043
唐園が、保健室に来ていた。
シーツで囲まれたこの場所に三人は、かなり狭い。
紺のブレザーを着た制服姿の唐園は、落ち着いた様子で俺を見ていた。
カーテンの中には、唐園が入ってきた。
「ユメッチ?どうして?」
「アオイン、あなたに聞かれたくないから」
「え?」唐園が、親友である葵をカーテンから追い出した。
体を起こした俺は、そんな唐園を見ていた。
「どうした、どうした急に?」
「あなたが、体調を崩したと聞いてね」
「ああ、もう大丈夫だ?俺を心配してくれたのか?」
「違います」冷めた反応を、返してきた。
塩対応で、唐園のメガネがキラリと光った。
「やはり頭痛で苦しんだのでは、無いですか?」
「ああ、頭痛した。頭がガンガンする。最悪な気分だよ」
「もしかして、最近の記憶が朧気になっているとか?」
「そ、そうだよ。よく分かるね。
昨日の昼間辺りから、記憶が無かったんだ。
でも、葵に言われて……少しだけ記憶が戻った気がする」
「そう、やっぱりね」
冷めた顔の唐園が、呟いていた。
いつも通りの巻き髪ツインテールの唐園が、首を横に振っていた。
「何が、やっぱりだ?」
「記憶が部分的に喪失することがあるのだけど……あなたもそうなのね」
「あなたも?」唐園の言葉に、俺は引っかかった。
「うん、私もあなたと同じように記憶を失うことがある。
特に、あの場所……あそこに行くとそうなるのよ」
「あの場所?」
俺が聞き返すと、そのまま俺の方に身を乗り出す。
俺に対して、耳打ちしてきた。
初めてされた、女子からの耳打ち。
知的だけどよく見るとかわいい唐園から、いい香りがした。
唐園も香水を使っているのか、失礼かもしれないが意外だった。
俺の耳元で、唐園がささやくように呟いた。
「え?マジ?」
聞いた言葉のリアクションは、驚きの顔だった。
それと同時に、カーテンの奥から声が聞こえた。
「えー、何話しているのよ」
ゴソゴソ、カーテンの外で耳打ちをしている葵。
カーテンを開けて、葵と聖也が隠れていた。
盗み聞きをされて唐園が、険しい顔で腕を組みながら睨む。
「ご、ごめん!」聖也が、素直に謝った。
しゃがんでいた葵は、悪びれる様子も無く腕を組んだ。
「アオイが悪いわけじゃないから、聖也が悪いだけだから」
「おい、コラ!葵っ」聖也は裏切られて、葵にキレていた。
そのまま、葵は逃げるように保健室を出て行く。
「じゃあ、アオイは帰るから」
軽いノリで、携帯を見ながら保健室を出て行った。
残った聖也は、俺の顔を見ていた。
だけど隣にいる唐園が、メガネ越しから聖也を睨んでいた。
「ぼ、ボクも帰るよ!」
なぜか、怯えるように背中を丸めて聖也も保健室を出て行った。
保健室には、足音だけが響いていた。つまり誰も、この保健室にはいない。
保健教師も、今は出払っていない。
二人がいなくなり、俺は唐園を見ていた。
腰に手を当てて、二人を見送る唐園。
「唐園?」ため息をついた唐園。
「さ、いきましょ。あなたに、協力することにしたから」
「あ、ああ」
唐園に促されて、俺は立ち上がった。
既に頭痛は、全く感じなくなっていた。




