第53話 ドラダイルの決意と銀河方式の栽培
銀河連邦軍の司令官ドラダイル・ゲイターとムワルグ・ゾーンは、司令部のカフェテリアで夜遅くまで次の作戦を考えていた。
戦場が銀河全域に広がっているいま、対処しなければならないことは山ほどある。連邦軍に約1500人いる司令官が束になってかかってもこなしきれないほど、戦況は苛烈を極めていた。
ドラダイルは、拳を固く握り締めていた。
「いまのところは、どの戦場も連邦軍が優勢。あとは、あのアストラの野郎が守っているクロス・フロンティア星周辺さえ抑えれば、この戦争は勝ったようなものだ」
「おい、ドラダイル。もうアイツには関わらないほうがいい、他の戦場に意識を向けろ」
「ムワルグ。お前はなぜそこまでアストラを恐れる? お前はそんな臆病者ではなかったはずだ。なにがお前を変えてしまったんだ!?」
ムワルグとドラダイルは、士官学校の同期。若い頃からいくつもの死線を一緒に越えてきた。
ムワルグは今まで、どのような厳しい戦場であろうと勇敢に戦ってきていた。ドラダイルは、変わり果ててしまったムワルグを見ているのが我慢できなかった。
ムワルグは、あのときのことを思い出しながら、ブルブルと震え始めた。
「ドラダイル、お前はアイツを直接見ていないからそんな事が言えるんだ……。アイツは……あの悪魔は!」
「ムワルグ、落ち着け!」
「命知らずのあの悪魔は! 真っ赤に染まったブリッジの中で、自らの命もかえりみずに、笑みを浮かべながら体当りしようとしてきたんだぞ!? 今でも毎晩夢に出てくるんだ!」
ムワルグの前のテーブルに、一粒の水滴がポトリと落ちた。奥歯がガチガチと音を立てている。
「毎晩、ベッドに入って……目を……閉じると……あの悪魔の、ヘルメットの奥に隠された……恐ろしい目と、不気味な微笑みが……瞼の裏に浮かんでくるんだ……毎晩毎晩毎晩毎晩! 毎晩だ!」
ドラダイルは、ムワルグの様子を見て、奥歯をギリッと噛み締めた。
「ムワルグ、お前の不安はオレが消し去ってやる」
「やめろ、ドラダイル! アイツとまともにやりあったら命がいくつあっても足りないぞ!」
「大丈夫だ。見ていろ、ムワルグ。オレがアイツに引導を渡してやる」
ドラダイルはそう言い残し、カフェテリアを出ていった。
◇
「栽培ってこんな感じだったっけ……?」
俺は、倉庫のコンテナ内に作られた栽培スペースを眺めていた。
目の前には、想像していたものとまったく違う、狂気じみた栽培風景が広がっていた。
ずらりと並んだ奇妙な生物――牛の前半分に足1本を接着剤でくっつけたみたいな、まるで3歳児の工作物のような雑な造形の、三つ目で三本足の生物――そのお尻に、例の植物がぶっ刺してあった。
「ツッコミどころが多すぎて、どこから手を付けたらいいものか……」
俺がツッコミどころに頭を悩ませていると、そのお世辞にも可愛いとは言えない生物が鳴き声をあげた。
「ボエェェェェ!」
「お前は、どこかのガキ大将かよ」
「ボエボエェェェェ!」
「うるさい! リサイタルすんな! おい、ヘルディナンド。これはいったい、どういう原理だ?」
「あれ? アストラ艦長は、この可愛らしい動物〝ゾゲロ〟をご存じありませんでしたか? これはですね。〝ゾゲロ〟の生態を利用した、栽培方法なんです。〝ゾゲロ〟はクロス・フロンティア星の大気とほぼ同じ成分のガスを、定期的にお尻から排出するんです」
要するに〝毒のおなら〟だな。生態も名前も見た目もすべて、〝可愛らしい〟要素は皆無だぞ。
「で? どれくらいで育つんだ?」
「そうですね。3日もあれば充分ですよ」
「3日だと!? 随分早いじゃないか!」
「ゾゲロの出すガスは、この星の大気の10倍の濃度ですからね」
「猛毒じゃねぇか!? そんなもん倉庫内で飼うなよ!」
「大丈夫ですって。全部ノーティティスが吸い込みますから」
ヘルディナンドがそう言ったとき、ゾゲロがけたたましく鳴き始めた。
「ボエエエェェェェェェ!!!」
鳴き声と同時に、お尻から緑色のガスが出る。
ブボォォォォ!!
「やべぇじゃねぇか! 逃げろ!」
ヘルディナンドと一緒に慌ててコンテナを出ると、急いで扉をガチャリと閉めた。
「ふぅ、危なかったですね。まさかあそこまでとは……」
ヘルディナンドが、安堵のため息をついたとき、反対側のコンテナからゴトリッと、なにかが落ちる音が聞こえた。
「ん? なんだ? あのコンテナは空だったはずだが……?」
俺がコンテナを開けてみると、やはり何もない。ということは、コンテナの向こう側から聞こえてきたということか。
不審に思った俺が、コンテナをよじ登り、向こう側へ行ってみると、そこはコンテナに囲まれた隠しエリアだった。
「こんな場所があったのか……」
隠しエリアには、エライアが分解した小型機が置かれていた。
「前よりもさらに分解が進んでいるじゃないか……」
よく見ると、小型機の陰に隠れて、エライアがなにかをしているのが見えた。メリアがその傍らで、いつものようにうっとりとエライアを見つめていた。
「エライア、お前なにやって――」
話しかけようとすると、エライアが急に慌て始めた。エライアの目の前には巨大な六本足のロボットが置かれていた。
「ア、アストラ様!? なぜここが!? こ、これは違うのです! 小型機からパーツを取ってなんか――」
そのとき、隣のメリアが口を挟んだ。
「エライア様は、『小型機を直していたのです』と仰せだ」
「嘘つけ! 騙されんぞ!」
進化していくエライアの趣味という悩みの種が増えた。




