第34話 怒りのドラダイルと時空のゴミ箱
連邦軍が誇る主力艦タイフーン・ジェニュインのブリッジで、太った中年の司令官、ドラダイル・ゲイターが大声を上げていた。
「あのやろう! 無線を切りやがったぞ! 自分が置かれている状況も分かっていないのか!」
その声を受信していたもう一人の司令官――サイクロン・ドログリーのムワルグから無線が入った。
『おい、ドラダイル。あの男――アストラを甘く見ないほうがいい。あんな恐ろしい男はそうそういないんだ!』
「ふん! 怖気づきやがって! 貴様にプライドはないのか! そもそも、この圧倒的な戦力差を見ろ! まんまと我らの策にはまりおって! ヤツが我々連邦軍に勝てる可能性など、万に一つもありはせんわ!」
ドラダイルはそう叫ぶとすぐに、オペレーターに指示を出そうとした。
「全速前進! 目標はクラウザーム・ヴァイロン号だ! すぐに宇宙の塵へと変え――」
しかし、ドラダイルがそう言い終える前に、レーダーオペレーターが悲鳴を上げた。
「た、大変です! クラウザーム・ヴァイロン号が、クールトン星を利用してスイングバイを行い、ものすごい速度で、グルザーム・トライアングルに向かって真っすぐ突き進んでいます!」
「グ、グルザーム・トライアングルだと!? 正気か!?」
グルザーム・トライアングル。そこは、三つの恒星が複雑に踊る領域だ。
その恒星の影響により空間が歪み、今まで数多の船が行方不明になっている〝時空のゴミ箱(地獄のシュレッダー付き)〟だ。
自ら飛び込むなど正気の沙汰ではない。
「全艦に連絡しろ! グルザーム・トライアングルの手前で停止し、敵艦の出方を窺うんだ!」
◇
クラウザーム・ヴァイロン号のブリッジでは、タクティカルオペレーターが、俺に報告を上げていた。
「プラズマ・ウェーブ・キャノンの準備が整いました! 恒星に近づけばいつでも発射できます!」
報告が終わると、ヘルディナンドが慌てたように口を開いた。
「アストラ艦長! 本当にこのまま、グルザーム・トライアングル内に入るおつもりですか!?」
「当たり前だろ? 恒星に近づかないと撃てないんだから、入らないと意味がないじゃないか」
「た、確かにその通りですが……」
なんだ? いつになく歯切れが悪いな。
俺がそう思ったとき、ブリッジの入り口が開いた。エライアとメリアだ。
「なんだエライアか、もう見学は終わったのか?」
「えぇ、おかげさまで楽しませていただきましたわ!」
「それは良かった。これから、グルザーム・トライアングルにある恒星の近くまで行って、プラズマ・ウェーブ・キャノンを撃つ準備に入るところだ。おとなしく見てるんだぞ」
俺のその言葉を聞いたメリアが、目を見開いた。
「な、グルザーム・トライアングルだと!? スケコマシ、貴様正気なのか!?」
スケコマシって呼ぶな。なんにもコマしとらんわ。
「ん? あぁ、そうだ。それがもっとも効率的かつ合理的だからな(経済的にな)」
「メリアさん、アストラ様に任せておけば大丈夫ですわ! なんと言っても、〝スケコマシ〟ですから!」
(エライア、拳を握りながら誇らしげに言う言葉じゃないんだよ。お前絶対意味わかってないだろ)
「そ、そうですか……。エライア様がそう仰るのであれば……」
俺はブリッジの扉付近にある、一番安全そうな席を指差した。
「ほら、わかったらあそこに座って、静かに見ていろよ。ちゃんとシートベルトを締めるんだぞ」
エライアたちがべちょっと席についたのを見届けたあと、俺はARディスプレイを起動し、恒星の位置を確認した。
グルザームα、グルザームβ、グルザームγと実にわかりやすい名前だ。
一番近くにあるのがグルザームβか。ターゲットはこいつだな。「近い」=「燃費が安い」=「嬉しい」。誰にでもわかる簡単な計算だ。
「ヘルディナンド、グルザームβに向かってくれ」
「ぎょ、御意!」
ヘルディナンドがそう叫ぶと同時に、エライアたちはネジを食べ始めるのであった。
(鉄分取りすぎだぞ)




