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第十一話:自(おの)ずから然(しか)らむる法

〈宿場町の鍛冶場〉


 私は工房の入り口で談笑を続けるズイシンに、目で合図をしてさっと外へ出ました。


ズイシンも見張りに軽く会釈して私のいる方へやってきました。


 


 「……話はついたかい、お嬢様」


 「はい。あの方は、逃げないとおっしゃいました。打つことで、決着をつけると」


私の言葉に、ズイシンは空を仰いだ。その目には、ゼンさんと同様の覚悟を決めた者だけが持つ、澄んだ光が宿っていました。


 「……そうかい。あいつも人間らしくなりやがった。鉄ってのは、叩かれりゃ叩かれるほど強くなる。人間も同じだ。ずっと山門下で埋もれていたあいつが、あんたという火が入って変わったんだ。あんたもそうだ、いい面になった」


 


 ズイシンは、山門の方角を見据えながら、ぽつりと呟きました。


 「草も虫も人間も、この世のものはなんでもだ……『おのずからしからむる』って法には逆らえねえんだ」


 「おのずから、しからむる……」


 「そうさ。無理に曲げようとしたり、型にはめようとしたって、結局はなるようにしかならねぇ。黒田の旦那は、それを自分の力でねじ伏せられると思ってやがる。


だが、そんな不自然な理屈は、いつか必ず音を立てて壊れちまうのさ」


 ズイシンは、懐から手垢のついた手拭いを取り出し、愛刀の柄を丁寧に拭いました。


 「俺は、その『壊れる音』を、特等席で聴かせてもらうとするぜ。


お嬢様、あんたはあいつを見守ってやりな。


あいつが、あいつ自身の音を打ち出せるようにな」


 夜は更けていきました。雨が降り続く中、黒田様が工房に姿を現しました。


その顔には、まるで名刀を手に入れて高揚しながら、卑俗な欲望がどす黒い悦びとなって浮かんでいるようでした。


 「ゼン、火を入れたようだな。


……期待しているぞ。わしを、この太平の眠りから醒めさせてくれるような、至高の白刃を打って見せろ」


ゼンさんは黒田様の方を一瞥もせず、ただふいごを動かし、炎の色を見つめています。


 


 私は、工房の外で、陰に身を潜めて見守っております。


ズイシンが不意に私の前に手を差し出しました。その手には何かが握られています。


 「お嬢様、これを持っていてくだされ。鬼の首飾り、英雄の証でござる。これに念をこめて、ゼンのために、わしの分まで祈ってくだされ」


手渡されたのは草の硬い茎を削り出したであろう玉を、数珠のようにつないだ首飾り。私はそっと頷き両手で握りしめました。


ズイシンは優しく微笑むと、工房の表に立って背筋を伸ばし、いつでも飛び掛かれるような佇まいで中を覗きました。


 「旦那、望み通りに事が運んで、さぞ愉快でしょうな」


工房の戸口からズイシンが声をかけます。黒田様はさっと振り返り、ズイシンを見てにやりと笑いました。


 「一之介か、懲りずに顔を出すとは良い度胸だ。しかし今のお前に何ができるはずもない。大人しくそこで指でも咥えておれ」


そう掻き捨てるように言って、黒田様はまたゼンさんの方へ向き直りました。


 「そう、俺はただ観てるだけだ。あんたのその人たらしめる執念の行く末と、阿弥陀さんが治めるおのずからの計らいの結末をな」


 ズイシンはわかっていたのだと思います。


黒田様が求めている「武力」を、ゼンさんが差し出すことは決してないと。


そして、その「おのずから」の流れがもたらす嵐が、自らの宿命の一部であることを。


「……さあ、いよいよかね。祭りの太鼓とも、笛の音とも違う。この世で一番、贅沢な音が奏でだすぜ」


ズイシンは独りごち、腰の刀をぐっと握りしめました。

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