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第十二話:鋼の煌めき、鎮魂の響き

 私は、この山に住まうふくろう。


のりを超えた法。


人がどれほど命を縛ろうとも、風は吹き、種は弾け、心は惹かれ合う。


英雄は、運命という河の流れに身を捧げようとしている。


炎は赤く、鉄は白く。


終焉を告げる響きが、もうすぐ聞こえてくる。


 〈宿場町の鍛冶場〉


 雨は少し小降りに変わっていました。


風も収まり、大名到着の賑わいも落ち着きを取り戻していました。


 その一方、工房の炉は、火が勢いを増し、その熱も最高潮を迎えようとしています。


私は工房の外の冷たい石床の上に跪き、物陰からわずかに漏れる光を見つめていました。中から聞こえるのは、一定のリズムを刻むふいごの音と、時折散る炭の爆ぜる音。


そこには火の熱と冷たい鉄の間で、それらを結びつけるように立つゼンさんの姿が見えます。じっと時を待つその背中が。


 (ゼンさん、あなたの打つ鉄が、どうか……)


私はズイシンから受け取った首飾りを握りしめながら祈り続けていました。


 やがて、あの音が、山門の山に響いていた、あの槌の音が響き始めました。


カァン、カァン、カァン


 「ああ、やはりゼンさんの音だわ」


 私はこみ上げる涙をこらえつつ、ただ祈り続けました。


その音は、黒田様の期待するものとは違っていました。


高く、澄んでいて、どこかこの世のものとは思えないほど軽い。


ゼンさんの後ろ手に立つ黒田様は、高揚感と共にいぶかし気な様子。


 「……これは、聞いたこともない響きじゃ。まさに前代未聞の名刀とはかくも妖しき音から生まれるものか。


しかしあれで、本当に人の命を断つ刃が打てるのか?」


工房の入り口ににじり寄って立つズイシンは、その音に耳を澄ませ、静かに微笑んでいました。


 「……ふふ、あれは命を断つ音じゃねぇ。命を呼び覚ます音だ」


 


 夜が明ける。


一晩中打ち続けたゼンさんがとうとう工房から姿を現しました。


その手には、白布に包まれた「何か」があります。


黒田様が狂喜して詰め寄りました。


 「見せろ! わしが追い求めた、至高の刃を!」


ゼンさんは無言で布を解きました。


そこにあったのは、刀ではありません。薄く、透き通るような青みを帯びた、細く長い数本の鉄箸。


 「なんだこれは……。貴様、わしを愚弄するかッ!」


黒田様の顔が怒りで赤黒く染まります。


ゼンさんは黒田様の目の前にさっとその鉄箸を持ち上げて見せました。


高く掲げられたその鉄箸は上で一つに括られ、ゆらゆらと揺れてぶつかり合います。


 


 リンリン、チリン――チリリリン


 


 ゼンさんはそれを明かり取りの側に吊るしました。


するとその瞬間、夜明けの風が工房を吹き抜け、その鉄箸の音がさらに天に抜けるように鳴り響きました。


その音は工房の戸口を抜け、宿場町の街道を風と共に吹き抜けます。


通りを行き交う人々までもが足を止め、その音色に耳を澄ませます。


 リンリン、リーン


 リリンリリン、リーンリーン


 チリーン、チリーン


 チリリリー――ン


それは刃ではなく、鋼の風鈴でした。


幾本もの鋼がぶつかり合い、聞いたこともない清浄な音色を奏でています。緊張も、恐怖も、長い夜の疲れも、すべてが洗い流されていくような響き。


人々は立ち尽くし、気づけば誰もが柔らかな笑みを浮かべています。


 ただ一人、黒田様を除いては。


 道具箱が激しく蹴り出される音で、皆がはっとしました。


黒田様の殺気が、私と周りにいた全ての人の緊張を引き戻しました。


逆上した黒田様は、法を忘れ、腰の業物を引き抜いたのです。


 「死ね! 役立たずの犬め!」


白刃が閃いた瞬間、私は恐怖で叫び声を上げようとしました。でも、その前に、何かの影が飛んでいくのを見ました。


あまりに一瞬のことで、全てが走馬灯のようでした。


まるで嘘のようで、信じたくないという自分もいて、ただその中央にズイシンが大きく両手を広げて立っていたのです。


 


 「……おのずと、って言ったろうが、旦那」


ズイシンが、ゼンさんの前に立ち塞がっていたのです。


黒田様の刀は、ズイシンの肩から胸を深く切り裂いていました。


鮮血がゼンさんの頬に飛び散り、鍛冶場の床を赤く染めます。


 ズイシンは崩れ落ちながら、黒田様の腕を力なく掴み、ニヤリと笑いました。


 「……これで、終わりだ。これであんたは……ただの、人殺しだ……。


俺もこれで、やっと、鬼退治の役目を果たした……」


 「あ、な、なんと……」


我に返った黒田様は、自分の手が血にまみれ、禁じられた抜刀と殺人を犯したことに気づき、腰を抜かしました。


外では、騒ぎを聞きつけた役人や野次馬の足音が近づいてきます。


 ズイシンの息が絶えようとする中、ゼンさんは静かに彼を抱きかかえました。


私は結界を越え、血の海の中に飛び込み、ズイシンの手を握ります。


ズイシンは、最期に私の顔を見て、満足そうに頷いた。


 「……いい顔だ……お嬢様。……人間、泣いたらまた、笑うんだ……」


彼の命が尽きると同時に、窓辺の風鈴が、ひときわ大きく、澄んだ音で鳴り響きました。

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