第49話 連邦軍の新兵器と溢れるアレ
ガッション! ガッション!
俺の目の前で、ヘルディナンドがガニ股で歩き回っている。歩き方の練習だ。
「なぁ、ヘルディナンド。だいぶ慣れてきたみたいだな」
「えぇ。アストラ艦長も、なかなか堂に入っていますよ」
「そうだろう? やればできるもんだ。いつまでもシステムに頼り切っていてはいけないんだよ。このようにアナログな方法こそが、戦略として効果的な場合も多いんだ」
俺がもっともらしくそう説明した。まぁ、経済的に効果的な戦略ってだけだがな。
「さすがアストラ艦長であります! あなたの先見の明には、いつも脱帽させられます!」
「そ、そうか。お前にも、このくらいのことは、すぐにできるようになるさ」
自分のことながら、適当なこと言ってやがるなぁ……。
普段使わない筋肉を使っている感覚がある。明日はきっと筋肉痛がくるだろう。
そのとき無線から地上の倉庫にいるザッツの声が聞こえた。
『アストラ、マグネットシューズの使い心地はどうだ?』
「あぁ、最初は歩きにくかったけど、だいぶ慣れてきたところだ。ずっとガニ股だけどな」
『わははは。そりゃあ傑作だ――キィィィィン』
ブリッジ内にハウリング音が響き渡った。
うぉ! うるさい! 手元のコンソールでスピーカーのボリュームを限界まで落とすと、ハウリング音が収まった。
「このまま、クロス・フロンティア周辺を一回りしたら戻ろう。そうしたら今日のマグネットシューズのテスト運用は終了だ」
「御意!」
◇
タイフーン・ジェニュイン号のブリッジに、レーダーオペレーターの声が響き渡った。
「ドラダイル司令、発見しました! 十一時の方向にクラウザーム・ヴァイロン号がいます! こちらには気づいていません!」
「ふはははっ! 油断しているな! すぐに新兵器の発動準備だ! 突撃準備も開始しろ! 新兵器で怯んだ隙に突撃するぞ!」
「「「アイアイサー!」」」
ドラダイル・ゲイターは、因縁の相手――クロス・ヴァーン帝国の知将にして狂人、アストラ・アエットをクラウザーム・ヴァイロン号もろとも海の藻屑へと変える場面を想像しながら、口の端を吊り上げて醜い笑みを浮かべた。
「アストラめ! 今日という日を記念すべきお前の命日にしてやろう! ふはっ! ふははははっ!」
「発動準備が完了しました!」
「よぉし! 発動させろ!」
「アイアイサー! 重力無効化電波発動!」
タイフーン・ジェニュイン号を中心に、目に見えない電波が放出される。
「これで奴らもおしまいだ! 重力を失い、制御不能になったクラウザーム・ヴァイロン号など、タイフーン・ジェニュイン号の敵ではないわ! 奴らに無線を繋げ! 奴らの悲鳴を聞きながら、恐怖心を煽ってやろう!」
レーダーオペレーターが無線を繋ぐと、クラウザーム・ヴァイロン号のブリッジ内の音声が聞こえてきた。
『ガッション! アストラ艦長! 大変です!』
「ふははははっ! 奴ら慌てておるわ! アストラよ! 聞こえるか!」
『トイレが逆流し始めました! ガッション!』
「トイレ……? 無視するな! おい!」
『なんだと!? とりあえず、トイレの扉を封鎖しろ! このまま進むぞ! ガッション! ガッション!』
「おい! 聞こえないのか! 制御不能になっているんだろ!? おい!」
『トイレは封鎖しました! ガッション! なんで溢れたんだろ?』
「おい! アストラ! 聞こえてるんだろ! その変な音はなんなんだ!?」
『ガッション! 戻ったらトイレを掃除しろ! 消毒も忘れるなよ! ガッション! ガッション!』
「ドラダイル司令! ダメです! あいつら、何事もなかったように普通に飛んでいきます!」
「くそぉ!! 今日のところは撤退だ! 新しい作戦を立てて出直すぞ!」
「ア、アイアイサー!」
◇
ガッション! ガッション!
「なぁ、ヘルディナンド。なんでトイレが溢れたかわかるか?」
「さぁ? こんなこと初めてです」
「仕方ない。戻ったらトイレを吸引式に変更してくれ」
多少コストはかかるが、トイレの重力発生装置も解約できるから、長い目で見たらそっちのほうが安いだろう。
俺たちは、トイレを我慢しながらクロス・フロンティア星へと戻るのであった。




