第63話 フェイスと親衛隊
「クハハハ! アホトラめ! オレのこの超絶エレガントな戦艦を見て驚くがいい!」
クロス・ヴァーン星の宮殿に隣接しているドック内に、帝国第一皇子フェイスの高笑いをする声が響き渡った。
フェイス専用の戦艦ブリリアント・フェイス号は、スンダーザルツ銀河の辺境にあるクロス・フロンティア星へと向かうため、出発準備を急ピッチで進めていた。
フェイスは、無駄に飾りが付いたやたらと高級そうな椅子に、足を組んで座っている。
ブリリアント・フェイス号の乗員は全てフェイスの親衛隊で構成されているのである。
クロス・ヴァーン帝国におけるフェイス親衛隊の役割とは、フェイスのご機嫌取り。すなわち、戦闘と操艦のプロフェッショナルとはお世辞にも言いがたい素人たちの集まりである。
「早くしろ! できる限り早く出撃準備を整えるんだ!」
やたらと濃い顔をした色黒の男――親衛隊隊長ミグラス・デュソウスは、そう部下に怒号を飛ばすと、フェイスの足元にひざまずき深く頭を垂れた。
「申し訳ございません、フェイス殿下。1年ほど出撃していなかったもので、準備に手間取っておりまして……」
フェイスは、椅子に座ったまま片眉を上げた。
「あぁ、あと5分だけ待ってやる。急がせろ」
「は! かしこまりました!」
ミグラスが手を叩くと、部下たちが巨大な時計を引きずってきて、針を5分の位置にセットした。
ミグラスは部下にだけ聞こえるように耳元で囁く。
「あとどれくらいで終わるんだ?」
「は、おそらく10分はかかるかと……」
「では、12分に調整しろ」
「かしこまりました」
部下は、時計の裏側のダイヤルをまわし、12分かけて針が5分進むように調整した。
それを確認したミグラスはフェイスのほうに向き直り、部下に持ってこさせた最新のファッション誌をずらりと並べたマガジンラックを手のひらで指し示した。
「殿下。それではこちらの時計を5分にセットしました。お待ちいただいている間、ファッション誌をご用意いたしましたので、こちらをご覧いただければと」
「よしわかった。皆お前たちのように優秀であれば、銀河連邦軍などすぐに全滅させられるんだがな」
「は! ありがたきお言葉! 痛み入ります!」
フェイスは、時計をちらりと見るとファッション誌を読み始めた。
出撃準備と時計を見守りながら、ミグラスは急いで部下にお茶の準備を指示するのであった。
◇
ちょうど同じ頃、クロス・フロンティア星への移住希望者を乗せた船が、クロス・ヴァーン星を飛び立っていた。
それは、通常の戦艦などとは、まったく構造が違う船であった。
移住先に住居などが整備されていないケースが多いため、移住先で快適に暮らすための住居スペースや娯楽設備、生活必需品を扱う店舗などが全て整えられた、移民用の専用船である。
その船の最上階に位置する部屋には、ある重要人物が乗り込んでいた。皇帝エグゼウス・ヴァーンと皇后レイア・ヴァーンだ。
「向こうに着いたら、エライアちゅあんとパーティーをしよう」
「あまりはしゃぎすぎないようにしてくださいね。あなたは、すぐ皇帝という立場を忘れて、ネットの掲示板に書き込んでみたり、周りの目も忘れて『エライアちゅあん!』とか叫んだりするんですから。少しは威厳というものを――」
「そんなこと、わかっとるよ。お前はいつも厳しいな」
「わかっていないから言っているのです!」
「ま、まぁ到着するまでには3日はかかるだろう。とりあえず、皇帝だとバレないように変装したし、しばし旅を楽しもうではないか」
船は宇宙の暗闇の中を音もなく進んでいくのであった。




