第43話 皇帝の呼び出しと急を要する命令
「やぁ、アストラ君。久しぶりだな」
「お久しぶりです。皇帝陛下。遅くなってしまい申し訳ございません」
俺は皇帝の玉座でひざまずいていた。
「よいよい。君も忙しいだろうからな。君の活躍はヘルディナンドから聞いておるよ。この間も、敵の待ち伏せを事前に察知し、見事に撃退したそうじゃないか」
事実とは異なるが、まぁおおむね近しい内容だから良しとしよう。
「はい。なんとかやっております」
「ところで、そのときにメリアが君のことを〝スケコマシ〟と呼んでいたようだが、何のことかな?」
そう言った皇帝の顔が、急に険しくなっていた。なんでよ。俺、何もしてないし……。メリアの勘違いですけど!? よし、とりあえずごまかしておこう。このくらいの世代なら、新しい若者言葉ということにしておけば大丈夫だろう。
「あぁ、それは、ネットスラングですね。えっと、〝すごい身のこなし〟という意味らしいですよ。私も今日メリアから聞きました」
それを聞いた皇帝の顔が、急にパァッと明るくなった。
「なるほど! 〝スゲェ身のこなし〟で〝スケコマシ〟か! ワシも今度使おうっと!」
マジか……。適当にそれっぽく言えば、なんとかなるもんだな。
「それはそうと、クロス・フロンティア星は知っているな?」
クロス・フロンティア? そういえば、ヘルディナンドがそんな名前を言ってたな。守りが薄いとかなんとか。
「はい、帝国の宙域で、守りが薄い地域の星ですね」
「うむ。今回呼んだのは、あの辺りの守りの強化も兼ねて、補給倉庫クロス・フロンティア星支店長をしてもらいたいと思ってな」
「それは、もしや……」
「うむ。もちろん、艦長と戦術顧問と兼務だ」
「し、しかし、今の補給倉庫から外れると、業務が回りませんが……」
俺がそう言うと、皇帝がニヤリと口の端を吊り上げた。
「わかっておる。そこで、補給倉庫ごとクロス・フロンティア星に移転させるのだ。幸い、あそこには前に使っていた倉庫があってな。少し片付ければまだ十分現役で使えるだろう。サイズも今の倉庫の10倍だ」
それは支店とは言わねぇだろ! 本店の移転だ!
「10倍ですか。それはなかなか広いですね。承知しました。それで、移転はいつごろを予定しているのでしょうか?」
「3日くらいで移動してもらいたい。あちらの防衛にもかかわるのでな」
……3日って、さすがに無理があんだろ! 上の人間ってヤツは、いっつもそうだ。現場のことがまるっきりわかってない!
いや、しかしやらなければならないのが辛いところだ。
「し、承知いたしました。それではすぐに準備に取りかかります」
俺はそう言うと、踵を返して倉庫へ帰った。
◇
倉庫に着いた俺は、すぐにザッツに引っ越しの話をした。これだけの大規模な倉庫だ。梱包する荷物が多すぎるし、電気などのインフラの契約もすべて切り替えなくてはダメだ。大急ぎで準備を進めなくてはならない。
「おい、ザッツ! 大変だ! 皇帝からの命令で、倉庫を移転することにな――」
俺がそう言いかけたとき、ザッツはまったく驚く様子もなく、かぶせ気味に答えた。
「あぁ、知ってるぞ」
「え? なんで知ってるんだ?」
「1ヶ月くらい前に、皇帝から連絡が来てたんだ」
「何でもっと早く言わないんだよ!」
「ん? 1日もあれば準備できるだろ?」
「できねぇよ! 引っ越ししたことないのか!?」
「引っ越しくらい、何度もしたことあるぞ。荷物をまとめるだけだから、だいたい1日で終わるだろ?」
「自分ちと一緒にすんな! 普通は自分ちだって1日じゃ準備し足りねぇんだよ! 3日後には移転しないといけないんだぞ!」
「大丈夫だって。なんとかなるさ」
くそっ! 楽観的すぎるんだよ!
俺は、大急ぎで荷造りをはじめた。
いや、終わらねぇよ! なにか、なにか方法があるはずだ! 考えろ!
引っ越しの荷造りをしながら、方法を考えていたとき、脳裏に突然「ザッツが誤発注した磁石の有効活用」と「重力発生装置の削減」の2つの問題を解決する、画期的なアイディアが浮かんだ。いま解決したいのはそっちじゃないんだが、まぁ良しとしよう。
「そうか……。そうだよ! なんだ! いっぺんに解決できるじゃないか! でかしたぞザッツ!」
「なんだ? 急にどうした? 変なものでも食べたか?」
「まぁ、ネジは食べたが……って、そうじゃない! ザッツ、すぐに作ってほしいものがある!」
俺はザッツに詳細を説明すると、ヘルディナンドに無線をいれた。




