第75話 ミサイルの使い道と難民船
「きれいな、まるなのよ」
難民船の窓から外を眺めていたマオが、エメラルドグリーンのクロス・フロンティア星を見てそうつぶやいた。その声を聞いた初老の男が窓を覗き込む。
「おぉ、綺麗な星ですなぁ」
男の名は、バーネル。ムツヴァル星の王姉ジョナール・ムツヴァルの忠実な家来だ。
バーネルは、難民船を無事にクロス・フロンティア星に送り届け、奴隷だった人々が幸せに暮らせるようになるまで責任を持って同行するようにと、ジョナールから命を受けていた。
「マオ様、もうそろそろ大気圏に突入しますよ。座ってシートベルトを締めましょうね」
「はい。わかりました、バーネルさん」
マオはそう言うと、椅子のところまでとてとてと走っていく。椅子に飛び乗り、シートベルトに手を伸ばした。
「バーネルさん、たいへんなのよ。シートベルトにてがとどかないのよ」
「どれどれ……」
バーネルは、マオのところに歩いていくと、彼女が手を伸ばしている先にあるシートベルトを手繰り寄せ、マオの肩に掛けて固定した。
「バーネルさんありがとう!」
バーネルは黙って微笑むと、隣の席に座り、シートベルトをつけた。その直後、船体がわずかに揺れ始めるのを感じた。
「マオ様。少し揺れますが、地面に着くまでの辛抱ですよ」
◇
皇帝と皇后は、エライアと一緒に、移民街――クロス・ヴァーン星からの移民船が変形してできた街――の最上階の部屋で、メリアが給仕する朝食を楽しんでいた。
テーブルの上にずらりと並べられた原色のプロテインバーをひと目見て、食欲を1ミリも刺激されなかった俺は、「祭りの準備に集中しなければならない」と食事の誘いを丁重に断った。
俺がザッツと2人で祭りの準備をしていた。俺は紙を切って輪っかを作り。ザッツは豆腐にろうそくを立てて続けている。プロテインブロックよりは豆腐のほうが幾分かマシだ。
――あとでシロップをかけよう。俺がそう考えていたとき、突然倉庫内にクラウザーム・ヴァイロン号から、聞き覚えのある雑音混じりのヘボい声が響いた。
副艦長ヘルディナンド・ボイルの声だ。
『アストラ様、船が大気圏に突入してくるのを捉えました! ジジッ…… 敵襲ですかね!? ミサイルを全弾撃ち込みましょう! ザッ……』
「やめろ! すぐに全弾撃ち込もうとするんじゃない! いま使っていいミサイルは大量にあるが、そういうことじゃないんだよ」
『ザーッ……でも、ブルータスに相談したら、全弾撃ち込みましょうって……! ザッ……』
「お前、少しは自分で考えろよ。そういうのを、認知的降伏って言うんだぞ。AIを使いすぎて、考えることをやめてしまっているんだ」
『ジィィッ……では、どうすればいいかご指示を! ザザッ』
俺まかせか? 結局考えないのかよ……。
仕方ない。もう少し育つまで面倒を見てやるしかないな。
「相手が何者なのか確かめたのか?」
『いえ、ザッ……まだです!』
調べてから連絡してこいよ。多分、タイミング的にムツヴァル星からの難民船だろう。撃ち落としでもしてみろ、大変なことになるんだぞ。
「……確かめてからじゃないと、対処方法を決められないだろ?」
『そうか!? ザザッ…… そうですね! すぐに確かめます!』
ヘルディナンドは、そう言うと無線を切った。静かになった倉庫内で、俺は祭りの準備に思考を戻した。
「ったく……あいつはすぐにミサイルを撃ち込もうとしやがって……。ミサイルか……そういえば、あの古いミサイルをどう利用するかな……使用期限も切れてるしな」
そう呟いたとき、脳内にエライアの言葉がリフレインした。
――「盛大な花火なんかいいのではないですの?」――花火? そうか。どうせ使い道のないミサイルだ。1万発もあるんだから、一部を花火代わりに打ち上げてもいいかもしれないな。
よし、盛大に10発くらい打ち上げよう。
俺がそう考えたとき、再度ヘルディナンドから無線が入った。
『アストラ様! ムツヴァル星からの難民船だと確認が取れました! ミサイルは撃ち込まなくて正解でした!』
「やはりそうか。では、出迎えに行こう。倉庫まで誘導してやってくれ」
『アイアイサー!』
俺は、倉庫の外へ向かうのであった。
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いつもお読みいただいてありがとうございます。
ミサイル1万発で40兆と書いていましたが、4千億の間違いでしたので遡って修正しました。
単純な計算ミス(汗)
引き続きお楽しみください。
よろしくお願いします。




