第80話 やり過ぎのアストラと強がるフェイス
クロス・フロンティア星の東の空に向け、大量のミサイルが撃ち上がっていく。俺が帳簿で把握している数がすべてだとすると、およそ10万発だ。
爆発の閃光によって、まるで昼間のような明るさになっている夜空を見つめ、すさまじい轟音の中、俺はがっくりと膝から崩れ落ちた。
完っ全にやり過ぎた……。
なんで俺は、全弾撃ち込めなんて言ってしまったんだ。
マオをあんな目に合わせたヤツは絶対に許せないが、気が高ぶりすぎていた。
目を輝かせたヘルディナンドの顔が脳裏に張り付く。
俺も所詮はアイツと大して変わらないということじゃないか……。
膝立ちになっていた俺に、泣きながらやって来たマオがひっしと抱きついてきた。
太ももにしがみついているマオを見て、ミサイルをすべて撃ち尽くすという選択が間違いでなかったと思うことにした。
俺はマオの頭を撫で、柔らかい髪の感触を感じながら空を見上げる。
「もう大丈夫だ。なにも心配しなくてもいい。ここにいれば、君が怖がるようなことはなにも起きない。絶対にそんなことは起こさせない」
俺がそう言った時、ミサイルの爆音に混じって、上の方からギリギリという音が聞こえ、足元に赤い液体がポタポタと落ちてきた。
音のする方に目をやると、メリアが俺の後ろを見ながら歯を食いしばっている。
強く握りしめた拳からは、赤い液体が滴っていた。
なんだ? トマトでも握りつぶしたのか?
俺が後ろに目をやると、胸の前で両手を組んだエライアがうるんだ目でこちらを見つめていた。
あぁ、そう言うことか。
俺はエライアに向かって左手を伸ばした。
「エライア」
エライアは、少し肩を揺らすと目を伏せて、ゆっくりと俺の方へ近づいてきた。
後ろから聞こえていたギリギリという音が大きくなって、ギチリギチリに変わった気がしたけれど、多分ミサイルの音がうるさくて聞き間違えただけだろう。
俺は近づいてきたエライアの腕を取り、彼女を引き寄せた。
空ではミサイルが花火のように撃ち上がり続けている。
マオは可愛いもんな。そんな顔になるのも頷ける。
俺はマオを抱き上げ、エライアの腕に託した。
「……へ?」
俺は、なぜか目を丸くしたエライアを見つめた。
「マオを頼んだぞ」
「は、はい!」
俺は、空に閃光で明るく染まり爆音が轟くなか、ミサイル打ち上げにかかった経費を計算するため、倉庫に向かって走り出した。
◇
「何だあれは!? あんな量のミサイルは生まれてこの方見たことがないぞ!」
ブリリアント・フェイス号のブリッジ内に、クロス・ヴァーン帝国第一皇子フェイスの叫声が響き渡った。
ブリッジは突然始まった激しい戦闘——大量のミサイルによる一方的な蹂躙により、喧騒に包まれていた。
目の前で繰り広げられる未曽有の戦闘を目にした、フェイス親衛隊隊長ミグラス・デュソウスは、アストラのあまりの恐ろしさに、額に玉のような汗を浮き立たせていた。
「フェ、フェイス殿下……我々はなんと恐ろしい男を相手にしようとしていたのでしょうか……」
今度ばかりは、フェイスもミグラスと同じような恐怖を感じていた。
全身がブルブルと震え、口がうまく動かせない。やっとのことで絞り出した言葉は震えていた。
「ア、アホトラ……いや、アストラはこんなにも残忍な男だったなんて……いくら敵でも、これはやり過ぎだ……この世に存在していた痕跡すらも残らないではないか……」
「いえ、殿下。おそらく、敵対するものは、その痕跡すらも残してやらないという決意と、我々への見せしめだと思われます」
「くっ……このオレに対するメッセージということか! これ以上嫌がらせをするのであれば、あのように痕跡すら残さず消し飛ばしてやると……」
「えぇ、もう止めましょう。これ以上やると、こちらに向けてミサイルを撃ち込まれます」
「な、なにを言っている。も、もともと、オレはこの輝くブリリアント・フェイス号で、祭りを盛り上げるために来たのだ。嫌がらせなどするつもりは始めからないぞ! 下に降りるんだ!」
「は! 承知しました!」
ブリリアント・フェイス号は機体を輝かせながら、ゆっくりと着陸体制に入った。




