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 魔法学園に入学して、あっという間に3か月が経つ。


 勉強に追われ、更には一向に減らない仕事に追われ、人間関係の構築――はあんまり出来なかったけど、日々のタスクをこなしているだけで時間は瞬く間に進んでいく。

 一度だけ授業中に「お父様」って呼ぶやつやっちゃったんだけど、あれ以来数人の生徒が私をからかうようになったから、最初よりは打ち解けてきているとも思う。

 一組は他のクラスと違って、王族という絶対的上位者が存在することで貴族社会のしがらみがあまり強くないクラスなのだ。

 他のクラスはどうしても親の爵位や派閥によって交流する相手が変わったりグループが作られたりクラスから孤立したりといったことが起きているようだが、一組は王太子であるセブ様が率先し分け隔てなく交流出来るよう心掛けていることが功を奏しているのか、爵位の低い者でも上の者と仲良くしていることがある。

 それもあってセブ様が私のことをクラスメイトに説明している姿をたまに見かけたのだが、誇張表現はやめて欲しい。私別に王宮勤めの文官達に女神とか悪魔とか呼ばれてないよ。っていうか褒められてんのか貶されてんのかどっちなのよ。


「校外学習ね……」


 今朝クラス担任のエドガルド先生より渡されたのは、校外学習の案内であった。

学園では一学年で三回ずつの校外学習が計画されており、たゆひつではそれまでの日常パートで攻略対象とどこまで交友を深め好感度を上げられたか確認できる、重要なイベントであった。


「エリサ、お前は誰と組むんだ?」

「え、えぇー、少なくとも殿下以外と」

「俺もお前と組む気はない。勘違いするな」


 ツンデレムーブで不満そうに口を尖らせたセブ様は、休み時間に私が呆然とパンフレットを読んでいたから声を掛けて来ただけなのだろう。こうやってぼっちの生徒にも声を掛けてくれるので、クラスから孤立する人は出にくい。

 まぁ学業に専念してないから若干孤立しかけの私とかクロードは居るんだけど。


(これ、一番好感度高い相手と同じグループになるのよね……)


 とはいえ、それは主人公の話だ。

 ――そう、主人公である。同じクラスになったのを幸いに私はずっと陰ながら観察し、主人公が転生者かどうか判断しようとしていた。

 だが、現状では灰(グレー)寄りの白(ホワイト)といったところか。先の展開を知っているからこそ出来るメタ的な動きはしないが、私の知らない行動や、共通ルートでするはずだった行動がいくつか欠けているところがある。それが私の知らないリメイクの影響なのか私の影響なのか転生していることで変わったのかは分からないが、どちらにせよ違和感を覚える程度で確証を持てるところは一つもない。

 あえて関わろうとしていないので直接話して判断することは出来ないのだが、主人公――ジーナ・バルトは表ルート通りの良い子ちゃんであった。


(今のところは、共通ルートの域を出ないのよね……)


 たゆひつは好感度が上がるだけでなく下がることもある。

 キャラのルートに入ってからしか起きないイベントは数多く存在するが、それは基本的に二年生になってからである。一年の間は共通ルートのイベントにキャラ個別イベントがいくつか挟まる程度で、よほど効率プレイしない限り一年目の時点でルートを確定させることは出来ない。


(悪役令嬢転生ものだったら主人公と仲良くなるべきなんだろうけど、違うのよねぇ)


 たゆひつにおける悪役令嬢はエリサ・ヴァレンティというモブではなく、イザベラ・グランドーリだ。

 だがイザベラは常に悪役令嬢ムーブをするわけではないし、どちらかと言うと性格の悪い先輩のようなイベントの方が多い。ほとんどの悪役令嬢イベントは学校内でなく学生寮内で起きるので学生寮に入っていない私が観測することは出来ないはずだが、イザベラとはたまに会って話すので何が起きているかは聞いている。

 イザベラも詳しく知らないようだが、イザベラの取り巻きが主人公にちょっかいをかけていることがあるらしい。物を隠すとか架空の手紙で呼び出すとかそんな程度の些細な嫌がらせのようだが、それをイザベラの指示だと考えている者も居るようだ。

 まったく心当たりのないイザベラにそんな相談されたので、「放置するのではなく、面倒でも明確に否定しましょうか」とアドバイスをしておいた。

 たゆひつにおけるイザベラの悪役令嬢ムーブのいくつかは、彼女が取り巻きの暴走を放置したことによる因果応報であったり、取り返しのつかないことをやらかされ撤回出来なくなったイザベラのした横柄な態度であったりしたので、それらを解消すれば彼女も悪役令嬢でなくなるかも、くらいの感覚であった。

 物語の積極的な改変をしようとは思わないが、彼女が悪役令嬢なんて向いていない女性であることを私は知っている。たゆひつにおけるイザベラはぶっちゃけ居なければ居ないで困らないはずのキャラなので、この際主人公と関わらなくても良いのでは、とまで考えているのだ。


(今のところはセブ様にリベリオ、クロードの好感度もまんべんなく上がってるみたいだけど、こっから誰選ぶんだろ……?)


 クロードはエドガルド先生の関わる授業やホームルームだけは欠かさず参加しているが、それ以外の授業のほとんどはサボって図書室に籠っている。

 そこで何をしているかはよく知らないが、私が公爵家令嬢として動く時は常に補佐官として着いてくるのであまり気にしないようにしていた。

 暇なときに何をしていようがクロードの自由だ。どうやら図書室に来る主人公と話すこともあるらしく、珍しく饒舌に説明してくれたのを覚えている。

 クロードの補佐官としての腕は一流なので失ったら惜しい人材ではあるのだが、もし主人公がクロードルートに入りそうならそちらに集中して貰いたいと考えていた。人の恋路を邪魔するつもりはないし、クロードを拘束するつもりもない。

 人材なら他に探せばいいのだ。今クロードしかやっていないことは、クロード以外の他人で代用出来ないことではない。


(共通ルートのまま進めたら、友情エンドとバッドエンド、あとは……あれか、逆ハーレムエンドがあるっけ……)


 キャラの個別ルートに入らないままエンディングを迎える場合、いくつかの結末がある。友情エンドは付き合わず仲良くなりましたというノーマルエンドで、バッドエンドはいくつも存在するので割愛するが、最後の逆ハーレムエンドが問題だ。


(好感度調整かなり難しいけど、あんまり好きなエンディングじゃないのよね……)


 逆ハーレムエンドは、その名の通りのエンディングだ。

 共通ルートに入らないよう全攻略対象の好感度を横並びにし、好感度の微調整によって個別イベントを省略し、年に数度あるルート突入タイミング全てをサブイベント発生キーを駆使しルートに入らないよう細かい調整が必要となる特殊なエンディング。

 皆が私を大好きになった、嬉しい! って頭お花畑で終わるし、主人公の裏面である計算高さが片鱗すら見えない、どこか気色悪さを感じるエンディングだ。


(裏ルートで主人公が好きになった人は、ハーレムエンドが好きになれないのよね)


 表ルートにおける聖女気取りの八方美人ムーブだけで主人公を好きになった人なら違和感なく楽しめるエンディングかもしれない。だが、裏ルートのことを思えば別人かのような主人公に違和感を覚えるし、攻略対象が主人公に向ける感情が一切表に出ないのでそこもまた嫌だ。

 個別イベントを全て飛ばしている以上、独占欲を向けられるイベントもないわけだが、攻略対象の解像度も低いし、ただ顔の良い男を集めた逆ハーレムを作っただけに思えてしまう。だから主人公がそちらのルートに入らないことを祈っていたが――


 悪い予感というのは、大抵一番嫌なタイミングで的中するものなのだ。

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