第57話 迫りくる艦隊とアストラの攻防
「総員戦闘準備を始めろ!」
銀河連邦軍の主力艦タイフーン・ジェニュイン号のブリッジ内に、司令官ドラダイル・ゲイターの大声が響き渡った。
ドラダイルが出した指令は、すぐに艦隊にも伝えられ、全ての戦艦が戦闘準備を始めた。クロス・フロンティア星はもう、目と鼻の先だ。
勝利を確信したドラダイルは、アストラにとどめを刺す場面を想像しながら、目と唇を醜く吊り上げた。
「どうやら杞憂だったようだな。アストラのやつに策などない。このまま圧倒的な数で捻り潰してやろう! 今から始まるのは、戦闘などではない。一方的な蹂躙だ! ぐわはははは!」
まるで悪魔のようなドラダイルの顔を見た部下たちが、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そのとき、小さな光がドラダイルの目に飛び込んできた。
「なんだあれは?」
クロス・フロンティア星の向こう側に見えたその光は、またたく間に増殖し、まるでクロス・フロンティア星の表面を覆う膜のように見えた。次第に形が見えてくると、それは大量の宇宙船だということがわかった。
「ドラダイル司令! 大変です。クロス・フロンティアの向こう側から大量の船がやって来ています!」
「そんなことは見ればわかる! どれくらいいるんだ!?」
「か、解析の結果、船の数は約100万!」
「ひゃ、100万だとぉ!? アストラめ! そんな数の戦艦をどこから集めたんだ!」
ドラダイルが驚くのも無理はない。クロス・ヴァーン帝国の全戦力は精々800隻程度のはず。
そして、たとえその数を保有していたとしても、連邦軍の作戦を事前に知らなければ、100万もの戦艦を呼び寄せることなど不可能だ。
慌てるドラダイルに、同僚の司令官から無線連絡が入った。
『ドラダイル、ダメだ。あれだけの数で備えられていたら無理だ! 作戦中止だ。引き返すぞ!』
「ここまできて引き返せるか!」
『引き返すんだよ! あんな所に突っ込んで行ったらひとたまりもないぞ! それくらいお前にだってわかるだろ!』
ドラダイルは、目の前のコンソールパネルに拳を叩きつけた。
ダァン!
「くそぉぉぉぉ!」
◇
「面白かったですわぁ」
長かったメロドラマがようやく終わった。約30分、全身に力を込めて首を固定していた俺は、もう肉体的に限界だった。肩が凝った。首と背中と腰が痛い。俺は老人か?
「ふぅ……。これでやっと昼寝ができる」
俺が寝る準備に入ったとき、天窓から見える空に、たくさんの小さな黒い点があらわれた。
(なんだ? 羽虫か……? いや、違う!)
そうだった。完全に忘れていた。ある意味、現実逃避は効果があったということか……。いや、落ち着いている場合じゃないだろ!
あれは銀河連邦軍の艦隊だ。くそぉ。俺の人生もここまでか! コンタポイント使いたかったな……。
生命の危機と、コンタポイントへの慕情に満たされた俺が、空を見上げていると、黒い点がさらに増殖した。
(え? 多すぎん?)
その数は1000や2000ではきかない。おそらく数万はある。連邦軍の艦隊は確か1200だったはずだ。その数を遥かに凌駕している。
連邦軍の艦隊が更に増えた? もうどれくらい増えようが結果は一緒だろ。終わりであることに変わりはない。よし、急いで逃げよう。
俺の胸にそんな思いが芽生えたとき、いつの間にか望遠鏡を構えていたメリアが空を見上げながらブルブルと震えだした。
「ア、アストラさんは……まさか、初めからこれを想定していたということですか?」
ん? なんだ? こんな絶望的な状況を想定しているはずがないじゃないか。想定していたらとっくに逃げているんだよ!
そう考えている俺を置いてきぼりに、震え続けているメリアが話し続ける。
「こ、こんなことが可能だとは!? 恐れ入りました! さすが〝クラウス・クロス将軍の遺志を継ぐ知将〟です!」
おい! またかよ? 何がなんだかわからないが、持ち上げられるのは気持ちがいいのだ。俺はとりあえず濁した。
「あぁ、まぁな……そういうことだ」
「銀河連邦軍の大艦隊襲来を予測し、トイレットペーパーを大量注文するなんてこと、誰にも考えつきませんよ! マーカリアンの輸送船をこちらの戦艦に見せかけるなんて!」
え? あ、あぁ……。え!? まじで!? そんなことあんの!?
九死に一生を得た。ラッキーだな。
っていうか、配達指定は明日にしていたはずじゃねぇか! 休日にあんな大量の荷物を届けやがって!
まさか、休日返上で大量の荷物を整理しないといけなくなるとは……。
「よし。これから忙しくなるぞ! 荷物の受取準備だ!」
俺は、プロジェクターで映画を見だしたエライアとメリアをおいて、急いで荷物の受け取りに入口へと向かうのであった。




