表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の愛し子ですが、追放してよろしいのですね?  作者: 雨沢雫@3/5「つまらない女」発売


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/46

幕間4ー2.リゼの異変


 エリンからの報告が終わり、ルーファウスがリゼの自室の前に行くと、中から何やら言い争う声が聞こえてきた。


『リゼ! やっぱり俺らもついて行くべきだったじゃねえか!』


「そうは言っても、仕方ないじゃない、フェンリル。シャーロット様に気を遣わせたくなかったんだもん。こうして無事に帰ってきたわけだし、別にいいでしょう?」


『それはただの結果論だよ、リゼ。これから外出するときは、必ず僕かフェンリルを連れていくこと。いいね?』


「もう……。フェンリルもヴェンヌも心配性なんだから……」


 リゼが精霊王たちに叱られているらしい。


 リゼが愛し子だということがルーファウスにバレてからというもの、精霊王たちはこの屋敷内に限って、普通の人間にも聞こえる声で話すようになった。リゼ以外の人間――エリンとも会話するようになったからだろう。


 ルーファウスが扉を叩くと、すぐにリゼが顔を出した。


 透き通るような白銀の髪に、青空のように吸い込まれそうな瞳。愛らしい顔立ち。優しい笑顔。


 ルーファウスはリゼに会うごとに、彼女に強く惹かれていっている自覚があった。小柄な彼女が懸命に見上げてくる姿が、この上なく可愛らしい。


「ルーファウス様」


「リゼ。無事で何よりだ」


「ご心配をおかけいたしました。この通り、怪我もなく元気いっぱいです」


 その場でくるりと回ってみせたリゼを、ルーファウスは気づけば思いっきり抱きしめていた。


「……すまない。また危険な目に遭わせてしまった」


 リゼを政争に巻き込んでいる罪悪感と、なかなか状況が好転しないことへの焦り。自分のせいで彼女まで命を落としたらと思うと、足元から恐怖が這い上がってくる。このまま腕の中に閉じ込められたなら、どんなにいいだろう。


 リゼはルーファウスの胸に(うず)めていた顔を上げると、まるで子供を諭すような声音で言う。


「ルーファウス様のせいではないですよ」


 リゼのまっすぐな目に射られ、ルーファウスは思わず唇を噛み締めた。そうでもしないと、今にも涙が滲んでしまいそうだった。


 両親が殺されたあの日から、ルーファウスはこの国のすべてを背負い、生きてきた。誰が敵かもわからない閉じられた城の中で、疑心暗鬼になりながら、必死にもがいてきた。


 血塗れの皇帝と恐れられ、多くの家臣が自分の元から離れていった。刺客に何度も命を狙われ、何度も死にかけた。それらはすべて、両親を守れなかった自分への罰だと思った。


 黒幕を野放しにしておきながら、のうのうと皇帝の座に就いている自分が許せなかった。それなのに、弱音など、吐けるはずがなかった。


 しかしリゼは、そんなルーファウスの心を見透かすように、奥底に沈めた弱さを掬い上げ、大丈夫と寄り添ってくれる。これ以上ない味方でいてくれる。


「ルーファウス様は、何も悪くありません。どうかご自分を責めないでください」

 

「……ありがとう」


 ルーファウスは自分の顔を見られたくなくて、再びリゼをきつく抱きしめた。

 彼女の温もりが、ルーファウスの心を和らげていく。彼女の言葉で、すべてを許された気がした。


 ようやく気持ちが落ち着いたルーファウスは、リゼを横抱きにした。彼女は「ひゃっ」と可愛らしい悲鳴を上げて、落ちないように抱きついてくる。そして顔が思った以上に近いことに驚いたのか、彼女は頬を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。


 精霊王たちはいつの間にか部屋から姿を消している。気を使ってくれたのだろう。


 ルーファウスはリゼを寝台に座らせ、自分もその隣に座った。彼女の瞳を見つめ、意を決して言う。


「謝罪をさせて欲しい。俺はエリンに命じて、リゼを監視させていた。疑いはとうに解けていたというのに、黙っていてすまなかった」


「いいえ、気にしておりません」


 リゼは柔らかく微笑みながら、なんてことないように言った。そしてすぐに、申し訳なさそうに表情を暗くする。


「ウィンター王国の動向について、何か情報を持っていればよかったのですが……。お役に立てず申し訳ございません」


「いや、むしろ何も聞かされていなくてよかった。事が起きた時に、リゼは無関係だったと主張できる」


 ルーファウスがリゼの頭を優しく撫でるも、彼女は不安そうに眉を下げた。事が起きた時に、という言葉に反応したのだろう。


「やはり、ウィンター王国は帝国への反逆を企てているのですね」


 ルーファウスはどこまでをリゼに話すか一瞬迷ったが、母国のことは知りたいだろうと、正直に伝える。


「……ああ。そう遠くない未来に、ウィンター王国とは戦争になるだろう。ウィンター王国で過剰生産された武器が、我が帝国に流れていた。おそらくは俺を排斥しようと企む黒幕が、王国を利用しているのだろう」


「そんな……」


 リゼは目を大きく見開いた後、憂いの表情を浮かべながらきゅっと唇を噛みしめた。彼女の小さな唇に傷がついてはいけないと、指先でそっと触れる。案の定、彼女は驚いて唇を開いた。


 ルーファウスは一度立ち上がり、リゼの前にひざまずく。そして、彼女の手を取った。


「たとえどんな結末になろうとも、リゼのことは必ず守ると約束する」


「ルーファウス様……」


 リゼは目を丸くした後、すぐにふわりと笑った。


「守られてばかりではいられません。私も一緒に戦わせてくださいね」


「それは頼もしい限りだが、くれぐれも無茶だけはしないでくれ。お前を失いたくはない」


 リゼの手の甲に口づけをすると、彼女の顔が途端に真っ赤になった。ここに通い始めて随分と経つが、こうした触れ合いにはまだまだ慣れないようだ。


 ルーファウスは再びリゼの隣の座り、心配に思っていたことを問いかける。


「ウィンター王国と――母国と戦うことに、憂いはないか?」


 リゼにとって、ウィンター王国は生まれ育った土地だ。いくら王城での日々が苦しかったとはいえ、森で過ごしてきた十五年間の思い出がある。一定の思い入れがあってもおかしくはない。


 しかし、ルーファウスの懸念を振り払うように、リゼはきっぱりと答える。


「はい。あの国には、もう私の家はありませんから」


 彼女はなんの気なしに言ったが、母国に「家がない」という事実が、実に悲しく思えた。きっと、母親のいる場所が彼女にとっての家だったのだろう。いつかここが、彼女にとっての家になればいいと、ルーファウスは切に願った。


「リゼにとってはある意味、弔い合戦になるのだろうな」


「弔い……?」


「ああ。リゼの母君の」


「お母さんの……?」


 リゼは不思議そうに首を傾げた。言われた言葉の意味が理解できていないようだ。いつもは聡い彼女だが、どうも様子がおかしい。


 徐々に視線を下げた彼女は、ポツリと言った。


「あれ……? お母さんって、どうして死んじゃったんだっけ……?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ