第33話 スイングバイと恒星兵器
エライアは、あのなぜか俺を目の敵にしている、先の短い病気のメイド――メリアと共にクラウザーム・ヴァイロン号の見学をしにいった。
ブリッジの艦長用の椅子に座った俺は、ARディスプレイを表示させて、宇宙地図アプリを開いていた。
「このまま真っすぐ、クロス・フロンティアに向かうとすると、最短距離は――」
そのとき、あるアイディアが頭をよぎった。
待てよ? まっすぐ進むよりも、途中にある星の重力を利用しながら進んだほうが、燃費がいいんじゃないのか?
「なぁ、ヘルディナンド。まっすぐ進むんじゃなくて、この途中にある星の重力を利用しながら進めないのか?」
「ス、スイングバイでありますか!?」
スイングバイ? なんだかよくわからん用語が出てきたが、なんかできそうだな。燃費がいいのは正義だ。
「あぁ。その〝スイングバイ〟で行こう」
「ア、アイアイサー! 艦長命令だ! スイングバイで目の前にあるクールトン星の公転速度を掠め取り、速度を上げるぞ! すぐに軌道計算をはじめろ!」
「スイングバイだと!?」
「この短時間で計算できるのか!?」
「『できるか』ではない! やるんだ! アストラ艦長のことだ、深いお考えがあるに違いない!」
突然ブリッジ内が喧騒に包まれた。もしかして、なんか難しい指示でも出したのか?
クラウザーム・ヴァイロン号の船首が、クールトン星とやらに向かって、徐々に向きを変える。
10分ほど経った。
俺以外の全員が、なぜか息を呑んでいる。クールトン星の重力範囲内に入ると、船体からギシギシと大きくきしむ音が鳴りはじめた。
(これ大丈夫なの? 船体に超負担掛かってそうなんだけど……。やめときゃよかったかな?)
俺が船体の心配をしていたとき、レーダーオペレーターの叫声がブリッジに響き渡った。
「大変です! 敵艦が大量に出現しました! その数およそ40! どうやら潜んでいたようです! 本艦は全方位から取り囲まれています!」
その声にヘルディナンドが反応した。
「最初の2隻は囮だったということか!? 連邦軍め、卑怯な手を! 今の段階では方向転換もできない!」
な、なんか大変なことになってしまった。しくじったか? 謝るか? いや、ごまかそう。部下を不安にさせないことも上司の務めだ。たぶん。
「心配することはない。全て想定内だ。そのままスイングバイを完了させろ」
「おぉ! アストラ艦長! 想定内でしたか! 御意に! 予定通りスイングバイを継続しろ!」
ヘルディナンドがそう叫んだ直後に、無線が鳴り響いた。
『クラウザーム・ヴァイロン号の艦長に告ぐ! オレは連邦軍司令官、ドラダイル・ゲイターだ。お前たちはもうおしまいだ! 死にたくなければ投降することをおすすめする! おとなしく投降すれば、苦しまないように殺してやろう! うわはははっ!』
やべぇやつが出てきたな。よし、無視しよう。やべぇやつとは目を合わせず、存在に気づいていないふりをする。それが世渡りの基本だ。
電気代ももったいないしな。
「うるさいから、もう無線を切れ」
「アイアイサー!」
『〝うるさい〟だと! お前、自分が置かれている立場ってものが――ブツッ』
「よし、静かになったな。では、スイングバイを継続だ」
クールトン星の重力から抜け出すと同時に、クラウザーム・ヴァイロン号の振動が少なくなった。そしてそのままの勢いで、凄まじいスピードをたもちながら前進した。
おぉ! すごいじゃないか! これがスイングバイってやつか!
燃料費の削減に俺が感動していると、突然レーダーオペレーターが大声を出した。うるさいって。
「アストラ艦長! 失敗です! 目的地と進行方向がずれました! このままでは、グルザーム・トライアングルに突入します」
「ん? あぁ、それも計算通りだから気にすんな」
グルザーム・トライアングル?
俺がARディスプレイで宇宙地図を確認すると、目的地とは明後日の方向に流されていることがわかった。進行方向の先に3つの恒星が三角に並んでいる場所がある。
なるほど、『グルザーム・トライアングル』ってここのことか。
俺は、そのときあるアイディアを思いついた。
「なぁ、ヘルディナンド。この船には恒星のエネルギーを使う兵器を積んでいるよな?」
「は! プラズマ・ウェーブ・キャノンですね!」
「あぁ。それだな。それの準備をしろ」
よし。恒星のエネルギーを使用すればコストはゼロだ。できるだけミサイルは撃たんぞ。
俺は固く心に刻むのであった。グルザーム・トライアングルが危険な場所だということなど知らずに……。




