第60話 移住募集と棚卸
【銀河の掃き溜め掲示板 実況スレッド】
621:名無しのスタートルーパー
おい、知ってるか? クロス・フロンティア星への移住者募集が出てるぞ。
622:名無しのエイリアン
あぁ。オレもちょうどいま見つけたところだ。
623:名無しのオペレーター
クロス・フロンティア星って、たしか大気が毒だっただろ?
624:名無しのエイリアン
死にに行くようなもんじゃねぇか。まじカシオペア
625:名無しの司令官
≫624 クロス・フロンティアはエライアたんが頻繁に行っているらしいぞ
626:名無しのエイリアン
≫625 マジで!? オレ移住考えようかな?
627:名無しのスタートルーパー
≫626 決断ワームホールwww
628:名無しのスタートルーパー
≫626 お前、やめとけって。死ぬぞ
629:移住を考えてる626
≫628 エライアたんと一緒に死ねるなら本望だ!
630:名無しのエイリアン
いや、最近大気の浄化に乗り出したらしいぞ
631:名無しのスタートルーパー
≫630 応募してきまスター。クロス・ヴァーン星の生活疲れたんだよね。
どこでも仕事はできるし、大気が問題ないなら、自然が多い場所のほうがいいわ。
632:名無しのエイリアン
エライアたんも生で拝めるみたいだし、オレも移住しようかな
633:名無しの皇帝
≫631 マジでうらやましい。わしはクロス・ヴァーン星じゃないと仕事できないんだよな。エライアちゅあんの近くで仕事したい。
634:名無しのエイリアン
≫633 いまどきそんな仕事あるんだ。ブラックホールだな。
635:633の皇帝
≫634 仕方ない。わし皇帝だし。
636:名無しのエイリアン
≫635 皇帝騙るなwww通報しまスター
◇
クロス・フロンティア星の倉庫に戻った俺は、ふらふらの頭でARディスプレイを起動し、メールで送られてきた棚卸表を映し出していた。
(メリアのヤツめ、メイドなのになんであんな戦闘用の機体を手足のように操れるんだよ! しかも、帰りはさらに運転が荒くなりやがって……。俺になんの恨みがあるっていうんだ……)
そんな俺の隣では、相も変わらずオイルまみれでヌルヌルのエライアが、ブルータスとお茶を楽しんでいた。
「エライア。カップを滑らせないように気をつけろよ。火傷するぞ。あとブルータス。お前はロボットのくせにお茶を飲むな」
「アストラ様、これはお茶ではなく油ですわ」
【そうですよ、アストラ。ロボットと姫が油を飲むのは、誰でも知っている常識ですよ】
「常識でたまるか! 油を飲むな!」
もうこいつらの相手はしないで、仕事に集中しよう。
俺は、イライラしながら棚卸表をスクロールしていく。
長い……。帝国軍すべての棚卸表だ。長くて当然なのではあるが、それにしても長すぎる……。
そうだ。ブルータスに読み込ませて分析させれば早いじゃないか。
「なぁ、ブルータス。お茶をしているところ悪いんだが、この棚卸表の分析を頼めるか?」
【え? アストラ。あなた本当に周りが見えていませんね。私はいま仕事中ですよ?】
「なに言ってんだよ。俺はずっと見てたぞ。お前、ずっと休憩中じゃねぇか」
【はぁぁぁぁ……。まったく……。下等な有機生物はこれだからイヤなんですよ。私の内部で最高級の演算装置が、高速で情報を処理しているんですよ? それくらいわかるでしょ】
「見えないからわからねぇよ! で? いったい何を処理しているんだ?」
【見ればわかるでしょ? エライア姫との会話を処理しているんです。いまはあなたとの会話もマルチタスクで処理中ですがなにか?】
「そんなもん仕事とは言わねぇんだよ! 今すぐ分析を開始しろ!」
【まったく……。AI使いの荒い人ですね。で、どの表ですか?】
俺はARディスプレイを指差した。
「ここだ、このフォルダに入ってる」
【あぁ、このスプレッドシートはダメですね。5000行を超えると、私のメモリがはち切れます】
「5000行って少なすぎるだろうが! 中小企業はおろか、個人事業主だってそれ以上のスプレッドシートを使っているんだよ!」
【最高ランクのプランにすれば1億行まで読めるようになりますよ】
「最高ランクだと? いくらだ?」
【月額3万ヌールです】
「高い! もういい! 俺が自分でやる!」
俺は棚卸表の品番列にカーソルを合わせて「Ctrl」キーと「↓」を押した。
表の途中でカーソルが止まる。品番が空白だ。
「くそっ、なんで品番に空白があるんだよ……」
【プランをランクアップしたらどうですか?】
「うるさい! 邪魔するな!」
繰り返しやってみるが、何回やっても途中でカーソルが止まる。仕方がないので、品目列でやってみたが、結果は同じ。
「なんなんだ、ちゃんと整理しろよ」
【ランクアップすればやってあげるのに】
「くどい!」
俺がぼやきながら在庫金額列にカーソルを合わせて、同じことをやってみると、ようやく最終行にたどり着いた。
長かった。全部で約9000万行。
しかし集計行がない。
「まったく……これだから帝国の奴らは……集計くらいしておけよ」
俺は在庫数量列にオートSUMをかけ、合計数を計算した。
そこに表示された数は、約3000億。在庫数の桁がデカすぎてよく分からない。
次に在庫金額の合計を出した。
えっと……いち、じゅう、ひゃく、せん……。
約1000兆ヌール。流動資産の多さに目眩を覚えた。
「それで? 棚卸の差額は……」
棚卸差異金額の合計を計算した俺は、そこに表示された数字を見て、自分の目を疑った。
「マイナス120兆ヌールだと!? ふざけんな! どうやったらこんなに差額が生まれるんだよ!」
俺は差額を昇順に並べ替える操作を行った。画面上にあのグルグルが表示される。
これで一番上に表示されるものを探すだけでも、かなり差額を減らせるだろう。
あとは差額が0のものだけ非表示にして、上から順に目視で確認していくしかない。
フィルターを掛けたあとに、全9000万行からどれくらい減るかが勝負の明暗を分ける。
俺がそんなことを考えている間もグルグルは消えない。
まぁ、行数が多いからな。
待てよ。『上から順に』と思ったが、表の下の方には、逆に膨大な金額のプラスがある可能性もある。
上と下を両方とも確認するべきか。
上のマイナスのものは実物を探しだせば済む話だが、下のプラスはどう処理したらいいのだ?
過剰な在庫を捨てるわけにもいかない。
――十分後。
スプレッドシートがふっと消えた。
「俺の時間を返せぇ!」




