第32話 互いの戦力に合わせた最適の戦略
クラウザーム・ヴァイロン号の天井は、倉庫の天井に使われているものと同じ発光体でできていて、青白い無機質な淡い光を放っている。
通路の広さはおよそ2メートル。軽量化のためか、通路の壁は鉄ではない物質でできていた。
戦艦としては通路にスペースを取りすぎな気もするが、船のサイズから考えると妥当なのかもしれない。
格納庫からブリッジまでは、徒歩でおよそ5分。その間、俺達はヘルディナンドの説明を聞きながら歩いていた。
「我々が向かっているクロス・フロンティア星付近はご存知のように、クロス・ヴァーン帝国軍の守りが薄い場所です。今回はその隙を突かれたわけです。今後はクロス・フロンティア近辺の守りも考えなくてはなりませんね」
俺はもっともらしく頷いた。まぁ、クロス・フロンティアなんて星はさっき初めて聞いたんだけどな。
「うむ。で? 敵の数は?」
「敵の戦艦は、中型量産主力艦ネビュラ級と、高速小型艦のパルサー級の2隻ですので、戦力的に見たら大したことはありません。我々のクラウザーム・ヴァイロンの方が断然大きいのですから。迂回して横から叩きますか?」
この銀河では、戦艦のサイズによって、それぞれ等級が決まっている。
下から順番に、パルサー級、クエーサー級、ネビュラ級、ギャラクシー級、ボイド級、ユニバース級だ。
クラウザーム・ヴァイロンの等級は、ギャラクシー級――つまり、上から3番目に大きい等級である。といっても、空母であるギャラクシー級とステルス艦のボイド級は役割の差という意味合いが強いため、サイズに大きな差はない。実質、見栄重視である超弩級戦艦ユニバース級の次に大きい等級といっても過言ではない。ちなみに、クエーサー級は高出力攻撃小型艦だ。
「ネビュラとパルサーであれば、2隻でもなんの問題もないな。そのまままっすぐ突っ込もう」
一般的に下の等級が上の等級と互角に戦う場合、上の等級の4倍の数が必要とされている。要するに、今の戦力は17対64。巨大企業が零細企業を潰すように簡単だ。その戦力差で迂回などしたら燃料がもったいない。
「ちなみに、小型戦闘機――クロス・ファイターは何機搭載してきているんだ?」
「およそ300機であります! 全機出撃させて、我々の強さを思い知らせてやりましょう!」
全機出撃させるだ? ヘルディナンド、お前ふざけんな。完全に燃料の無駄じゃねぇか! 画鋲を1個抜くのに重機を使うようなもんだぞ! そんなもったいないこと許されるわけないだろうが! 誰の責任でその経費を落とすんだよ!
「いや。まず偵察型小型ドローンを飛ばして、敵の状況を詳しく報告させろ。その状況によってクロス・ファイターを何機出撃させるか決める」
競合他社の状況を知るのは何よりも大事なんだ。情報戦略ってやつだな。たぶん。
俺達がそんな話をしている途中も、エライア達はずっとネジを食べながらついてきている。
お前ら行儀が悪いぞ。ちょいちょいこぼしているじゃないか。しかも、お前らが歩いた後にオイルがポタポタとしたたってんぞ!
後で掃除させないとダメだな……。
俺がそう思いながら角を曲がると、ブリッジの扉が見えた。
俺達が近づくと、ブリッジの扉が横にスライドした。
プシュー!
ガヤガヤしていたブリッジ内が、突然静まり返り、皆慌てて自分の席に着きはじめた。
「おい! 自習中の中高生かよ! 遊んでたのバレてんぞ! そこ、せめてトランプと食べかけのプロテインブロックくらい片付けろ! マンガが床に落ちてる!」
俺がいきり立っていると、ヘルディナンドが俺の肩をぽんと叩き、ウィンクしながら「私にお任せください」と言って、床のマンガを拾い上げた。
ヘルディナンドが、「おい! これ誰のだ!」と叫ぶと、1人の将校が「は! 自分のものであります!」と名乗り出た。
俺はヘルディナンドを見直した。
よしいいぞ。ちゃんと叱る上司。
ヘルディナンドが腹に力を込め、大きな声で叫んだ。
「これ面白いよな! 134ページの展開が熱いんだよ!」
「そうなんっすよね!」
「叱れよ!」




