『あなたが居れば大丈夫!』 (その4)
【(三)○○○姉さんに花束を♡】
『あなたが居れば大丈夫!』
(その4)
4、
私たちは、八百八狸たちの隠れ里の全体を見渡せる崖の上から状況を確認しています。
まだ陽の高い明るい時間帯なので、緑に囲まれた自然豊かな風景が良く見渡せます。
その隠れ里は人間が訪れる事は滅多に無さそうな深い山奥にありました。むかし、私がたぬちゃんたちと暮らしていた場所に良く似ていますね。…もう、その場所は人間たちの土地開発で喪われてしまったらしいですけど。
たぬちゃんは、先ほど言った通り現地に着くなり速攻で隠れ里の場所を見つけ、さらに、解読は難解と思われた旧い技術で構築された結界の一部に難なく穴を開けて、呆気なく内部へ侵入してしまいました。
改めて、彼女のチカラに驚かされた一同でありました。
さて、問題の隠れ里の状況なのですが、明らかに『妙』なんです。
「なんか、思っていたイメージとは違いますね」
ななつ が小声で呟いた通りでした。どこを見ても人が居ません。
いや、良く見ると奥の広場らしい場所に数人居ました!…けど。
「あれユウキちゃんよねぇ。で、周りに居るのは子だぬきだけ?
あ、隅のベンチに座って居るのは『貉』ね。公園では何故か黒い影姿だったけど、あれが彼の本来の姿なの」
彼と公園で対峙した時の彼女の反応からも察していたけど、どうやら たぬちゃん は『貉』とは面識があるらしい。
その姿は人間で言えば20代半ばくらいの青年で、私たちの居る遠くから見ても頭部の耳と大きな尻尾が確認できる。
まぁ、判りやすく言えば、たぬちゃんの男性版かな?
「私の見間違いで無ければ、ユウキ嬢は子だぬきたちと楽しげに遊んで居る様に見えるのですが、コレはいったいどういう状況なのでしょうか?」
私も ここのつさん の感想に同意します。状況がまるで判りません。いったいユウキは何をやってるのかしら?
「姉さん、行きましょう。状況はともかく、私たちはユウキの救出に来ているのです。あそこに居る彼女を無事に連れ帰れば良いのですから!」
そう言って動き出そうとする ななつ の肩を ここのつさん は掴んで止めた。
「少し待て!その前に確認すべき事がある」
彼女は、ずっと『貉』を見つめている たぬちゃん に尋ねた。
「たぬ殿にお聞きしたい。これは本当に失礼極まりない事で恐縮ではあるのですが…あそこに居るユウキ嬢は本物でしょうか?」
「え、姉さん?」
「ななつ は知らぬかも知れない。いや、私もその当時を直接知るワケでは無いのだが、かつて『八百八狸』は四国に存在していた『全きつね種族のあやかし』に対し、その秀逸な化けのチカラを使い、欺き、時には粛清を実行して全て追い出してしまったという過去があるのだよ」
たぬちゃん は『貉』を見つめていた視線を ここのつさん に移した。
「もちろん、それは大むかしの話しだ。今の四国にはちゃんと大勢の『きつね種族のあやかし』が平和に暮らしている。安心して欲しい。
だが、ぬら爺の話しによると、この隠れ里に暮らす八百八狸は、その因縁の過去の時代に移り住んで来た世代らしいからな。
彼らが、敵対感情を持つきつね種族である私たち白狐がユウキ嬢の救出に来る事を見越した罠を仕掛けている可能性もある」
「その様な悲惨な過去があった事は、山奥で生まれ育った私でも聞いた事があります。ですが、それはもう遥かなむかしの時代の話しです。だから、無責任かも知れませんが、今の時代に生きている私はその過去の遺恨を語る資格も術も持っていません。
ですので、今、ここのつさん にお話し出来る事はこれだけです。
あそこに居るユウキちゃんは、正真正銘『本物の彼女』ですよ♪
だって、幻術使いの私には『たぬき種族のあやかし』が使うどんな幻術も効きませんもの!」
「丁寧なご返答、ありがとうございます。大変ご無礼なお尋ねをしてしまい申し訳ありませんでした。もし、お気に触られた様でしたら深くお詫び致します」
「ここのつさん。硬いですよ?
もう少し柔らかく生きましょうよ♪」
ニッコリ笑顔のたぬちゃん。
「じゃあ、皆んな良い?とりあえずユウキの居る広場に向かいましょう!一緒に居る『貉』への対応は……まぁ出たとこ勝負って事で!」
私の掛け声で全員が崖を降りてユウキの居る広場に近づいた。
私たちが歩いて来た事に最初に気づいたのは『貉』だった。
彼はベンチから立ち上がり、子だぬきたちと遊んでいるユウキに何かしら声をかけていた。
言われて振り返った彼女は嬉しそうな笑顔を見せるものの、その場から逃げて来ようとはせずに幼い子だぬきの手を離さない。
改めて見ると、ユウキの側に居る10人(10匹?)の子だぬきは全員幼いチビちゃんばっかりだった。
知らない私たちが近づいて来たのが怖いのか、皆んなユウキの後ろに隠れる様にしてこちらを見ている。
私たちがユウキに声をかける前に『貉』がこちらに近づいて来てこう言った。
「やはり皆さん、ユウキさんを追ってこの場所まで来てくださいましたね。たぬちゃん が居るので隠れ里の結界は問題無く通れると思いましたが、さすがでございます。
そして、この度は誠にすみませんでした。僕はどの様な処罰もお受け致します。が、その前に一つだけお頼みしたい事がございます。
……どうか、お願いしますっ!
この隠れ里の集落に住む者たちを救っていただきたいのです!!」
そうして彼は深く頭を下げたのだった。
その突然の事態に、私たち4人は反応できずに返す言葉を見つけられなかった。しかし、その横に立つユウキの沈痛な表情を見て私は理解した。
あぁ、詳細は未だ判らないけど、これは本当に何かマズい事が起きているんだ、と。
そして、私たちはまんまと彼、『貉』の狙い通りの行動をしてしまったのか、とも。
「判ったわ。とりあえず、詳しい話しを聞きましょう」
ここのつさん、たぬちゃん、そして ななつ も異論は無い様で静かに聞き入っている。
『貉』は、その言葉に安堵して詳細を語り始めようとしたが、私はそれを手のひらで制した。
先ほどから私たちを監視している視線があるのだ。
おそらく、他の3人も気づいているはずだ。
私は感覚を澄まして視線の元を探り、後方の物陰に居る人物を発見した。場所さえ特定できたなら話しは早い。
素早くチカラを発動して、隠れている人物の足元の地面から土を固めて作った2本の手を出現させ両足を掴んでしまった。
掴まれた足元を見て慌てた彼が、ふと気配を感じて顔をあげると、そこには瞬間移動した ニッコリ笑顔のここのつさんが居た。
「はい、お疲れさま。おやすみなさい」
ここのつさん に当て身を喰らい気絶した彼を、今度は たぬちゃん が速攻で造った異空間に引っ張りこんで、終了。
ななつ も、不測の事態に備えてユウキや子だぬきたちの前に瞬間移動して待機していた。
それらは全て一瞬の出来事。
『貉』も、子だぬきたちも、呆気にとられて反応する事すら叶わなかった。
まぁ、ユウキだけは当然とばかりに平然としていましたけどね。
「い、いや。お見事でした。一瞬過ぎて、僕には何が起きたのかも認識出来ませんでした。僕の幻術のチカラでは、奴らの目を誤魔化して隠れ里から外に出るのが精一杯でしたのに」
『貉』は、やっと言葉を発する事が出来た。子だぬきたちは口々に「おねえちゃんたち、すごお〜い!」等と言ってはしゃいでいる。
「発していた妖力からすると、今の奴の正体は『鎌鼬』でしたね。この八百八狸の隠れ里に居るには不釣り合いな『あやかし』だ。
『鎌鼬』は常に集団で行動する特徴がある。まだ他にも多数居るはずです。コイツらがこの隠れ里で何かしらやらかしている。というワケなのかな?」
一応、周囲を確認しながら戻ってきた ここのつさん が語った。
『あやかし・鎌鼬』
その名の通り「イタチ」が『あやかし化』した存在で、通常は集団で行動する。両腕の先端が鋭利な鎌状になっており、突風に乗って素早く対象を斬りつける凶暴な性格をした連中。
ただし、今彼女たちに瞬速で始末された個体は人間態の姿のままで、その本態を現すヒマも無かった様だ。
「はい。ですが、この場所は目立つ様ですので移動しましょう。そちらで詳しくお話しいたします」
私たちは『貉』の案内で移動する事のなった。もちろん、ユウキや子だぬきたちも一緒にね。




