第37話 電磁パルスとトライアングルの脱出方法
銀河連邦軍のサイクロン・ドログリー号のブリッジ内で、司令官のムワルグは頭を抱えていた。たったいま、タイフーン・ジェニュイン号に向けて放たれた兵器の威力が、無線で知らされたのだ。
「たまたま狙いが外れた? いや、そんなはずはない。〝外れた〟のではなく〝外した〟のだ。奴はわざと外すことで、我々に恐怖を与えて楽しんでいるんだ! アイツは我々をいたぶるためなら、ミサイルだろうとなんだろうと、コスト度外視で撃ち尽くすような狂人なんだ!」
ムワルグがそう言ったとき、目の前が青白く淡い光に包まれた。
「うぉぉ! なんだこれは!?」
◇
その頃、タイフーン・ジェニュイン号の中では、ドラダイルが高笑いを上げていた。
「ふははははっ! 奴め、外しやがったぞ! あのエネルギー量だ、そうやすやすと何発も撃てはしまい!」
そう叫ぶドラダイルの視界に、信じられないものが映った。先ほどとは違う、靄のような青白く淡い光。その淡い光の層にタイフーン・ジェニュイン号が包み込まれる。
「な、何だこれは!」
「大変です! 計器が全て狂い始めました! 先ほどの光は、どうやら電磁パルスのようです!」
「なんだと!? ま、まさか!? あの野郎は初撃をわざと外して、その威力を見せつけておき、電磁パルスで目と耳を塞ぐことで、さらなる恐怖を味わわせて、我々が震える姿を楽しんでいるのか!」
「こ、このままでは、グルザーム・トライアングルに引き込まれます!」
「くそぉ! 狂った軍師め! 退避だ! すぐに、この宙域から退避しろ!」
タイフーン・ジェニュイン号は、出力全開で退避行動を開始した。
◇
「さて……。グルザーム・トライアングルから抜け出さないとな」
俺は、グルザーム・トライアングルからの脱出方法に頭を悩ませていた。そもそも総務一筋だった俺に、そんな専門的なことわかるはずがないんだよ!
車が雪道で動けなくなった場合は、タイヤが空転しないように、毛布をタイヤの間に敷けばいいと聞いたことがあるぞ?
戦艦の下に毛布を敷けば、あるいは……。
錯乱状態の俺が、わけのわからないアイディアに頭を悩ませているとき、エライアがいる方から、「バリンッ」という音が聞こえた。なんだ? 何の音だ?
「メリアさん! レンズも美味しいですわね!」
おま、ネジの次はレンズかよ……。お煎餅感覚ってわけか? 呑気だな、お前は。
「レンズを食うな……。このトライアングル、スイングバイで抜け出せないのか……?」
俺が呆れてそう呟いたそのとき、俺の隣にいたヘルディナンドが、突然大声を上げた。
「〝連続・トライアングル・スイングバイ〟ですと!? なるほど、素晴らしいです! まさか、そんな手があったとは!」
へ? なに言ってんのコイツ?
「連続でスイングバイを行うなんて、誰も考えつきませんよ! αとβ、そしてγの3つの恒星でスイングバイを繰り返し、加速の乗算をすることで脱出するというお考えですね!」
そんなこと考えてない!
しかし、俺は、いつものように流れに身を任せることにした。平穏に暮らしたい俺の座右の銘。〝行雲流水〟ってヤツだ。
「ん、あぁ。そうだ、いけるか?」
「すぐに軌道計算を始めます!」
「あぁ。頼むぞ」
俺は、計算が終わるまでの間で、補給倉庫の出荷準備を始めることにした。
スキマ時間の徹底的な活用。それが定時退社を目指すためのテクニックだ。
しかし、だ。そもそも俺とザッツの二人だけで補給倉庫の運営は無理があるだろ。しかも兼務だ。キツいって。
欲しいものがあったら、各々が倉庫に取りに来るシステムに切り替えてやろうと、固く決意しながら、ARディスプレイを起動した。




