第52話 フェイスの企みと、節約のまとめ買い
「クックック。バカなヤツめ! 何度でも差し戻してやるぞ!」
顔面偏差値だけは無駄に高い帝国の第一皇子フェイスは、口の端を吊り上げながら、クロス・ヴァーン帝国の皇帝一家が住む宮殿の自室で、ひとりほくそ笑んでいた。
「アホトラのヤツは、どういうわけか、オレの動きを察知して、ちょうどいいタイミングで父上を近くに呼び寄せていやがる」
フェイスは、自分が何度も皇帝に怒られたのは、アストラが先に手を回していたからだと思い込んでいた。
「オレだってバカじゃない。そう何度も同じ手は食わんぞ。父上にバレないように、ネチネチと細かいところからコツコツと嫌がらせをしてやる! まずはこの申請からだ。どんな申請だろうが、たっぷり2週間寝かせておいてから、難癖をつけて差し戻してやる! アホトラには、トイレットペーパーも鉛筆も1ミリだって買わせはしないぞ!」
そのとき、目の前に置いてある小型デバイスから「アホアホッ」という通知音が聞こえた。アストラからの申請だ。
「なになに? 『宇宙空間でボールペンは使えません』だと? そんなことはわかってるんだよ! この再申請も2週間寝かせてやる。お前のようなアホな原始人には、鉛筆すらもったいない! 石を使って、石板に下手くそな絵でも刻み込んでいるがいい! クックック」
フェイスは、さも嬉しそうに残忍な笑みを浮かべながら、ずらりと並んだアストラからの申請欄を見つめた。
「次はなにを差し戻してやろうか? ウェットティッシュか? いや、このクリアファイルか? この付箋紙は……まだ申請から2週間たっていないな」
そのリストを眺めていたフェイスの目がキラリと光った。
「これだ。この『トイレの消臭剤』にしよう。なになに? 購入理由は『トイレが臭いため』だと? 理由が不明瞭だな。ちゃんとどのような臭いなのか書いてもらわねば、本当に必要なのか判断できないからなぁ! クッ! フハッ! フハハハハッ!」
◇
右手にバケツ、左手に雑巾を持った俺は、うず高く積み上げられたコンテナを見あげながら、途方に暮れていた。
「ザッツ。お前……100段も重ねやがって、上のほうに入れたものは、どうやって取り出すつもりだ?」
「ん? マグネットシューズがあるじゃないか」
「な……! お前なぁ、マグネットシューズで、垂直に登れるわけないだろうが。マグネットは横にズレる力には弱いんだよ。覚えとけ!」
「じゃあ、マジックテープでも貼り付けとくか」
「そうだな。バリバリッと安っぽい音を立てながら……って、んなことできるかぁ! さらに費用をかけようとするんじゃねぇ!」
俺は、右手に持っていたバケツを床に叩きつけ――ようとして、すんでのところで思いとどまると、左手に持っていた雑巾を床に叩きつけた。
ベチョオォ!
危なかった。バケツを壊すところだった。
「おっ、新しくノリツッコミってやつを覚えたようだな」
「うるさい! なにかいい方法を考え出してやる!」
俺がそう叫んだとき、ヘルメットから通知音が聞こえた。ARディスプレイを起動して確認すると、またフェイスからの差し戻し通知だ。
「また、たっぷりと2週間放置しやがって。もう、いい加減慣れてきたぞ」
なになに? 『購入理由が不明瞭だ。どのような臭いか書け』だと?
あのアホ皇子め。ふざけやがって。これじゃあなんにも買えないじゃないか。
どうせ、再申請してもまた差し戻すつもりだろう。
「なぁ、ザッツ。俺の申請システムにはバグがあるらしい。悪いが代わりに申請してもらえないか?」
「ん? あぁ、いいぞ? なにを買いたいんだ?」
「全部、消耗品だ。これからリストを送るよ」
俺は、2週間前から申請で止まっている物品のリストをザッツに送ろうとする手を止めた。
「……待てよ? いまは確か、セール中でトイレットペーパーが安くなってなかったか?」
現在、ネットショップ最大手のマーカリアンで、新生活応援セール中。俺がサイトを確認すると、トイレットペーパーは10パーセント割引になっていた。さらに、ポイントが5パーセント付くのだ。
俺はARディスプレイでスプレッドシートを開くと、早速計算を始めた。
「業務用の芯なしトイレットペーパー300メートル巻きシングルを一人が三日で1ロール使うと仮定すると……」
クロス・ヴァーン帝国軍の人数が約一千万人。
1年分で144ロール入りが845万箱だ。
そして、一箱5695ヌールが、今だと5126ヌール。一箱あたり569ヌールの削減だ。
「よし。1年分、845万箱買おう」
「え? いいのか?」
「あぁ。実は前から考えてたんだが、倉庫に入らないから諦めてたんだ。今の倉庫なら格納できる。それに、今週なら約48億ヌール安くなるうえに、ポイントも2億以上つくんだ」
「よしわかった。すぐに稟議書を作成しよう」
ザッツがさっそく稟議書の作成に取りかかったとき、ヘルディナンドが倉庫に入ってきた。
「アストラ艦長。あの植物は〝ノーティティス〟という植物でした」
「それで、大気との関連性は?」
「あの植物は、このクロス・フロンティア星の大気を養分にして成長するようです。吸ったあとは、無害な空気を吐き出します」
「なるほど。素晴らしい! では、この倉庫の周りで栽培しよう」
あの植物が生い茂れば、この倉庫の周りにも人が住む集落ができるかもしれない。
俺は、コンビニ誘致への期待に胸を躍らせるのだった。




