034
夕方になった俺は、放課後にマンションに来ていた。
ここは駅近くのマンション、地価が高そうなエリアだ。
八階建ての高層マンションは、鳴本市内でも高い建築物だ。
近くには商業ビルもあり、鳴本市内でも一番に華やいでいる場所。
さらには駅もあって、便利な立地。
中身おっさんの俺は、ついつい地価を計算してしまう。
だめだ、現実の俺ではとても払えない高額な金額が算出された。
普段あまり歩かない場所を、俺が歩いていた。
俺の隣には葵だ。紺のブレザーを着ていて、通学カバンを持って二人で歩く。
「このあたりか?」
「そう」間もなく、葵が赤い外壁のマンションにやってきた。
そのまま葵が、迷い無くエントランスに入っていく。
ポストそばにあるインターホン越しに葵が、慣れた様子で会話。
話し相手は、望月のようだ。声のトーンが高い。
「本当にいいのか、俺が行っても?」
「うん、カガミンに話したら、いいって」
「そうか、それは助かる」
葵の手際の良さには、本当に頭が下がった。
彼女のこういう所が、ギャルっぽい見た目でもしっかりしていた。
それと同時に、俺にどうしてここまで協力してくれるのだろう。
「それに、あんなのを見たら……ね」
「唐園との会話を、誰にも見られたくなかったな」
「どうして、あんなことを言ったの?」
などと言いながら、俺たちの行く手を阻むエントランスの自動ドアが開いた。
「単に喧嘩を、して欲しくなかったから」
「それは、あんたには関係ないでしょ!」
「関係あるよ」俺はすぐに否定した。
「どうして?」不満そうな顔で聞いてくる葵。
綺麗に掃除されたマンションのエントランス、まるでホテルのようだ。
葵の疑問を無視しながら歩くと、エントランスを進むとエレベーターが見えた。
かなり大きなエレベーターを、俺と葵が待っていた。
「だって、友達……だろ。ゲーセン行った同士だし」
「それだけ?」
「まあ、今はそれだけだけど……」
本当はいろんなことを言いたいが、言うつもりは無い。
大人になって俺も学んだし、ここに来て動く事を知った。
そのおかげで一周目のつまらない高校生活より、彩りのある高校生活に変わっていたのだから。
「変わっているのね」
「変わっている、陰キャラだからな」
「それは、逆でしょ!」
「かもな」と言いながら、到着したエレベーターに乗り込む俺と葵。
このエレベーターは、意外と広い。定員は十人まで乗れる大きさだ。
少し離れて、俺と葵が立っていた。
「ユメッチは、生徒会の書記なのよ」
「ああ、そうだな」
それは昨日、家でしっかり調べた。
携帯は無くても、家にはパソコンがあった。
古いパソコンだけど、ちゃんとネットはつながっていた。
名字が分かれば、俺は調べることができるのだ。
そして生徒会の役員の中に、彼女『唐園 夢女』の名前。
電話もして、昼間の唐園に話もつけた。
やっぱり、唐園は携帯電話を持っていたけど。
「書記になったのは、やはり生徒会長のことが好きだという理由か?」
「そうね。ユメッチは、蛭地生徒会長が本気で好きなのよ。
だけど、蛭地生徒会長のことを女子ならみんな好きだから」
「まあ、圧倒的女子票で生徒会長選挙を勝ち上がったからな。
でも、葵は好きじゃ無いのか?」
俺に言われて、葵は自分の顔を指さした。
「あたし?無理よ、あたしじゃあね」
言いながら、ため息をつく葵。
「なんでだ?機転が利くし、見た目もかわいいだろ。
自分に自信もあるし、葵なら蛭地生徒会長ともお似合いだと思うけど?」
「そんなに褒めても、何も出ないわよ!」
「褒めているわけじゃない。
普通にいい女だと、俺の感想を述べたまでだ」
「ダメダメダメっ!あたしは、そんなにできた女じゃ無いから!」
手を横に振って、否定する葵。
彼女の仕草が、なんともかわいらしい。
「それにしても、本当に蛭地生徒会長はいい男なのか?」
「うん、女子はみんな好きよ。圧倒的一番人気。
カガミンも、女子の中で一番かわいいから、カガミンが一番で……公認なのよ」
「適当な理由だな」高校生の考えることだ、意味なんか無いのだろう。
でも親友である唐園だけは、望月を祝福しなかった。
「あっ、ついたわよ」
会話をしているうちに、俺たちを乗せたエレベーターが辿り着いた。
エレベーターを出ると、一人の少女が待ち構えていた。
「ようこそ、我が家へ」
それはレアな格好をした望月が、両手を広げて出迎えてくれた。




