無いわ。
コレはこれから色々考えたり研究したりして行かないと、絶対に命取りになりそう。
先々の難問が山済みだよなぁ。
「んん?」
ふと気が付くと、探知魔法もどきの進行方向にゴブリンが六匹映った。
でもそいつらは急に動きが早くなり、まるで何かから逃げる様に速攻で探知圏内から離れ去って行く。
「ちっ、またかよ」
舌打ちをしながらゲンナリ。
実はコレ、一体化で起きる問題の一つだ。
魔法力がズバ抜けちゃうせいか、それにビビった魔物がダッシュで逃げちゃうのですよ。
大玉と一体化してる限り、どうもこの傾向からは逃れられないらしく、オークの群れが猛ダッシュで逃げるのを見た時はマジでへこみました。
ワタシは魔将かっつーの!?
「うん」
立ち止まってちょっと考える。
現実的な話、そろそろこの一体化はしばらく辞めないとマズいとは思う。
魔物を追い散らす行為は魔物の狂奔時に出てくる魔物の大将格とやってる事が同じだから、小規模スタンピードと間違われて討伐軍でも編成されたらコトだ。
もう一体化の慣熟訓練は終わりでイイと思うし、そろそろ魔物がいないと出来ない訓練や実験にも手を付けたいしね。
「でもその前に一休みして食事だよね」
近いと言っても直線距離で十マイル(約16km)以上あるし、山岳森林の道無き道を普通に歩けば丸一日じゃ着かない。
急ぐ旅でも無いから気楽なモンですよ。
ちょうど良い草っ原にぶつかったので、ワタシはインベントリから敷物を出して敷くとそこに座った。
水魔法で手も洗う。
「ふう」
探知魔法もどきに魔物の姿は無いし、天気も良い。
こうしてのんびりしてると、何だかちょっとしたピクニック気分だ。
狩り小屋を始末する前に作ったサンドイッチを腕輪のストレージから出してかぶり付く。
うむ。どうって事の無いモノだけどウマい。
身体を動かしてるからかな。
この身体になって以来、何故かあまり空腹を感じなくなった。
ひもじい思いをしなくて済むのは有り難い話とは言え、ちゃんと成長するのかどうか不安があるから、食べる物はちゃんと食べないとマズい。
このまま三年も五年も成長しなかったら、マジで人前に出られなくなるからね。
魔力症ってヤツにはそのテの話が多いので、そっち系も注意はしておきたいところだ。
サンドイッチを食べ終わって満足したワタシはそのままゴロンとその場で寝転がった。
「ホントにもう、普通の人間じゃ無くなっちゃたんだなぁ」
食事して一息吐いたせいか、何かしみじみとした言葉が口から出ちゃった。
こんな化け物になっちゃった以上、これからの自分に人並みな人生が待ってるとは思えない。
出奔してブロイ家から抜けるのならと、恋とか愛とかにも夢を持ってたけれど、こうなったらそれも望み薄だ。
外見はともかく中身を知れば、誰だってさっきのオークと同じ様に逃げるに決まってるもんね。
「はぁ……」
思わずヘコんで溜め息。
「イカンイカン、そーじゃないだろ!」
即座に上半身を起こし、声を上げて気合を入れ直す。
むぅ、危ないトコロであった。
幾らヘコみ捲くっても何も良く成らないんだし、負の感情に流されて鬱になるのは避けないと不味い。
魔山のド真ん中でそんな余裕ブッこいてたら、あっと言う間にヤられちゃうわ。
それに幼女化の影響を探る為にも、アレの町に行くまでにやっておかないといけない課題は一杯ある。
未だ例の殺し屋のインベントリ内容物だってまともに手を付けてないのに、恋愛事なんて余裕の産物に心を砕いてる暇は無いよ。
「そう言えばあれはどうするかなぁ」
殺し屋のインベントリ内容物と言えば、実は朝起きてすぐに検証をやってはみたんだよね。
しかし思ったより難物だったので、即座に判断可能なブツ以外は全部保留にしちゃったのですよ。
ただその判断可能なブツの中にあった、小さな香水瓶用の箱の中身をどうするかは喫緊の課題と言える。
何しろ中に入ってたのは旧聖王国大金貨だ。
幼女化で服や防具が全く使えなくなった今、新たにそれらを揃えないとならない今の自分にとっては喉から手が出る程欲しい。
さりとて、こんなのどうやって換金すれば良いのだろうか?
仰々しい封かんがされてる実母サマの遺産と違ってバラだからマシとは言え、どうするかね。
「キュッ」
何時の間にやら隣で実体化してたクーちゃんを抱っこして沈思黙考。
そもそも大金貨と言う高額貨幣はそうそう市中に出回ってるモノじゃ無いので、そこらのお店では使おうとしても使えない。
御釣りを用意するだけで大変なんだから当たり前だ。
しかも現行の王家が発行してるブツじゃないとなれば尚更なんだよねぇ。
「一番簡単なのは討伐士協会の支部で割る事だけど……」
討伐士協会は討伐関連以外にも色々な事をやってる。
例えば討伐士協会に登録した人は皆個別の口座を作らされるんだけど、各討伐士はこれを利用して協会にお金を預けたり、逆に借りたり、誰かに送金したりとか出来るのですよ。
一言で言えば銀行業務だ。
これを使えば、他にも定額為替や小切手の発行、各通貨の両替から債権の決済(引受け)まで様々な事が出来ちゃう。
金持ちとか商人とかじゃない一般の人達は銀行業務にほとんど縁が無いのだから、これは凄い事だと言える。
まあ多分、報酬のやり取りを全て現金で用意出来無い事から始まった仕組みだとは思えど、こう言うナイスな制度を利用しない手は無いよね。
なんたって貴族が振り出した手形まで割引(手数料を引いて現金化する事)してくれるので、例え旧聖王国大金貨でも両替して口座に入れられるのは間違い無い。
うん。やっぱりその方法がもっとも無難な選択だよな。
「しかし香水壜用の箱に金貨が入ってたのには笑ったよね、クーちゃん」
取り敢えずの結論を出して声を掛けると、クーちゃんが可愛く鳴いてウンウンと肯いてくれた。
これまた何時の間にやら実体化して肩にとまってたピーちゃんも肯いてくれて笑う。
だってあんな強面の殺し屋野郎が可愛らしい装飾の付いた香水瓶の箱を二つも持ってたんですよ?
最初に見つけた時はマジで笑っちゃったわ。
でも中身が旧聖王国大金貨だったから、これは多分ロッシュとやらから渡った母上の私物だろうと思う。
大金貨箱が香箱と言われる由縁は形や大きさが香水箱に似てるからだけど、それを逆手に取って本物の香水箱に入れるセンスは母上ならではの物だからね。
恐らくロッシュとやらに話を聞かされた際に仲間になった振りをして、足の付き易い旧聖王国大金貨を渡して様子見したんだろうな。
まさかそれがそのまま殺し屋に渡るなんて、考えてもなかったと思うけどさ。
「となると、今頃ロッシュとやらは捕まってて、殺し屋共の件が割れてる可能性が高いな……」
あの腹黒大将な父上と結婚生活を続けていけるだけあって、母上はのんびりした見掛けとは裏腹に結構怖い人だ。
何時も連れてるおっかない護衛騎士達は父上とは関係無い母上の私兵で、ついでにヤバい部隊の一部も直下に置いてるから、暴力的な事柄に関しては例え王侯でもちょっと手が出せない位だしね。
更に陰謀だの謀略だのに忙しい父上に代わって領地経営も差配してるし、由緒正しいお生まれのお陰で宮廷でも派閥を持つ実力者の一人と来た。
そんな人がロッシュ程度の輩を何時までも放って置く訳が無い。
「ピーちゃん、今ワタシを追ってそうなヤツって周囲にはいないんだよね?」
「ピピッ」
殺し屋の件が知れれば、母上は絶対にこの件を腹黒大将の耳に入れる。
そうなったら即座にヤバい部隊に号令が掛かるので逃げに徹しないと不味い。
しょっちゅう家を抜け出してた今までの生活状態から、追っ手が掛かるのは大分後になると思ってたけれど、こう考えてみればそれは甘い考えだよな。
ピーちゃんに追手がいないことを確認したワタシは大玉との一体化を解いて、更に大玉を前の尻尾と同じ様に散らした。
朝から今までやって来た訓練のお陰で、この間ほぼ瞬き二つ分しか掛からない。
「余りのんびりしてもいられないって事かぁ」
もし殺し屋が持ってた大金貨に紐が付いてるのなら、討伐士協会で換金すれば母上に自分の無事を知らせる事が出来る。
殺し屋リーダーが討たれてる事は直ぐ判る話だし、マリア・コーニスの名は母上も知ってるからね。
そうすれば、それを知った母上は逆に腹黒大将の追手を妨害してくれる公算が高い。
うむ。先ずはアレの町の支部で大金貨を換金する事が重要ですな。
ワタシは立ち上がって敷物を仕舞うと、また山岳森林の只中を歩き出した。
本日もこの辺までにさせて頂きます。
読んで頂いた方、ありがとうございました。




