『あなたが居れば大丈夫!』 (その9)
【(三)○○○姉さんに花束を♡】
『あなたが居れば大丈夫!』
(その9)
9、
天狗族の隠れ里。
大天狗が居る広間の空間に亀裂が入り、その中より烏天狗が現れた。
「大天狗様。昨日捕らえた『鎌鼬』の証言により特定された場所への調査から只今戻りました」
「うむ、ご苦労だった。しかし、その様子からすると空振りであったのだな」
「はっ。残念ながら室内はもぬけの殻でありました。…まぁ、それ自体は想定通りの結果ではあるのですが、しかしながら建物内やその周辺を丹念に調査したところ、建物近くの地面の片隅にこの様な代物が幾つかございました。ご確認を」
と言って懐から取り出した袋を大天狗に手渡した。その中身はあの鎌鼬のリーダーが持っていたモノと同じ「魔薬が入っていた容器」の幾つかの破片であった。
「おそらく、容器を地面に叩きつけて破壊する際の壊れ具合の実験などをしていたのではないかと」
「ふむ、石を薄く加工して割れやすく造っている様だな。かなり特殊な技術を持っている者でなければ造れない代物か…」
烏天狗が調査に赴いていた場所は、鎌鼬のリーダーが受け取った魔薬を造った者の住み家であった建物だった。
人物像については頭から全身黒装束姿で良く判らなかったと証言している。
八百八狸の隠れ里の地下に凶悪な『あやかし』が封印されている事を教えたのも、鎌鼬たちをそそのかし里に侵入させて襲わせたのも、全てその人物の手引きであったらしい。
今のところ確実と言えるのは、その『全てが謎の人物』が中心になって暗躍している事だけだ。
「調査の方は引き続き行っていてくれ。今回は八百八狸の隠れ里という限定的な場所での事件であったが、次はどうなるか判らないのでな。頼むぞ」
「心得ました!それでは私めはこれにて失礼いたします」
そう言って烏天狗は姿を消した。
一人残った大天狗は彼の持ってきた石の破片をジッと見つめていた。
「石の扱いに長けた者と、魔薬なる代物を造りだせる者。或いはその両方をこなせる者か」
それは大天狗にも見当のつかない
存在だった。果たしていったい何者なのだろうか?
そして、その人物は如何なる目的をもって暗躍しているのだろうか?………………。
ーーーーーー
八百八狸の里の人たちに盛大なお見送りをされてアパートに帰って来た私たちを待っていたのは『新しい家族』と、私たちが不在にしていた僅かの時間だけで造られたとはとても思えないほどの本格的な『キッチン設備』だった。
大家くんとぬら爺に笑顔で紹介されたのは、和装姿の『あやかし』で「小豆洗いのあずさん」という年配の女性。ぬら爺とは昔からの知り合いなのだそうで、アパートの住人たちの食生活の面倒をみてもらうため来てもらったのだとか。
彼女は人間世界で永く暮らして来ていて、今まで様々な食堂やレストラン・料亭・その他、料理関係の仕事全般を熟してきた超ベテランの料理人で『あやかし』としてのチカラは「今まで体験して来た料理を作るための環境を自在に再現出来る」という料理作りに特化した極めて特殊な能力。
今まで何にも無かった1階の大部屋に、突如出現したキッチン設備も彼女のそのチカラによるものらしい。
本人はとても朗らかで気立ての優しい女性で、アパートのチビちゃんたちにとっては既に母親ポジションと言える存在になっている様だった。
私たちが帰って来た時、チビちゃんズは彼女が作ったおやつを食べながらキャイキャイしていたし。
「あら、ここのつちゃん じゃないの。お久しぶりねぇ、ちゃんと食事してるの? また〈私たち『あやかし』には定期的な食事は不要だ〉とか言って食べて無いんじゃないの? だめよぉ『あやかし』だってちゃんと食事摂らないと精神的に疲労しちゃうんだから大事なんだからね!さ、ここのつちゃん、それからあなた達もボーッと立ってないでそこに座りなさい。今すぐに美味しい物をこさえてあげますからね!さぁさぁ、早く座って座って。ちょっと待っててね。さて何を作りましょうかねえ……良し、決めた!え〜と、確か冷蔵庫の中に昨日の買い置きが……」
彼女は ここのつさん の顔を見るなり一気に捲し立てた。
(そっか、彼女は ここのつさん とも知り合いなのね)
そして私たちも言われるままに机に座らされた。
いやあ、パワフルと言うか、超おばさんパワー全開と言うか、何か凄い人が新たな家族になったわねぇ。
…でも、彼女が居るだけでこのアパートが凄く華やかで楽しい雰囲気になった感じだわ!
本当に素敵な人が来てくれました。
ぬら爺、グッジョブ!!
で、彼女がチャッチャッと作って「はいどうぞ、召し上がれ♪」
と言って出してくれた料理はシンプルなピラフとサラダとスープ。
調理風景を見ていた感じだと、料理自体は妖力など使わずに純粋に腕前だけで作っていたみたい。
そして、ひと口食べてビックリ!
「なに?この美味さ!!」
まるで高級ホテルのレストランで出される様な味わい!
(あ、もちろん高級ホテルのレストランなんて行った事無いけどね)
さすが超ベテラン料理人ですわ!
たぬちゃん、ユウキ、ななつ は当然だけど、あの ここのつさん ですら夢中で食べてる!
う〜む『道を極める』ってこういう事を言うのね……。
ーーーーーー
それから数日経ったある日の昼過ぎ。
昼食後の大部屋で皆んなマッタリしていた。
ぬら爺と あずさん は何やら昔ばなし。本日は大家くん一人で読書会。チビちゃんたちは恒例のお絵描き大会で、たぬちゃん が見守りお姉さん。ミケタマちゃんと花子ちゃんの2人は携帯ゲームで遊んでるわね。
そして、私とユウキ、ななつ の3人は何気につけていたテレビ番組を観ていた。
その内容はと言うと、先日の貉のムジ氏がやらかした公園での怪奇現象騒動を特集した企画番組で、ちょうど公園内に取り残された人たちへのインタビューをしている所だった。マイクを向けられて応えていたのは若いカップルの男性の方で「怪奇現象中の公園内での状況は?」という質問に彼はこんな事を言っていた。
「どういうワケかあまり覚えていないんです。いえ、自分たちだけで無くて一緒に居た皆さんも同じらしいんです。
ただ、なんとなく記憶に残っているのは二人の少女が自分たちの前に立って皆んなを守っていてくれていた様な気がするんです。
で、その二人のうち一人は確か長い黒髪の少女だったと思うんですけど、…実は僕は幼い頃に横断歩道でトラックに轢かれそうになった事がありまして、その時も長い黒髪のお姉さんが救けてくれたらしいんです。でも、そのお姉さんの姿は事故現場から消えていて、どんなに探しても見つからなかったそうで、僕を救けてくれたのは幽霊だったんじゃないか?なんて言われたりしてました。
今もその真相は判らないのですけど、ただハッキリしているのは、僕はこうして今も元気に生きているって事です!もうじき彼女と結婚します。彼女のお腹には僕たちの子どもが居ます。来年には僕は父親になるんです。それも全部あの時の僕を救ってくれたお姉さんのおかげなんです!
もし本当に幽霊だったとしても、僕にとっては女神様なんです。
今回の公園で僕たちを守ってくれていたのは、あの時のお姉さんだったんじゃないか?なんて思っているんです!」
テレビの画面を見つめていたユウキの瞳からはツウっと涙が流れていた。
そうかぁ、18年前にユウキが身体を張って救けた子どもは、今も元気に生きているんだね。そして、その子どもがもうじき父親になるのね。
……良かったね、ユウキ。
あなたは結果的に二つの生命を救ったんだよ!
ユウキは私の自慢の『妹』だよ!
まりあ にもシッカリ伝えておくからね!
ユウキ本人から彼女の過去の事情を聞いて知っている ななつ も「良かったね、女神様♪」なんておどけて言いながらユウキを抱きしめていた。
そんな ななつ の目尻からもしっかり涙が流れていたのでした。
ーーーーーー
その日の深夜。
私がアパート2階へと階段を上がってくると、バルコニーへ続く扉が開けっ放しになっているのが目に止まり閉めようと近づくと、そのバルコニーでユウキが一人で夜空を見上げて居るのが見えた。
「どうしたの、こんな夜遅くに。ユウキにしては珍しい事をしてるね」
近寄って声をかける。
「ええ。今日のテレビ番組で、私が18年前にトラック事故から救けた方が出てインタビューに応えていたじゃないですか。
……その事を考えていたんです」
「あぁ、やってたよね。
……もしかして、その時の自分の行動を今になって後悔してる?
その事故で、ユウキは今の時代に跳ばされて人間では無い『あやかしモドキ』になってしまったんだものね」
ユウキは慌てた顔をして、私の発言を手を振って否定した。
「え?違います、違いますっ!
むしろ逆です。私は今こうして居られる事で、かけがえの無い大きな恩恵を受けている気持ちでいっぱいなんです!
過去の時代では絶対にありえない『まりあ先生と親密な関係』になれましたし、お姉様やたくさんの『あやかし』の方たちともお会いする事が出来ました。
先日の様に『八百八狸さんたちの隠れ里ヘ行く』という、私にしてみれば大冒険も経験出来ましたし」
「あ〜、アレを『大冒険』だと言うのはどうかしら?とも思うけど、それじゃあ何を考えていたの?」
「18年という時の流れの重さ…でしょうか。私は18年間分の時間を一気に翔んでしまったワケですが、あの私が救けた方は同じ18年間の時間を幼児から大人になるまで一歩ずつ成長されて来たのですよね。
つまり、本当なら私にもその18年間という時間が合ったはずなんです。ならば、私だったらその18年間という時間の中でどんな経験・成長があったのかな?…なんて考えていたら、何だか眠れなくなってしまいまして」
「なるほどね。まぁ良く考えたら『18年間を一気に跳んだ』と言っても、ユウキがこの時代に来てからまだ1年も経ってないんだものね。つまり、1年前は未だ『18年前の時代の女子高校生』だったのだから、色々思う事もあるわよねえ」
「ユウキ、私たちは永遠の時間を生きる『あやかし』よ!
過ぎちゃった時間はもう取り戻せないけど、この先の人生に終わりは無いわ!私が側に居て、ずっとキッチリ付き合ってあげるから覚悟しなさい!」
そう言って ななつ が屋根からバルコニーにフワッと飛び降りて来た。
「ななつ、あなたいつからそんな所に居たの?」
ユウキが呆れて言う。
「え、ユウキがバルコニーに来た時から一緒に居たよ?なんか様子が妙だったから気になってコッソリ隠れて監視してたのよ」
「何が『監視』よ。失礼しちゃうわね、もう!」
プンスカ顔をしながらも何だか嬉しそうなユウキ。
「はいはい。もう遅いから二人とも部屋に戻ってお眠タイムになさいな。明日は二人でお出かけするんでしょう?
それに朝食時間に大部屋に来ないと、あずさん激怒するわよ!あの人普段は温厚だけど、食べ物を無駄にすると別人の様に激怒モードを発動するからね」
そう言うと、顔色を変えた二人は私に就寝の挨拶をして大人しく仲良さげに話し合いながら部屋に戻って行った。本当に、もうすっかり『親友』よね、あの二人。
「さて、私も寝ましょうっと!」
そして私も『親友のまりあ』から貰った「砂かけ婆……」のぬいぐるみが待っている自分の部屋に戻るのだった。
【(三)○○○姉さんに花束を♡】
『あなたが居れば大丈夫!』
(完)




