第40話 ザッツとメリアの病状
「メリアさん、楽しかったですわね!」
「そうですね、エライア様!」
(お前らは楽しかっただろうが、俺には地獄だったぞ……)
俺たちは、クラウザーム・ヴァイロン号から小型機に乗り換えて、補給倉庫へと向かっていた。そろそろ到着だ。
小型機が補給倉庫の二重ハッチ内へと静かに滑り込む。そして、降りた俺たちをザッツが出迎えた。
「よぉ、アストラ。遅かったな」
「あぁ、大変な目に遭ったよ。こんなトリプルワークはやはり無理があるな。今日はもう帰っても大丈夫か?」
「いや、まだ出荷準備が終わってないぞ」
「マジかよ……。頑張ってリスト作ったのに残業確定じゃないか」
俺が出荷準備を始めようとしたとき、メリアがザッツを見ながら固まっているのに気がついた。
俺の視線を追ったザッツと、メリアの視線が交差する。
「もしかして……。ザッツ兄ちゃん?」
「あれ? お前、もしかしてメリアか?」
「やっぱり! 久しぶりね!」
「あぁ、ガキの時以来だな。元気だったか?」
ザッツのその言葉を聞いた俺は、目頭を押さえた。いや、ザッツ……。残念だが、メリアは病気でもう長くないんだ……。
「見ての通り、もちろん元気よ」
メリアがそう答えたとき、エライアが呑気に口を挟んだ。メリアは当然エライアにも、残された時間が短いことを教えていないのだろう。
「お二人は、兄弟なのですか?」
「あ、いえ。兄弟ではなくて、小さい頃に近所に住んでいたので、よく一緒に遊んでいたんです。ザッツ兄ちゃんはガキ大将で、いっつも近所の子どもたちを引き連れて遊んでて――」
なるほど。ザッツの小さいころが目に浮かぶな。そのころのまんま大きくなったような感じじゃないか。
エライアが両手をパチンと合わせ、興奮しながら口を開く。
「楽しそうですわね! いつもどのようなことをして遊んでいたんですの? わたくしは、小さいころ同世代の子どもと遊んだことがございませんので、興味がありますわ!」
「そうだなぁ……。油が流れる川で、ロボットフィッシュを捕ったり、硫酸の海のネジ浜で綺麗なブルーの硫酸銅を拾ったりしてたな」
育った環境、地獄じゃねぇか! なんだその化学物質のデパートは! もっと普通の自然はないのか!? 毒物だらけだろうが!
涙をこらえながら内心でツッコミを入れている俺。そんな俺などお構いなしに、二人の思い出話は次々と進んでいった。
「そうそう、ザッツ兄ちゃんってば、捕ったロボットフィッシュが、『錆びてて食べられねぇな』とか言うんですよ。もともと食べられるわけないのに……。ほんとバカなんだから」
「お前だって、『ネジ浜で綺麗なネジを拾うんだ』って、身体中に磁石を括り付けてきて、全身ネジまみれになって、動けなくなってたじゃねぇか」
「油の流れる川に、ネジ浜ですか!? 最高な環境ですわね!」
まぁ、お前はそうくるよな。わかってた……。
俺は、三人が会話しているのを横目に出荷準備を始めることにした。
「さて、俺は出荷準備を始めるよ。ザッツ、積もる話もあるだろ? 先に帰っていいぞ。後は俺に任せろ」
「え? いいよ、俺も一緒にやるって」
「いや、今日はいいから、メリアと思い出話に花を咲かせておけよ」
ザッツ、お前は知らないが、メリアには残された時間が少ないんだ……。
できるだけ親しい人たちと一緒に楽しく過ごしてもらいたいんだよ。
「そうか? じゃあ、今日はこれで帰るぞ。後はよろしくな」
ザッツはそう言いながらメリアたちと倉庫の入り口に向かって歩き始めた。
「ところでメリア。お前、なんでそんなにオイルまみれなんだ?」
「これはエライア様にかけられたのよ。最初は〝血〟だと思って、死を覚悟したわ」
え? ……ちょっと待て! 「もう長くない」って、そういうことか!? ちょ、くそっ! 今さらやっぱり手伝えなんて言えないじゃねぇか!
俺が一人で焦っていると、エライアが走って戻ってきた。
「アストラ様、今日は楽しかったですわね。これ、差し入れですわ! それではまた明日!」
エライアが半ば強引に渡してきた袋の中を覗くと、そこにはあの食べられるネジと、レンズと、鉛筆、そしてなんだかよくわからない機械部品が入っていた。
全部いらねぇよ!




