第76話 難民船とアストラ
ズズゥン……!
澄み渡るブルーの空のなか、俺が倉庫の前に立ち、クロス・ヴァーン星からの移民船が変形した街――移民街の隣に着陸する難民船を眺めていると、朝食を終えたエライアがメリアと共にやってきた。
「アストラ様。あれが難民船ですわね。この宇宙に平和と安寧をもたらすためにも、まずはあの方たちに、ここで幸せに暮らせるようになっていただかないといけませんわ」
「あぁ。そうだな」
まさかこの地球から遠く離れた、技術が発達したこの銀河で、奴隷問題に出くわすとは思っていなかった。
いくら技術が発達したとしても、愚かな人間はなくならないということか。
難民船のハッチがゆっくりと開き、中からお揃いの白い服を着た沢山の人々が降りてくる。
皆、肩を落としながら周囲を窺っている。その周囲を恐れているような様子から虐げられてきた人々だということがひと目でわかった。
「エライア。歓迎の祭りは盛大にやるぞ。帝国の財政よりも、あの人達の不安を取り除くのが先決だ」
「さすがアストラ様ですわ。使い所をわきまえておりますわね」
俺は難民船に向かって、歓迎の言葉を上げた。
「皆さん、ようこそクロス・フロンティアへ。この星はあなた達を歓迎します。明日は皆さんを歓迎するお祭りを計画しています。旅でお疲れでしょうから、今日はなにもせずにゆっくりとこの星の生活を楽しんでください」
そのとき難民船から、黒い服を着た初老の男が小さな女の子の手を引き、俺のほうに真っ直ぐやって来るのが見えた。その女の子は無邪気に辺りをキョロキョロと見回している。その姿を見た俺は、地球に残してきた――という表現が正しいかは分からないが――姉の娘、真央を思い出した。年の頃も同じくらいだろう。
実家へ帰るたびに目にしていた、家の中をチョロチョロと走り回っていた真央の可愛らしい姿を思い出した俺は、性に似合わずホームシックになってしまった。
驚くべきことに、初老の男と女の子が近づいて来ると、彼女の顔が真央によく似ていることに気づいた。
ただ、耳は尖っているが……。
その男は目の前までやって来ると、俺の目をまっすぐ見ながら口を開いた。
「この星の統治者、アストラ様ですかな」
「えぇ。私がアストラです。統治者なんて大層なものではありませんがね。倉庫の管理人のようなものです」
その男が恭しく頭を下げる。
「私はバーネルと申します。ムツヴァル星の本来の王位継承者ジョナール・ムツヴァル様より、この子たち難民が幸せに暮らせるようになるまで同行するようにと、命を受けております」
「そうですか。ご丁寧にどうもありがとうございます。私も協力をいとみませんので、何でもおっしゃってください」
俺はそう言うと、視線を落として女の子に微笑みを向けた。
「僕はアストラだ。君の名前は?」
女の子はバーネルの足にしがみつき、彼の後ろに隠れながら小さな声を出した。
「わたしはマオよ」
マオ……。まさか姪と同じ名前だとは……。
驚く俺の様子を隣で見ていたエライアが、首をひねった。
「アストラ様? どうかされましたの?」
「いや、この子の名前が俺の姪と同じでな……しかも、見た目まで似ているんだ」
「まぁ! そのような偶然があるのですねぇ!」
エライアはそう言いながら、マオに向かって微笑んだ。
「わたくしはエライアですわ。よろしくねマオちゃん」
マオは、バーネルの足の後ろから出てきてエライアに抱きついた。
「うん! よろしくね、おねえちゃん!」
俺とはえらい違いだな。だが、それでいい。
「よし! それでは、おねえちゃんと一緒に遊びましょうか!」
「うん!」
エライアと手を繋いで、移民街へ向かうマオの後ろ姿を見ながら、バーネルに話しかけた。
「バーネルさん、あの子も奴隷だったんですか?」
「えぇ、彼女はムツヴァル星の王……ジョナール様の腹違いの弟、バンユー様の奴隷だった女性が産んだ子です。母親は些細なミスにより、処罰を受け亡くなりました」
「そうですか……。もしかしてあの子もひどい扱いを?」
「えぇ……お恥ずかしいことに、そのとおりです」
説明を聞いていた俺は、いつの間にか奥歯を強く噛み締めていた。
その俺の後ろでは、メリアがエライアの後ろ姿を見つめ、「尊いわぁ」と呟きながら目を輝かせていた。




