052
望月は、疲れた顔を見せていた。
足元がふらつき、汗を尋常じゃない量をかいていた望月。
でも、目には力があった。
魔方陣の中にいたときの彼女と、そこが大きく違う。
彼女は猫魔術にかかっていなかった。
「あなたは、あたしをそんな風に見ていたんですか?」
「違う、望月……」
「そうですか?」
冷めた顔を見せた望月。
うろたえる生徒会長には、もう威厳はない。
威厳も、風格も、陽キャラのオーラも、生徒会長から感じられなくなった。
「俺はお前のために……お前が永遠に若ければいいと思ったから」
「あなたは最低ですね」
望月の強烈な一言、これには生徒会長も黙ってしまった。
そんな望月は、俺の方を向いてきた。
「学原君」
「望月……」
「ご迷惑を、おかけしました!」
望月は、俺に対して深々と頭を下げた。
「望月、謝る必要はないよ」望月は俺を見ていた。
「いえ、あたしの彼氏がやったことなので。ごめんなさい」
「いいよ、気にしていないし。
君だって知らないうちに、生徒会長に寝かされていたんだろう。
『猫魔術』の記憶操作だから、これは仕方ない」
俺は分厚い本から、記憶操作のページを開いていた。
甘い香りで、昏睡状態にして記憶を朧気にする猫魔術。
猫の目玉が一個必要で、これを封じ込める煙玉の作り方も書いてあった。
「それに、電話でも言ったとおり。君も俺も被害者だ。
そして、そこにいる生徒会長も」
「俺もか?」崩れ落ちた生徒会長が、思わず顔を上げた。
「ああ、この魔術に取り憑かれた被害者。
もし俺もこの本を、高校生で手に入れたら……俺も同じように魔術を利用していろいろ試したくなるだろう。
いろんなことができるから……ね」
「でも、アオイは絶対に許さないけど。
ガトの視力と髭を奪った、憎きアンタを」
当然のこととしてアオイは、憤っていた。
そうだ、アオイには大きな被害があった。
ガトの仇を討つ、この為に彼女は来た。
猫魔術に必要な猫の髭と目玉、奪ったのは生徒会長だ。
当然アオイは顔を真っ赤にして、生徒会長に詰め寄った。
「あなたのせいで……ガトは視力を失ったのよ!
絶対にあなただけは、許さないから!」
怒りに満ちた目で、生徒会長を睨んでいた葵。
そのまま、葵が生徒会長の顎を掴んだ。
「責任、取ってもらうから!」
「ごめんなさい」
「ごめんで、済むかっ!」
葵が生徒会長と言い合う中で、俺の前には望月がいた。
殴ろうとする手を俺は掴んだ。
「葵、その辺にしておけ」
「わかったわよ」葵は素直に俺に従った。
俺は手を離し、ぐったりとした生徒会長はその場に崩れていた。
「あの……」
「ん?」
「学原君って、どうしてあたしを助けてくれたんですか?」
「それは……」
望月の質問に、俺が言葉に詰まった。
望月も、照れた顔で俺の顔を見上げていた。
少し背が高い俺と、背が低い望月。
満月が照らす中、空には俺にしか見えない渦。
そんなときだった、空の渦から一つの光の球が現れた。
発生した光の球が、そのまま俺の目の前の望月に吸い込まれていく。
「望月……」
「ありがとう、学原君」
目の前の望月が、裏山ベンチの赤ん坊の顔と重なって見えていた。
望月 香美は笑顔で、俺に感謝を伝えていた。




