第66話 エライアと喧嘩するアストラと優秀なブルータス
「なんでこんなことをしたんだよ」
俺は、なぜかフリルの付いたビキニ水着を着て目の前に正座をしているエライアに問いかけた。
エライアはうつむいたままだ。
正直、目のやり場に困る。
俺はオイルまみれのジャケットを脱ぐと、エライアの肩にふわりと乗せた。
「だって……アストラ様がいけないのですわ。勝手にコンテナの扉を開けたままにしておくから……」
「答えになっていないだろ。なんで俺がいけないんだよ。お前が廃オイルをぶちまけたんじゃないか」
エライアは頬をぷくっと膨らませると、キッと俺をにらみつけた。
「ですから、わたくしはコンテナの天井を切り離し扉をしっかり閉めて、ちゃんと準備していたのです! アストラ様が扉を開けなければ、こんな廃オイルを無駄にしてしまうことにはならなかったのですわ!」
「廃オイルが無駄になる? 廃オイルなんてどうでもいい。トイレットペーパーのほうが100倍重要なんだよ! 俺はなんでこんなことをしたのかって聞いているんだ。コンテナの屋根を勝手に切り取るんじゃない!」
「泳ぎたかったのです!」
「……へ?」
「わたくしは、コンテナに廃オイルを満たして、廃オイルプールで泳ぎたかったのです!」
「おまっ……なんだその変態的な欲求は……」
エライアはオイルまみれの床の上ですっくと立ち上がった――と思ったら滑って転んだ。
ズテッ!
「エライア、大丈夫か!?」
エライアに近づこうとした俺もまた、足を滑らせて転んだ。
ズゴォ!
エライアは、床に這いつくばったままの体勢で、床にへばりついている俺をにらんだ。
「変態ではありませんわ! アストラ様も全身にオイルを浴びてわかったでしょう! オイルの魅力が!」
「わからん! 1ミリもわかってたまるか! ベタベタで気持ち悪い!」
「なっ……! 可哀想な御方ですこと」
「俺を憐れむな! おかしいのはお前だ!」
そう叫んだ次の瞬間、俺は違和感を覚えた。
おかしい。床にぶちまけられたオイルの量が減っている。
「わたくしはおかしくなんか――」
「待てエライア!」
「待てって、いったい――」
「しっ! 静かに!」
俺は人差し指を口に当ててエライアを制止すると、ヘルメットをとって床に耳をつけた。
液体が流れる音が聞こえる。
「やっぱりだ。ここの下に地下室があるぞ!」
「地下、室?」
ブルータスに向かって指示を出そうとした俺は、あることに気づいて一瞬止まった。
そういえばロボットの姿だから、すっかり忘れていた。AIには役割を与えるのが重要だったんだ。
俺はブルータスに役割を与えて指示を出した。
「おい、ブルータス! えっと、お前は流体力学の専門家だ! その専門的な知見を活かしてオイルの流れを分析してくれ! おそらく、オイルが流れていく中心が地下室への入口だ!」
【分かりましたアストラ。流体力学の専門家としてオイルの流れを分析します。オイルは粘性が高いので、ナビエ・ストークス方程式を使用して分析します】
ん? ナビエ? なんだかわからんが期待できそうだ。やはり役割を与えるのは重要なんだな。次から気をつけよう。
ブルータスの額にある丸いマークがぐるぐると回り出し、そのぐるぐるがすぐに止まった。
【解析完了しました、アストラ。流れの中心はあのコンテナの下です】
「そうか! だから見つからなかったんだ!? ブルータス! あのコンテナをどかしてくれ!」
【私は流体力学の専門家です。力仕事には向いていません】
「いや、やれよ!」




