第56話 アストラの対処方法
ビュイィーン!! ビュイィーン!!
倉庫内にアラートが響き渡る。
急いでエライアと一緒にコンテナから出ると、外にメリアがいた。
俺とメリアの視線が交差したその瞬間、メリアの表情がみるみる間に鬼のような形相に変わった。
「アストラ! 貴様! 密室でエライア様に何をした!」
「何もしてないわ! エライアのバフ粉まみれの姿を見ればわかるだろうが!」
俺がそう叫んだとき、倉庫内に館内放送(?)が流れた。クロス・ヴァーン帝国の最強AI、ブルータスの声だ。
【銀河連邦軍の艦隊が出現しました。進行方向を解析したところ、目的地は99.98パーセントの確率で、このクロス・フロンティア星です。艦隊の数およそ1200。あと48分16秒で到着する予定です。間もなく到着。ママも泣く泣く父ちゃん食う。うぷぷぷぷっ】
「ホラーなダジャレやめろやぁ!」
っていうか、やばいな。どうすりゃいいんだ。今日は休日。ザッツはいない。俺はクラウザーム・ヴァイロン号に無線を繋いだ。
「おい! ヘルディナンド! 聞こえるか!?」
……。
誰か出ろよ! あいつら、いっつもそうだ。呼びかけられているのが自分じゃないと、無視しやがる。
【アストラ。今日は――】
「なんだ、ブルータス。くだらないダジャレなら聞く気はないぞ! 今忙しいんだ!」
俺は再度呼びかけた。
「おい! 誰かいないのか!? 誰か答えろ!」
……。
…………。
………………。
「なぜだ? なぜ誰も応答しない!?」
【アストラ。今日は休日なので皆休みですよ?】
「全員休みだと!? 戦争中だぞ!? 交代制シフトにしてないのか!?」
【今の時代、そんなことしたら求人に人が集まりませんよ。私も休みなんでまた寝ます、起こさないでくださいね】
「あ! おい! ちょっと待て!」
【ぐぅ……】
「ブルータス! お前もかぁ!」
ちくしょう! どうする!? どうするのが最適だ!? 考えろ! 考えるんだ! 考えれば、きっと答えが見つかるはずだ!
そのとき、俺の脳裏にある考えが浮かんだ。
そうか。これしかない。俺は、近くにいるエライアとメリアの方を振り向いた。
「エライア、メリア。ちょっと手伝ってくれ」
◇
『私たち、もうおしまいなのね……』
『あぁ……なにを言っているんだ、マイハニー。そんなわけないじゃないか。ジュ・テーム』
俺のARディスプレイが、三流のメロドラマを映し出している。
倉庫の天窓から暖かい陽光が差し込む、ロフトのような部分に俺たちはいた。
天窓の近くなので、ロフトというよりも展望台のような高さだが、それもまた一興。
ビーチチェアを3つ並べて置き、ビーチパラソルも設置した。これで完璧だ。完璧な現実逃避体制が整った。
もうどうにでもなれ。
エライアは、真ん中のビーチチェアに座り、なんだかよくわからない、毒のような見た目のブルーの飲み物を手に、メロドラマに釘付けになっている。
俺がその左隣で、二度寝と洒落込もうと思ったとき、右端のメリアが大きな声をあげた。
「アストラさん!? こんな事していていいんですか!? ピンチなんでしょ!?」
「いいんだ。銀河連邦艦隊のことは気にするな」
「だ、だって! 奴等がこっちに――」
「メリアさん、アストラ様が大丈夫と思っているなら問題ありませんわ。アストラ様を信じて、いまのこのドラマを楽しみましょう」
「エ、エライア様がそう仰るのであれば……」
よし。寝るか。俺が寝ようと、枕の位置を整えていると、エライアが俺に向かって大きな声を出した。
「アストラ様! いまいいところなのですから、頭を動かさないでください! 画面が揺れて見づらいですわ!」
「あ、あぁ……すまない」
しまった……。プロジェクターにしておくんだった……。
俺は、微塵も興味がないドラマが終わるまで、昼寝することはおろか、身じろぎひとつすることも許されず、ジッと息をひそめ続けるのであった。
「こ、腰が痛い……」




