『あなたが居れば大丈夫!』 (その8)
【(三)○○○姉さんに花束を♡】
『あなたが居れば大丈夫!』
(その8)
8、
それは突然の出来事。
『鬼神』の周囲を取り囲む様に天空より隠れ里の結界を抜け多数の光の柱が落下してきたのだ!
「な、何が起きているんだ?」
ここのつさん が思わず叫んだ。
私と ななつ も声を出せずにその光の柱を見つめた。
もちろん、いちばん驚き動揺したのは『鬼神』だった。
彼は光の柱で造られた檻の中で呆然と立ち尽くしていた。
ーーーーーー
遠く離れた天狗の隠れ里で状況を見守っていた天狗や烏天狗たちも驚きの声をあげていた。
「あの光の柱は、もしや……」
しかし、ただ一人、大天狗だけにはその正体の想像がついていた。
ーーーーーー
天空から真っ白い大きな羽根を拡げた人物が静かに降りてきた。
彼の視線はまっすぐ『鬼神』に向いていた。
「て、天使様?」
日頃から神々からの仕事を遂行している ここのつさん が呟いた。
そうか、あれが天界の天使様なのね。存在している事はもちろん知っているけど、直にお会いしたのは初めてだわ……。
ここのつさん が地上に着地した天使様の前で膝まづいて尋ねる。
「天使様、この様な場所になぜ?」
「うむ。神の名を騙る者が地上人に災いを及ぼして居るのでな。
少しばかり仕置きをせねばなるまいと思ってね。要らぬお節介であったかな?」
「い、いえ、とんでもございません」
ここのつさん を見ていた天使様は顔をあげて次に私を見た。
え?私、何か失礼な事をしちゃったかしら?
「あなたが『砂かけさん』ですね。たったお一人であの『がしゃどくろ』を討伐して多くの人命を救ったそうですね。天界でも有名な出来事として知られております」
「は、はぁ。ありがとうございます?」
え〜と、この返答で合ってる?
私はただ まりあ の敵討ちをしただけだったんだけどなぁ。
「砂かけさん、これを貴方に差し上げます。貴方なら正しく使いこなせる事でしょう」
そう言って天使様は私の前に光る『何か』を出現させた。
私がその『何か』を手の上に乗せるとそれは真っ白い長剣へと姿を変えた。
「それは見た目は長剣ですが、実態は貴方のチカラを増幅させるモノです。どうぞ正しき事のために使いこなしてください」
なんか、私の事を誤解している気がするんだけど良いのかなぁ。
「砂かけ姉さん凄い!天使様に認められた存在だったんですね!」
「砂かけ殿ならば当然の事だ」
あぁもう、この白狐姉妹も思いっきり誤解してるしなあ。
そんな私を見つめ笑顔を見せていた天使様だけど、次に光の檻に閉じ込められている『鬼神』を厳しい目付きで睨みつけた。
「この者は過去に多くの生命を奪っております。地中で静かにしておるならまだ良かったのですが、今またこうして地上に出て来てしまった。このままにすれば再び多くの生命を奪う事でしょう。
この者の処罰は、砂かけさん。貴方の判断に委ねます」
そう言うと、天使様はフワッと浮かんでそのまま天空へと上がって行ってしまった。
それに合わせる様に『鬼神』を囲っていた光の柱も消滅した。
つまり、私にトドメを刺せ!って事なのね。良いでしょう、この天使剣(仮称)がどんなモノなのか試してみましょうか。
私は剣を両手で持って正面に構えた。すると、何もして無いのに剣先が輝き出した。う〜んと、これで斬りつければ良いって事かしらね?そんじゃ、やってみますか!
自由になった『鬼神』は、先ほどまでの私と天使様とのやり取りを見ていたせいか、私をいちばんの危険人物と判断したらしく速攻で襲って来た。
私は迎え討ち構えた剣で斬りつけた。で、その一瞬で終わってしまったのでした。
『鬼神』は断末魔の声をあげる暇もなく消滅してしまった。
私は妖力エネルギーが残り少ない状態だったので、軽く剣を振り抜く勢いだけで斬りつけただけだったんだけど、何とまぁ凄い剣を委ねられてしまったものです。
本当に私なんかがこんな凄い剣を持っていて良いんだろうか…。
ちなみに、倒すべき相手が居なくなった時点で、剣はブレスレット状に変化して左腕に装着してしまった。……ええ、もう、某ウルトラマンですよ、コレは。
まぁ、とにかく、これで一件落着ですよね!めでたしめでたしだわね。
その後、様子を確認しに来た たぬちゃん と共に隠れ里の集落に戻って来た私たちは住人たちに大歓迎されてアパートに帰るに帰れなくなってしまい、夜通しの祝宴に付き合わされてしまったのでした。
その後、貉さんの処罰はどうなったか?と言うと、まぁ、ちょっとやり方を間違えてはいたけど、結果的に不問としました。
ななつ 一人だけ貧乏くじを引いた感じだけど、そういうのも人生経験の一つとして何かに活かして欲しいわね。…知らんけど(笑)
私たちは たぬちゃん のチカラで何時でもアパートに帰還出来るとはいえ「夜のうちに私たちが帰ってしまうと子だぬきちゃんたちが悲しむから」とユウキが言うので、結局ひと晩だけ集落に泊まり翌朝帰る段取りとなった。
翌朝、朝食後の里長の家のリビング。
私たちは食後のティータイムを過ごしていた。
里長さんのご家族は、既に昨日の後処理のため出て行ってしまっていて、居るのは私たちと子だぬきちゃんたちだけだ。
『野槌』の死骸とかそのままになってるからね。
私たちも処理に加わろうとしたら丁寧に断られた。
「せめて、これぐらいは私ども里の者でやらせていただきます。どうぞ皆様はお身体を休まれてくださいませ」 だそうです。
「あの、ムジ兄さん。弟さんの事だけど……」
ユウキと ななつ が、子だぬきちゃんたちと賑やかに遊んでいるのを眺めながら たぬちゃん が貉のムジに話しかけた。
私と ここのつさん はそれを静かに聞いている。
「私が知る彼は他人から金品を騙し盗る様な人では無かったはず。
いったい何があったのです?」
彼は哀しそうな瞳で語る。
「弟は、アイツは、僕以上に人間を憎んでいたんだ。これは たぬちゃん には話した事は無かったけど、実は『化け貉のあやかし』になる前の僕たちには他にも家族が居たんだ。けど、皆んな人間たちの狩りで殺されてしまった。
僕と弟も追われた。しかし瀕死状態になりながらも何とか逃げきった。そして、気付くと僕たちは妖力を持った『あやかし』へと変化していたんだ」
そうか、この人は生まれながらの『あやかし』じゃ無かったのか…。
「僕はそれ以降、極力人間と関わらない様に過ごしていたんだけどね。アイツは許す事が出来なくなっていったんだろうな。
だから、この隠れ里に来た頃から人間に復讐する様になっていった。この場所なら逃げ帰って身を隠せるからね。…伝え聞く限りだと今は天狗族の管理する施設で真面目に働いて居るそうだ。アイツが辛うじて今も死なずにいられるのは、ここに居る ここのつさん が取り返しのつかない事態になる前に捕らえてくださったおかげだと思ってる」
「そうか。私は貴方の弟を捕らえた者として恨まれているものとばかり思っていたのだけどね。そう言ってもらえるなら助かるな。
まぁ、確かに烏天狗の討伐隊ならば情け無用に処罰してしまった可能性もあったのは事実だけどね」
たぬちゃん は「そうだったんですね」と静かに呟いて悲しげな表情を浮かべていた。
それきり私たちに会話は無かった。
リビングには、ユウキ、ななつ、そして子だぬきちゃんたちの楽しそうにはしゃぐ声だけが響いていた。




