053
望月 香美は、裏山の赤ん坊で……女子高生だ。
それでも、二人が同一人物でどちらも望月 香美だ。
二人が、俺の目の前で初めて重なった。
だけど、他の人には見えないのかリアクションがない。
「本当に、ありがとう」
「え?」
「あなたは、あたしを救ってくれたのね。
時間の渦から、あたしを助け出してくれた」
「これは、みんなの協力があってできたことだ。
望月も、葵も、夢女も。むしろ、俺が感謝する側だよ」
俺は照れくさそうに、それでも望月の言葉を受け取った。
空の渦は、スピードが落ちて減速していくのが見えた。
間もなく止まりそうな、スローな動きに見えてきた。
「あの、渦が止まったとき……あなたがここにいられる時間が……終わりを告げる」
「そうか、もう終わりか。短かったな、二周目の俺の高校生活」
「まだ、続けたいのか?」
「いや、無理なのは分かっている。
生徒会長が、時間停止の猫魔術の失敗をして、君……赤ん坊望月を生み出した。
赤ん坊望月にかけられたのは、『時間逆流』の猫魔術。
猫魔術の失敗で、君は俺を過去の時間軸に逆流させた。
でも、本来はそれが正しいことではない。
時間が二度と巻き戻らないことを、俺は知っている」
大人になって、いろんな経験をした。
何度も時間が巻き戻ればいいと、俺は思った。
死んだ人は、二度と帰らないと俺は知っているから。
「そうだな……それが本来の時間ね」
「でも、いろんな事を思い出せたのは良かったよ。
まさかつまらないと思っていた高校生活が、こんなにも薔薇色の生活に変わると思っていなかったから」
俺の話を、立ったまま聞いている望月。
空の渦は動きが、遅くなっていく。
ついに、空の黒い渦がピタリと止まった。
「時間だな……」
「うん」渦が止まると、俺の体が吸い込まれるのが感じた。
いや、吸い込まれたのは俺の体ではない。
俺の体の中にある、魂のような何かが掃除機に吸われるように強い風で引っ張られていく。
「またな、望月」
「ああ、またどこかで」
それは、別れだ。
だが、悲しくも辛くもない、甘酸っぱい別れ。
なんだろう、これは。もしかして、俺は望月の事を思っていたのか。
魂だけの俺の顔には、涙が見えた。
そうだ、俺は今になって思った。
今になって理解した、俺は望月が……好きだったのか。
でも、それを感じた瞬間に俺の意識はもう無かった。
黒くて大きな渦に、俺は吸い込まれていたのだから。
最後の瞬間、香美は手を振って何かを喋っていたようだけど俺にはそれが聞こえなかった。




