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最終話:現(うつつ)の世の片隅にて
嵐が去った後の宿場町は、何事もなかったかのように平穏を取り戻していました。
黒田様は、公儀の場での抜刀と殺生という、武士として重い法のりを犯した責を問われ、自らその命を断ちました。
不自然な力で運命をねじ伏せようとした「欲」の終わりは、あまりにあっけないものでした。
ある夕暮れ時。
物語の始まりの場所である、あの静かな山門。
石段には、二人の人影が寄り添って座っていました。
トキとゼン。
トキはズイシンから託されたあの草の首飾りを、大切な宝飾を操るように、指先で静かに撫でています。
ゼンはその横で、石段の先に広がる赤く染まった空を眺めています。
言葉少なの二人の間に静かに流れ込む風。それを受けてかどこからともなく、風鈴の音が山の木々の間に優しく響いてきます。
ゼンは、隣に座るトキを見つめ、穏やかな声で言いました。
「……おのずと、今があり、あなたがいる。ズイシン殿もまた、私たちの胸の中に」
トキは、その言葉に深く頷き、ゼンの肩にそっと頭を預けました。
山は静かに、二人を包み込んでいました。
私は、この山に住まうふくろう。
かつてズイシンと呼ばれ、あるいは、一之介という名の町の英雄だったもの。
(完)




