第58話 メリアと皇帝
月曜の朝。朝食を終えた皇帝がナプキンを襟元から掴み取りながら、前に立つメリアを見つめた。
「まったく想像がつかん。いったいなにがあった? 詳しく説明してくれないか?」
「はい。私が見たことを、全て包み隠さずお伝えします」
メリアは、体の前で両手を組みながら、昨日の出来事を説明し始めた。
昨日、私は転移装置で倉庫へと向かったエライア様を、自分専用の装甲突撃機『ソニック・エリンジューム』で追いかけました。
いえ、転移装置で一緒に移動しなかったわけは、万が一のとき、『ソニック・エリンジューム』が手元にあったほうが、エライア様を守りやすいと判断したからでございます。
私が倉庫へ着いたちょうどそのとき、倉庫内にアラートが鳴り響き、エライア様がアストラさんと一緒に、コンテナから出てきたのです。
えぇ、私もその可能性は考えたのですが、エライア様はそのときバフ粉まみれでした。
あとから知ったことですが、エライア様は、新たに手に入れた液体コンパウンドの使い心地を、見えにくいところ……。すなわち、アストラさんのコンテナ内でお試しになっていたそうです。
少し脱線してしまいましたね。今になって思えば、あのコンテナから出てきたときから、アストラさんは妙に落ち着いていたような気がします。おそらく、すでに手を打っていたからでしょう。
コンテナから出てきてからすぐに、AIブルータスの音声が聞こえました。
ブルータスから、銀河連邦軍の1200隻もの大艦隊がクロス・フロンティア星に向かっていると聞き、私は大いに取り乱しました。軍人だったとはいえ、そこまでの数の艦隊は、見たことはおろか聞いたこともありません。
しかも、休日のため、こちらの戦力はゼロ。普通の人間であれば取り乱すのが普通です。
ところが、アストラさんは一切慌てることなく、天窓の近くに陣取り、地上から状況を観察し始めたのです。
エライア様もご立派でした。よほどアストラさんを信頼しているのでしょう。一切慌てることなく、皇族としての威厳を保たれておりました。
それから数十分が経ったでしょうか。私は大艦隊のことが気になり、天窓から望遠鏡で状況を窺っておりました。
近づいてくる大艦隊にフォーカスを合わせて見ていると、目と鼻の先まで来ていた大艦隊が、突然引き返していきました。
驚いた私が、なにごとかと周囲を確認すると、大艦隊の反対側から、連邦軍よりも数十倍多い船がやってきていました。
新手かと、震えながらしばらく確認していたところ、その船の正体が分かりました。
それは、マーカリアンの輸送船でした。
「なぜ?」ですか? それは、アストラさんが事前に用意していたのです。
どのようにやったかは存じませんが、アストラさんは、事前に大艦隊の襲来を察知していたようです。
そして、その大艦隊を追い返すための策として、マーカリアンでトイレットペーパーを大量発注していたのです。しかも、到着日を大艦隊の襲来日に合わせて設定したのです。
恐るべき先読み戦略です。そして、トイレットペーパーの大量注文も、経費削減になるという、2段仕立ての高度な策でした。
それを知ったとき、恐怖で震えていた私の体は、別の感情で震え始めました。
メリアが話し終えると、皇帝は静かに頷いた。
「なるほど。敵をして『蒼煌の流星=パニック・メテオール』とまで言わしめたお主に、そこまで言わせるとは……。アストラ君はやはり素晴らしい人材だな。彼に相応の役を与えねばなるまい」




