第64話 ムツヴァルの作戦とブルータスの損失計上
「クックック。ドラダイル殿の敗因は、事前に動きを察知され、アストラとかいう男に手を打たれてしまったことです」
銀河連邦加盟国ムツヴァル星の若き指導者――バンユー・ムツヴァルは、司令部から自国のムツヴァル星へと帰る戦艦の中で、グラスを傾けながら独りごちた。
「それならば、動きを察知されていても問題ないように攻めればいいだけのこと……クックック。今から楽しみですねぇ」
バンユーはグラスを一気に呷ると、コンソールパネルの前にいるレーダーオペレーターに指示を出した。
「今すぐ、母星のドックへ連絡してください。これから言う戦艦を全て出撃準備させるのです」
◇
俺が静まり返った倉庫内で棚卸表とにらめっこをしていると、体長3メートルの2足歩行型AIロボット、ブルータスが近づいてきた。
ザッツは相変わらず、引き出しからスパナを取り出して拭いて眺めてしまう、という無益な行動を繰り返していた。
【アストラ。処理が終わりました】
「ん? 唐突にどうした? なんの処理だ?」
俺のその言葉を聞いたブルータスは、その巨躯の両手をスッと上げると、ゆっくりと首を振った。
【はぁぁ……棚差の損失計上に決まっているではありませんか。あなたの指示ですよ?】
「おま、馬鹿野郎! 調査が終わるまで待てと言ったじゃねぇか!」
【『待て』なんて命令されていませんよ? あなたは『適切に処理するんだ』と言ったのです。こちらには録音データがあります。間違いありません】
「俺は『調査させてから』と言っただろうが!」
【いえ、あなたは『調査させる。適切に処理するんだ』と言ったのです。調査させるのがあなたの仕事で、処理するのが私の仕事ということでしょう?】
なにを言ってやがる。そんなのただの解釈の違いじゃないか。
お前は憲法を都合の良いように解釈する日本の政治家か!?
「……もどせ」
【はい?】
「損失処理をする前にもどせ!」
【システム上できません】
システム上できない? そんなわけないだろう。キャンセルくらいはできるはずだ。
納得できない俺は食い下がった。
「入力したやつをキャンセルするだけだろう?」
【いえ、それはできない仕様です】
「そんなふざけたシステムあるかぁ!」
【あるのです。できません】
1回入力してしまったらキャンセルできないシステム? そんなシステム、まるで俺がいた会社みたいじゃねぇか!
いや、何か手はあるはずだ!
「それなら、逆に計上すればいいんじゃないか?」
【それは違法です。できません】
「お前さっきから出来ませんの一点張りじゃねぇか! 壊れたレコードかよ!」
【レコードというものがなんなのかわかりませんが、できませんったらできません】
俺は、ガックリと膝から崩れ落ち、床に両手をついた。
呼吸が浅い。目の前が霞む。なぜだ……なぜだなぜだなぜだ! なぜだぁぁ!
俺は高々と腕をあげ、そのままの勢いで拳を床に叩きつけた。
ぺち!
痛った……! 床が硬すぎる、拳が痛い……。
「くそぉぉぉぉ! せめて、ミサイルのありかの心当たりとかなかったのかよ! 隠された地下室とか、そういうの……」
【それでしたら、倉庫の奥の床に薄い部分がありますよ。地下室があるかもしれません】
それを聞いた瞬間、俺は何も考えられなくなった。
「な、なん、だと……もっと、早く言えよ!」
【地下室について聞かれませんでしたので】
「この、ポンコツAIがぁぁ! その場所に案内しろ!」
俺は、スパナセットを磨き続けるザッツを置き去りに、ブルータスに案内をさせて倉庫の奥へと進んでいくのであった。




