第70話 地下室の股間とフェイスの質問
ブルータスの股間により暗闇が照らされたが、股間の光は地下室全体を把握できるほどの明るさはなかった。
地下の様子が少しわかった程度である。
まぁ。股間だから仕方ない。
地下室は想像以上の広さがあった。
しかし、股間の明かりで広さがわかる程度なので、倉庫全体に広がっているわけではないのは確実だ。
「なぁブルータス。もっと明るくはならないか?」
【ライトを伸ばせば明るくなりますが、伸ばしましょうか?】
「ライトを伸ばすだと? 股間の? 冗談じゃない! そんな最悪のビジュアルを拝まされてたまるか! そんな最低の機能を付けた、お前の設計者は誰なんだ? 俺の知っているやつか?」
【ザッツさんですが?】
ザッツ……。ザッツだと?
俺の脳裏に、ニヤけながら工具を眺めているザッツのふざけた顔が浮かんだ。
あんの、馬鹿野郎! 悪ふざけがすぎる!
たしかに、ブルータスを初めて見たとき、ザッツだけは全く驚いていなかったな。
そのとき、俺の腕にしがみついていたエライアが俺を揺らした。
「アストラ様、底が見えてきましたわよ」
俺が下を見ると、確かに何かが見えた。
しかし、それは平坦な床ではなく、円柱状の物体がたくさん敷き詰められているように見えた。
どう見ても床ではない。
下に下りるにつれ、その正体が明らかになっていった。
ミサイルだ。
「やったぞ! ついに見つけた! ミサイルは本当にあったんだ!」
俺はエライアの肩を掴んで歓喜の声を上げた。
「ちょ、ちょっとアストラ様。近い……近いですわぁ!」
◇
クロス・ヴァーン帝国第一皇子のフェイスは、専用戦艦ブリリアント・フェイス号のブリッジ内で一番高い位置に備え付けられた最高級デザイナーズチェアに深く座り、『特集。スペーススーツのオートクチュールショー4026年秋冬』と書かれたファッション誌を読んでいた。
「あとどれくらいで着く?」
この質問は戦艦に乗り込んでから10回目だ。
ちなみに、戦艦に乗り込んだのは10分前である。
フェイスの隣に控えていた親衛隊隊長のミグラス・デュソウスがスッと跪く。
「はっ! あと3日ほどでございます!」
「そうか」
このやりとりもまた10回目であった。しかし、フェイスも馬鹿ではない。さすがに10回目ともなれば、おかしなことに気づく。フェイスはミグラスを睨みつけ、凄まじい剣幕で怒号を飛ばした。
「先ほどから全く変わっておらぬではないか! ワープでも何でもいい! あと5分で到着するようにしろ!」
ミグラスが跪いたまま、さらに頭を低くした。
「は! では、エネルギーをワープ航法に使用するため、電飾を止めます!」
「待て! ……電飾は、このブリリアント・フェイス号にとって、命同然――何よりも大事だ。止めてはならん」
「は! それでは通常航法のまま進みます!」
「よかろう」
驚くべきことに、このやりとりも10回目なのである。
ミグラスが立ち上がり、フェイスの隣で自分の爪をじっと見つめていると、フェイスがファッション誌を手にしたまま大きな声を出した。
「で? あとどれくらいで着く?」
このままではキリがないことを察したミグラスは、跪きながらフェイスにある提案をした。
「は! あと3日ほどであります! 殿下、いつもの特製ドリンクをお飲みになりませんか?」
「ん? あぁ、そうだな。では飲むとしよう。すぐに持ってまいれ」
ミグラスが手を叩くと、親衛隊の部下がサッとフェイス特製ドリンクを手にやってきた。
ミグラスは、フェイスに見えないように自分の背中で隠しながら、手から粉末を出してドリンクに混ぜた。
「殿下。こちらをどうぞ」
「うむ。皆がお前のように優秀ならどんなに快適に過ごせるだろうな」
「は! そのようなお言葉、私にはもったいありません!」
フェイスが一口特製ドリンクを飲むと、気を失うように眠りに落ちた。
「よし! これで殿下はあと3日は起きないぞ! クロス・フロンティアに向けて進むことだけに集中するのだ!」
「アイアイサー!」
ブリリアント・フェイス号は宇宙空間を滑るように、静かに進んでいくのであった。




