028
翌日になった。
朝になって、いつも通り学校に通う。
鳴本高校は、電車で通うと細い住宅街を抜けていく。
山に沿ったように道が続いていて、崖下には家が建っていた。
この辺りは、自転車の通行が禁止されていた。
住宅街でもあるが、細い路地だ。通行する時間帯に、教師が見張っていた。
自転車を押して俺が歩く住宅街で、いつもボッチの俺は一人で歩いていた。
そこに、一人が合流してきた。
「おはよ、涼真」
声をかけたのは、メガネの男子学生聖也だ。
いつも通り、見慣れた通学光景だ。
学校の近くに住む聖也とは、学校に続く細い道で合流した。
「ああ、おはよ」
「昨日は、お楽しみだったね」
「その言葉の使い方、合っていないような」
俺は聖也に、突っ込んでいた。ユメッチの事も、よく分かった。
名字も分かったし、調べるメドがたった。
分かったからには、いろいろと行動もしやすい。既に動いてもいるのだけど。
「だけど、昨日の望月さんが大丈夫かな?」
「そうだな、心配だよな」
レースゲームをやるまでは……唐園が現れるまでは元気だった望月。
だけど、唐園と喧嘩をして急に悲しそうな顔を見せていた。
友達にあんなに言われたら、心が壊れるのもムリも無い。
「聖也」
「どうした?」
「俺たちはずっと友達だよな?」
「急にどうしたんだい?涼真」
「いや、友情って言うのは急に些細なことで壊れるから。
俺たちも、これから気をつけないとね」
「うん、大丈夫。ボクは涼真が一番の親友だから」
「女ができても……か?」
「それは関係ないよ」
俺の言葉に、聖也は即答で言ってきた。
やはり、聖也はとてもイイヤツだ。
俺の考えもよく理解してくれるし、お互い引きどころを間違えない。
そこが現在進行形で、親友が続いている所以だ。
「望月さんの件は?」
「まあ、そんなところだ。三角関係だな、あれは」
「それは大変だね。陽キャラも」
聖也も、望月を心配していた。
陽キャラの人間関係を、初めてしっかりと見えた気がした。
ギクシャクしていて、かなり難しい人間関係。
陽キャラも、そう考えると楽じゃない。見えないところで苦労しているのだと、よく理解した。
「全くだよ、リア充生徒会長だから」
「うん、生徒会長って去年、チョコを三百個もらったって噂だよ」
「うぇ、そうなの?」
全然知らなかった、同じ年なのに羨ましい。
俺がバレンタインでもらったのは、いつもの母親ぐらいだし。
俺の家庭に妹も姉もいない、というか弟しかいないけど。
というより高校生になって母親からもらうとか、どんだけ陰キャラだよ。昔の俺。
「去年、クラスが同じだったから」
「へえ、そうなんだ」
「一個もらったけどね」
「マジで?チョコを?」
「蛭地生徒会長は、甘いのが苦手なんだって」
「嫌なくらいに、贅沢な悩みだな」
などと歩きながら、俺は通学する生徒を見ていた。
普通の登校時間で、生徒が歩いて登校していた。
その中で、一人の女子生徒が近づいてきた。
「ハロー、陰キャラーズ」
それは葵だ。明るく陽気な金髪ギャルが、珍しく俺たちに声をかけた。
「あ、葵か」
「おはよう」生真面目に返事を返す聖也。
「真面目か……」聖也に突っ込んだ葵。
だけど、葵の顔が浮かない。
無理して作っている笑顔だと、すぐに分かった。
「どうした?珍しいな、俺たちに学校の通学路で声をかけてくるとは」
「うん……実はね……カガミンが休むって」
「望月が休むのか。やっぱり昨日のことか?」
「……うん」俺の指摘に、葵が頷いた。
昨日のあの一件は、やはり望月の中に何らかの変化をもたらしたのか。
それと、赤ん坊望月が言っていた言葉が気になった。
「なあ、葵」
「どうしたの?」
「今日、お見舞いに行ってもいいか?」
それは俺が初めて葵に、俺の気持ちをぶつけていた。
「お見舞いって?」
「望月が体調を崩したのは、半分は俺の責任だ。
だからこそ、俺が言って謝らせて欲しい」
「謝る必要は……」
「頼む、葵っ!」立ち止まった俺は、深々と頭を下げていた。
現代でも、よく下げた頭。
この過去……男子高生の俺が女子高生に頭を下げるとは思ってもみなかった。
だけどここは、引くことができない。
なにより、望月のあの表情を気にしないと言うことを俺はできなかった。
「仕方ないわね、アオイも同伴するから」
「ああ、ありがとう。葵」俺は、ためらいも無く葵の手を握った。
感謝で喜ぶ顔を見せ、葵は照れくさそうにしていた。
それを聖也は、苦笑いをしていた。
「これで、友情が壊れることは……無いと思う」
だけど、目は笑わずに俺と葵を見ていた。




