042
昼休みになった俺の体は、保健室にいた。
保健教師が、頭痛薬を渡してくれてそれを飲んでいた。
この保健室には、二つのベッドがあった。
どちらもプライベートがしっかり守られる個室仕様になり、カーテンで覆われた。
使われているのは奥のベッドで、白いカーテンで手前側のベッドは誰がいるか分からない。
ベッドのそばに、葵が来ていた。隣には、親友の聖也もいた。
カーテンを閉めて、隠れるように俺のベッドのところに来ていた。
「大丈夫なの?」
「うん、ただの偏頭痛……」
発作的に起っていたので、今の痛みはもう無かった。
薬が効いているというよりは、自然に治まったという方が正しい。
なんというか、昨日の記憶を思い出そうとすると頭痛が不意に襲ってきた。
(昨日、何かあったな)
だけど、それが思い出せない。
思い出すことも、頭痛で邪魔されてしまった。
「でも、結局最後の授業まで保健室にいたよね」
「ああ、そうだな」
「後でノート取ったから、見せるよ」
「おっ、サンキュー!」親友聖也に、俺は素直に感謝した。
来週月曜からは中間試験だ、試験日直前の授業のノートは貴重だ。
テストに出てくるところを、しっかり教えてくれる大事な時期だから。
「なあ、聖也……」
「ん?」
「ちょっとだけ、ここを外してくれるか?」
「え?ボクが?」
「ああ、葵と一対一で話をしたい」
体を起こした俺は、初めて聖也に頼んだ。
この話は、葵と二人きりで話をしたい。
聖也が邪魔というわけじゃ無いけど、これはプライベートに関わることだ。
空気を読むのは、得意な聖也。
「分かったよ」
何かを理解した表情を見せて、聖也がカーテンの外に出て行った。
俺は聖也の背中を見守りつつ、謝罪した。
(ごめんな、こればかりは……)
カーテンの中には、俺と葵の二人きりだ。
外のグラウンドが近く、部活動をしている声が遠くから聞こえてきた。
「で、聖也に席を外させたと言うことは?」
「ああ、唐園と望月の話だ。
だが、その前に聞きたいことがある」
「何よ?」
「俺が見舞いに行ったということは、どういうことだ?」
「え?」当然、その反応を示す葵。
だけど、俺には昨日の記憶が無い。
だからこそ、葵にはっきりと確認をしたかった。
「昨日、あたしとお見舞いに行ったでしょ?
忘れたの?いいわよ、ちゃんと話すから」
その後、俺は葵から聞かされた。
望月の家に、行ったこと。
体調不良だった望月と、会話をしたこと。
その後、帰り際にマンションに俺が引き返したこと。
葵が知っている昨日の知っている顛末を、俺に教えてくれた。
話を聞くだけで、頭が痛くなった。
それでも、顔に出さずに耐えながらなんとか聞いていた。
聞いた話は、葵と一緒に経験したことだ。
「で、あなたが最後にマンションに行ってから連絡つかなくなったのよ。
ほら学原は、携帯がないし。カガミンも、携帯つながらないし」
「そうか……」
頭の痛みに耐えながら、僅かにマンションに戻る記憶が映像で蘇った。
しかし、マンションに戻った後の記憶は戻らない。
「何かあったの?昨日?」
「うーん、思い出せないんだ」
「え、本当に大丈夫?学原は、かなり体調が悪いんじゃないの?」
「大丈夫だよ、頭痛も一時的だし……心配ない」
俺は心配かけさせないよう、力こぶをつくろうと腕まくりをした。
それでも、元気が無いのはどうしても隠せない。
そんな中だった、外から声が聞こえた。
「涼真、まだいる?」聖也の声だ。
「ああ、いるけど」
「聖也に会いたいって人が、外に来ているけど」
「え、誰?」
だけど、そこに返事が返ることも無くカーテンが開いた。
そこには、メガネ女子の唐園が姿を見せていた。




