040
翌朝、俺は通学路を歩いていた。
いつも通り、空に黒い渦が見えていた。
相変わらず、おかしな世界だ。ここが現実で無いことを、示していた。
他の誰にも見えない渦が、今日もグルグルと当たり前のように回っていた。
俺がぼんやりと歩いていると、いつも通り聖也と合流した。
いつも通りの日常、高校の当たり前の風景。
学校に行く狭い道路の住宅街は、いつも通り多くの生徒が歩いていた。
「今日は、土曜だっけ?」
「そうだよ、授業は英語と、国語と物理だけ」
「早く帰って、遊びたいな」
「来週中間だよ」
季節柄の台詞が、俺と聖也の間で交わされた。
俺は聖也と会話をしながらも、不思議な感覚に陥っていた。
「どうしたの?」
「ちょっと、頭がガンガンしてね。
昨日は気づいたら、なぜか家にいたんだ……」
「もしかして勉強疲れ?今日は週末だから、早く帰って休むといいよ」
「そうする……かな」
だけど何かが、頭の中でモヤモヤしていた。
なんか、昨日の記憶が全くないんだよな。
どうして、家に帰ったのかが分からない。
思い出そうとしても、思い出せなかった。
記憶が、スッポリと抜けているかのようだ。
「ねえ、昨日だけど……望月さんのお見舞い、どうだったの?」
「うっ」望月の名前が出た瞬間に、頭が一気に痛くなった。
そうだ、俺はお見舞いに行ったんだ。
そのことすら、俺は忘れてしまっていた。
いくら記憶を遡っても、記憶から削除されていた。
いや、絵の具のようなモノで強引に記憶が塗りつぶされたそんな感覚。それが、気持ち悪い。
「本当に、大丈夫なの?学校を休んだら?」
「休んだ方がいいけど、行く」
聖也の心配も、俺は振り切った。
今日は、別にやることがあった。
今日は10月23日、土曜日。期限10月28日まで、あと5日。
わずか5日後で、望月は失踪して赤ん坊になる何かが起るのは間違いない。
それだけは、どんなことがあっても阻止しないといけない。
阻止しないといけないが、何か大事なことを思い出せない。
ただ、一つだけ使命感だけで動いていた。
(唐園 夢女と、ちゃんと話をしないといけない)
望月と唐園、この二人が何か関係があるのは間違いない。
現在は三角関係で、こじれて友情関係が壊れかかっていた。
あれ、昨日は何か進展があったような。
だけど、それは俺が思い出すことはできない。
それでも、俺は彼女たちの友情を心配せずにはいられなかった。
(唐園との関係が修復すれば、望月は赤ん坊にならずに済むのだろうか。
いやいや、俺はできることをしないといけない)
俺は覚悟を決めていた。
空には、不気味な黒い渦が見えた。
この渦を見る度に、俺はこの時代に来た理由をしっかり考えていた。
だが、考えながらも汗が全身から、吹き出る。
「本当に、大丈夫?汗だくだよ」心配する聖也。
「平気だ」
「でも、心配だよ……」
「大丈夫だって」俺は、必死に作り笑顔で応えた。
頭の痛みを、誤魔化しながら俺は歩いていた。
「聖也は、本当にイイヤツだな」
「何を急に、涼真君?」
「だから、心配しなくていいよ」俺は作り笑いを見せた。
唯一の親友に、絶対に心配させたくなかった。
それでも、俺はフラフラしながら歩いていた。
カバンを肩にかけて、足元がおぼつかない。
そんな中、前を歩く二人組を見つけた。
「望月……」だけど、声をかけることができなかった。
何かが、思い出せない。
彼女に近づこうとすると、頭が痛い。
思い出すことが怖くて、体が震えてしまう。
俺の足が、たった一歩も動かなかった。
自分の記憶が消えて、何かが変わっていた。
(何かがオカシイ、何かが……)
だけど、それは俺が説明できるモノが俺の中に無かった。
そんな俺を、聖也が心配そうな目でずっと見ていた。




