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精霊の愛し子ですが、追放してよろしいのですね?  作者: 雨沢雫@3/5「つまらない女」発売


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30.犯人の名は


 リゼが攫われたあの日の夜を境に、ルーファウスはぱったりと屋敷へ訪れなくなった。


 彼に何かあったのだろうかと心配になって、リゼはエリンに何度も尋ねたが、


『お元気でいらっしゃいますから、ご安心ください』


『ご公務でお忙しいのです。きっとまたいらっしゃいますよ』


 と、そんな返事ばかり。リゼが尋ねると、エリンは決まって困った顔をする。彼女もなぜルーファウスがリゼの元へ通わなくなったのか、よくわからないでいるようだ。


 あの日、何か粗相を働いてしまったのだろうかと思ったが、記憶がぼんやりとしてよく思い出せない。それがなおさらリゼの不安を増長させた。


 そんな折、シャーロットから手紙が届いた。そこには、ルーファウスに贈り物をし、自分の想いを伝えたという旨が書いてあった。ルーファウスからは「ありがとう」という、どちらとも取れない返事をもらったという。


 シャーロットは彼に、精霊術師であることも打ち明けたが、「君の力を利用する気は一切ない。その力は自分自身のために大切に使いなさい」と言われたそうだ。実に彼らしい返事だと、リゼは思った。


 シャーロットがルーファウスに会えたなら、彼が元気というのは本当なのだろう。彼の無事にホッとすると同時に、ずっと顔を見ていないことに寂しさも覚えた。そして、自分が彼を求めていることに驚きもした。ここ数日は、寝台がとても広く感じてならなかった。


 そして、数週間が経ったある日のこと。


 リゼの屋敷には、アンジェリカとシャーロットが訪れていた。リゼが接点となり、二人はすっかり打ち解けたのだ。


 リゼと友人になって以降、アンジェリカはとげとげしい雰囲気がなくなり、シャーロットも随分と口数が増えたように思う。


 今は三人そろって屋敷のサロンでお茶を楽しんでいた。アンジェリカが深紅の瞳を輝かせながら言う。


「ねえ、リゼ。今度わたくしとも一緒に出掛けましょうよ! あなたに似合うドレスを買いに行きましょう!」


 すると、シャーロットが聞き捨てならないというように口を挟む。


「あら、それならわたくしだって、リゼと買い物に行きたいわ。この前は途中で賊に攫われて、最後まで楽しめなかったんだもの」


 静かに火花を散らす二人を見て、リゼは慌てて止めに入った。


「さ、三人で行きましょう、三人で!」


 リゼの困り果てた顔に、アンジェリカもシャーロットも柔らかく笑う。二人はまるで、妹を見守る姉のような表情だ。どうやらからかわれていたらしい。


 アンジェリカは「リゼったら、かわいいんだから」と言って頷く。


「そうね、三人で行きましょう」


「ええ、そうしましょう。でも、マリーナ妃だけ仲間外れというのも、外聞が悪いわね」


 シャーロットの言うことはもっともだった。ここ最近、こうして三人で会うことは増えたが、マリーナには一向に会えずじまいなのである。


「本当は、マリーナ様ともお近づきになりたいのですが……」


 マリーナにお茶会の誘いを送ってから、実に三週間以上が経っている。彼女からは、断りの手紙どころか、返事すらない。リゼは彼女から一切の反応がないことに不安を覚えていた。


「宮廷晩餐会の日から、ずっと体調が優れないそうよ。屋敷からもろくに出ていないとか」


 アンジェリカが語った噂話は、リゼも耳にしていた。


 宮廷晩餐会の日、マリーナは体調を崩し、先に屋敷に戻ったという。それからずっととなると、約二ヶ月もの間、寝込んでいるということになる。


 実は、お茶会の誘いを送った後、リゼは何度か見舞いの手紙も送っていた。しかし、それにも返事はなく、リゼはマリーナの安否を心配していたのだ。


 その後、お茶会がお開きになったあと、エリンが血相を変えてリゼの元に飛んできた。その手には、白い封筒が握られていた。


 手紙の送り主はマリーナだった。とうとうマリーナから返事が来たのだ。


 リゼが意を決して封筒の中身を見ると、そこにはお茶会の誘いへの感謝と、今まで手紙を返せなかったことへの謝罪がしたためられていた。そして、「ずっと体調が優れなかったがようやく回復したので、ぜひ自分の屋敷に来てくれないだろうか。お茶会を開いてもてなしたい」という趣旨の内容も書かれていた。


 リゼはすぐに返事を書き、都合が会えば明日にでもぜひ、と伝えた。


 いよいよマリーナと会い、話を聞ける。彼女と話すのは、あの四妃のお茶会以来のことだった。


 その夜、リゼは寝台の中に入ったものの、ソワソワとしてなかなか眠れないでいた。いつもはフェンリルとヴェンヌの温もりですんなり眠れるのに、マリーナとのお茶会のことを考えると、目が冴えてしまう。


 体勢を何度も変えながら、なんとか寝つこうと奮闘していると、突然、裏庭の方から大声で名を呼ばれた。


『リゼ! まだ起きてる? 伝えたいことがあるから、すぐにいらっしゃい!』


 ウンディーネの声だ。


 リゼは寝台から飛び起き、フェンリルとヴェンヌとともに、すぐさま裏庭にある池へと向かった。ウンディーネはそこで、リゼが来るのを待ち構えていた。


『リゼ!』


「どうしたの? 何かあったの?」


 ウンディーネの慌てように、リゼは大変な事が起きたのではと背筋が冷える。彼女はリゼの両肩を掴むと、興奮した様子で叫んだ。


『わかったのよ! リゼを池に突き落とした犯人が!』


「え!?」


『池の水面に映っていたのよ。犯人の顔がね!』


 ウンディーネは得意げに言ってから、すぐに悔しそうに歯噛みする。


『ああ、どうしてもっと早くに気がつかなかったのかしら。現場にいた精霊たちに話を聞くばかりで、水面を調べるなんてこと、すっかり頭から抜け落ちていたわ!』


 ウンディーネは水を司る精霊王だ。水面が何を映していたのか、などという本来なら到底知り得ない情報も、彼女なら水の記憶を辿り、知ることができる。


『で、誰なんだよ』


『もったいぶってないで、早く教えてよ』


 ウンディーネに焦らされたフェンリルとヴェンヌは、少々苛立っている様子だ。愛し子を殺そうとした犯人を、早く懲らしめたくて仕方がないのかもしれない。


『リゼを池に突き落とした犯人。それはね――』


 ウンディーネが口にしたのは、リゼの予想通りの名前だった。


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