承.第二の災い:竜人の怒り
りゅうのいかり!
王国に40のダメージを与えた!
あれから一週間が過ぎたが、王国は魔王からの挨拶としてもたらされた災害からの復興もままならない状況だった。
街には焼け落ちた家屋の残骸が散乱し、住処を失った人々は仮設のテントでの暮らしを余儀なくされていた。農地は深刻な被害を受け、道もいまだに復旧されずに通行止めが多数。王国では食糧不足が深刻化し始めていた。それでも王は、側近たちの反対を押し切り、再び儀式の間へと向かった。
「陛下、もうおやめください!前回の災いで多くの民が苦しんでいます!今は聖女召喚より復興に全力を注ぐべき時です!」
老賢者アルドが一週間前と同じく跪いて懇願した。彼の目には、疲労と絶望の色がにじんでいた。他の賢者たちも続いて地面にひざまずき、一斉に王を止めようとした。
しかし、狂気に取りつかれた王は彼等の懇願を聞き入れない。最初こそ王国を立て直すための『聖女召喚』だったが、次第に現実から目を背けるための手段と化していたのだ。
「復興など、聖女を呼び出せば一瞬で片がつく!!すなわち、『聖女召喚』は王国に必須の儀式だ!!それに、前回の二の舞とならぬよう、詠唱文をしっかり吟味した!古い文献をすべて調べ上げ、完璧なものとしたのだ!!」
アルドたちは顔を見合わせた。彼らも、王がここ一週間、ほとんど眠らずに古い書物を漁り、儀式の詠唱文を書き直していた姿が浮かんだ。その狂気じみた執念に、一部の者は期待してはいいと思い始めたのだ。
「陛下、どうかお考え直しを!」
それでもなお、老賢者アルドが再度止めに入った。
「前回の儀式で王国存続の危機にまで追いやってしまったのです!もう一度同じことをすれば、王国そのものが危険にさらされます!」
「危険?聖女の力手に入れるためには、多少の危険はつきものだ!聖女の力こそが、我が王国を永遠の繁栄へと導く礎となる!邪魔をするなら、誰であろうと容赦はせん!!衛兵、奴を儀式が終わるまで牢に閉じ込めておけ!!」
王の合図で待機していた衛兵たちが駆け寄り、アルドを無理やり連れ出した。彼の叫び声が廊下に響き渡り、次第に遠ざかっていった。
儀式の間に着いた王は再度召喚陣の前に立った。彼の周りには、前回よりも多くの生贄が捧げられていた──貴重な宝石、古代の遺物、そして、捕らえられた魔物の角や鱗。王はこれらすべてを捧げることで、より強力な存在を呼び出せると信じていたのだ。
「さあ、始めよう」
王は深く息を吸い込み、書き直された詠唱を唱え始めた。その言葉は古い言語で、一つひとつの音節が空気を震わせた。前回よりも複雑で長い詠唱が、聖堂に力強く響き渡った。
「神の御名において、その御使いを此処に賜らんことを欲す!我、御身の代行者たらんことを願う者なり……」
王の詠唱に合わせるかのごとく、召喚陣がゆっくりと輝き始めた。最初はかすかな光だったが、次第に強くなり、部屋全体を青白い光で満たした。風が渦巻き、生贄として捧げられた品々が浮かび上がり、光の中に吸い込まれていった。
王の目は輝いた。
「開け、聖界の門!!」
最後の一節を唱えると同時に召喚陣の光は頂点に達した。一瞬、すべての音が消えた。そして、光が収束し、新たな人影が現れた。
しかし、そこに立っていたのは、前回と同様に王が期待していた聖女ではなかった。
シルエットこそ人間の少女であっても、鱗に覆われた肌と背中に生えた小さな翼。腰からは長い尻尾がゆらゆらと揺れているその姿は竜人の少女──聖女ではないのは明らかだったが、それでも内に秘めている魔力は膨大だった。
彼女は眠たげな眼で王をギロリとにらみつける。
「……人間の王よ。何用でワシを呼び出した?ワシの安眠を妨げてまで呼び出したのだ!下らぬ用であれば、容赦せんぞ!!」
彼女の声は低く、いら立ちが籠っていた。
それもそうだろう。彼女の装いはネグリジェとナイトキャップ。その手にはぬいぐるみまで抱かれているのだ。つい先ほどまで寝ていたであろう事は確定的に明らか。返答次第では即座に殺すと言わんばかりの殺気を放っていた。
それでも、王は一歩進んだ。聖女ではなかったが、この竜人の少女も前回の魔王同様の並々ならぬ力を持っている。彼女を味方にできれば……
もはやとち狂っているとしか思えない王は声を震わせながら話し始めた。
「わ、我の願いは……この王国に永遠の繁栄をもたらす力を……」
「その先を言う必要はない。十分理解した」
竜人の少女は、王の言葉を遮った。驚くべきことに、その声は先ほどまでの苛立ちが嘘であるかのような優し気だったのだ。それは、ある意味嵐の前の静けさともいうべき凪なのだが、とち狂っている王は気付かずに胸を弾ませていた。
「で、では……」
もしかしたら、この竜人の少女こそが、聖女以上の力を与えてくれるかもしれない。
その想いは……数秒後に砕け散った。
「下らぬ理由で呼び出したのが、わかった。ならば……」
竜人の少女の目が突然、金色に輝き始めた。その輝きは急速に強まり、まるで小さな太陽が彼女の瞳の中に宿ったかのようだった。彼女は深く息を吸い込むと──
“これをくれてやろう!!”
ドン!!
彼女の口から放たれたのは、言葉では形容しがたい光の奔流だった。直径数メートルにも及ぶ極太の光束は聖堂の壁をやすやすと貫通し、そのまま街を一直線に横断。地面も家屋も人も、射線上にあるものすべてを塵に帰した。
光は城壁を貫通してなお、地面をえぐりながら遠くの山々へと向かった。山腹に巨大な穴を開けてもその勢いを弱める事なく、その向こうの地平線まで一直線に伸びていった。最終的に光が彼方へと消えたとき、そこには聖堂から遥か彼方の地平線まで続く、一直線のえぐられた地面が残された。
あまりの有様に、王は唖然としていた。彼は膝をつき、震える手で顔を覆った。目の前の光景は、先週の火の玉とはまた違う形での圧倒的な力の結晶であり、破壊の具現化だった。
竜人の少女はゆっくりと王の方に向き直った。彼女の目はまだ金色の輝きを残していた。
「覚えておけ、人間の王」
彼女の声は冷たく、鋭かった。
「ワシは狭間の竜ハロルド!!『聖女召喚』も許せぬが、なによりワシの眠りを妨げた事を断じて許さん……とはいえ、ワシもメルの姉上と同様に宣戦布告もなく国を滅ぼすほど無慈悲ではないつもりだ。よって、今回はあくまで警告の一撃に留めてやる。だがな……次も同じような儀式を行ったら、先ほどのブレスでのなぎはらいで前方が更地になると思っておけ!!!!」
警告を残すと、彼女は片手を上げて虚空を一閃。空間そのものが裂け、次元の狭間へと通じるの割れ目が現れた。
彼女は振り返ることなく、狭間への割れ目に身を投げ出した。割れ目は彼女を飲み込むと、すぐに閉じ、最初から何もなかったかのように消えた。
儀式の間には、再び静寂が訪れた。それは破壊の後の、重苦しい静寂だった。王達は、ぽっかりと開いた穴を前にして、ただ茫然と前方の地平線を見つめていた。
は か い こ う せ ん !
王国に4000のダメージを与えた!




