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『あなたが居れば大丈夫!』 (その3)

【(三)○○○姉さんに花束を♡】


『あなたが居れば大丈夫!』

(その3)


3、


住人たちが全員顔を揃えているアパート1階奥の大部屋には沈痛な雰囲気が漂っていた。

ただ、ななつ の嗚咽のみが聞こえている。


「私の、私のせいでユウキがっ!ユウキがっ!!」


「……ななつ。あなたのせいじゃ無いよ。私が油断していたんだ。あの時、ユウキの一番近くに居たのは私だった」


砂かけ が悔しげに呟いた。

たぬ も膝の上で両手を握りしめている。


大家の神谷も、ちびっ子たちも何も言えずにしている。


ぬら爺は、状況の報告と今後の相談のために天狗の隠れ里へ、大天狗の処へ出向いていて不在だ。


そこへ、ななつ の姉。ここのつ の姿が現れた。

彼女は現れるなり深く頭を下げた。


「妹が側に付いていながらの大失態。申し訳無いっ!!

私が責任を持って必ずユウキ嬢を連れ戻しますっ!

そして『貉』の奴は私が始末しますっ!

しばし待っていただきたい!」


「……姉さん」


「お前はそこで何をしている!泣いているヒマがあるなら動け!!」


「待って、ここのつさん。動くと言っても『貉』とユウキが何処に居るのか判らないのよ。

今、ぬら爺が大天狗様の処へ相談に行ってるの。

大天狗様なら何かしら情報を持っている可能性があるから、それを待ちましょう」


「砂かけ殿、何故そんなに落ち着いていられるのです?

ユウキ嬢の身が心配では無いのですか!?」


「それは大丈夫。おそらくアイツはユウキ自体には興味を持っていない。単にあの場に居た一番非力な彼女が選ばれただけだと私は判断しているわ。

それよりも、ユウキを拐ってまで何をしようとしているのか?

それが判らないの」


ここのつ は一度目を閉じて息を吐いてから語った。


「アイツの狙いはおそらく、いや、間違い無く私を誘き出す事です。だから私の妹が油断している時を見計らい罠を仕掛けて来たのだと思います」


砂かけと たぬ は、予想外の事を語る彼女を見つめた。


「信頼の置ける皆さんだから打ち明けますが、私は普段様々な神から仕事を請け負いその任務を遂行しています。そのため直接私の動向を知るのは困難なので、手っ取り早く私を捕まえるために妹を狙ったのでしょう」


「もしかすると、その任務の中で『彼』と何かしら関わったとか?」


たぬ が興味深げに尋ねた。

彼女も『貉』と同じ幻術使いなので、彼については少し気になる点があるのかも知れない。


「そうです。とは言え、直接彼と関わったのでは無く、関わったのは彼の弟なのです。彼の弟は幻術を使い弱者から金品を奪う行為を繰り返していたので、烏天狗が幾度と無く捕らえようとしていたそうですが、その幻術に翻弄され捕まえる事が出来なく私に捕獲の仕事が回って来た、と言うワケです。私たち白狐も少なからず幻術の覚えがあります故、惑わされる事なく私に捕獲された弟は今天狗族の管理下に居るはずです」


「ええ、それで ここのつさん を狙うのは完全な逆恨みですよね」


「そうなりますが、しかし仮に私の呼び出しに成功したとしても『貉』に私をどうこうする程のチカラは無いはずです。なのに、今回の強行な手段はどうにも妙な気がします。何かしら裏がある。と私は考えております」


「相変わらず読みが鋭いのう、お前さんは」


ぬら爺がそう言いながら部屋に入って来た。


「む、ぬら爺か。アンタも相変わらずいきなり現れるのだな。

で、その物言いからすると、大天狗は何か情報を持っていた様だね」


「『貉』の後ろには、どうやら『八百八狸はっぴゃくやだぬき』がついている様じゃな」


それには同種族の たぬ が驚きの声をあげた。


「え?待ってください『八百八狸』の皆さんは確か四国にお住まいのはずですよ?

こんな離れた関東の地方都市まで来ているのですか?」


『八百八狸』は、彼女の言う通り四国を拠点として暮らしている大集団の『あやかし』で、強力な幻術を使いこなす。

また『あやかし』では珍しく、天狗族の様に男女で結婚して家族となり、子どもを産み育て生命を繋いでいく種族でもある。つまり、単独な存在では無く、複数の家族が集まり群れを成し一つの大きな社会を形成している集団なのである。


「大天狗の持っている情報によると、大むかしに一部の集団がこちらまで足を延ばしていたらしいのう。しかし、現在は僅かに残った数家族のみが山奥に隠れ里を造って住んでいるらしい。あ奴とユウキちゃんは今、その隠れ里に居る」


それを聞いて ここのつ が尋ねる。


「ならば大して問題にならないのではないのか?それともその隠れ里に居る僅かな者の中に、なんと言うか『曲者』が居るのかい?」


「それが全く判らんのじゃよ。なぜ『貉』の奴めがあんなに強気な態度でいたのか?お前さんを呼び出したとして、それで何をしようとしているのか?」


「それなら、ここで私たちで語り合っていても埒が明かないわね!

じゃあ、アイツと連れて行かれたユウキはその隠れ里に居るのね。で、その隠れ里の場所は判っているの?」


砂かけが声をあげた。


「大まかな場所ならば判明しているそうじゃが、何しろかなり大むかしに造られた『隠れ里』なのでのう。使われておる結界術も現在では失われた代物で、天狗族の神通力を持ってしても正確な位置までは特定出来て居らんらしい。

逃げるあ奴の波動を追った烏天狗も、途中で見失ったそうじゃ」


「あ、それなら、私がその場所の近くまで行けば判ると思います。

天狗族の皆さんが住んでいる様な『異空間の隠れ里』だとさすがに無理ですけど、現実世界にあるのであればソレがたとえ失われた術の結界で巧妙に隠されていたとしても、え〜と『同族間の共鳴』だったっけ?…で、判っちゃうんです。

これでも私、優秀な『化け狸の幻術使い』ですもの!」


たぬ が手を上げながらそう言った。


「決まりね!今回は下手すると激しい戦闘が起こる可能性もあるから、ぬら爺は大家くん、チビちゃんたちと一緒にアパートに待機していてくれるかしら?」


「そうじゃな。ワシには直接戦える様なチカラは無いしのう。ここで待たせてもらおうかの」


そう言いながらも少し残念そうな、ぬら爺。


「ななつ!」


「はいっ姉さん!」


「今回は油断は禁物だ。なにしろ敵陣に直接乗り込むんだからな。しかも何が待っているのかも判らない。………が、イケるな?」


「もちろんですっ!ユウキを絶対に救けなきゃ、そして、謝らなきゃなりません!…でないと、でないと、私はもう二度と彼女に顔向け出来ません。せっかく私にできた『初めての友人』なのに…………」


うつむく ななつ の肩に、 たぬ が優しく手をかけた。


「大丈夫!私たちも居るんだから安心して!ユウキちゃんを無事に救けて、今度こそ誰にも邪魔されない『二人だけのお出かけ』をしなきゃね!」


「……は、はい。ありがとうございます。よろしくお願いします!!」



「それじゃあ、ぬら爺、大家くん、そして皆んな!行ってきます!」


4人は互いにうなずきあい、ぬら爺からの場所情報をもとに、たぬ のチカラ(通称・どこでもドア)で隠れ里の近くまで出発した。


「今、行くからね。ユウキ!」


ーーーーーー


そんな感じで4人が隠れ里へと向かった頃、アパート前の門扉で一人の和装姿の中年女性が建物を見上げていた。


「ここね!あぁ、やっと辿り着いたわ。ホント、人間の街なかって複雑で嫌んなっちゃうわぁねぇ。

よし、じゃあ行きますか!」


女性は門扉を抜けてアパートの扉を開いた。


「え〜と、すいませ〜ん!こんにちわぁ〜!わたしぃ、お客さんですけどぉ〜〜!!」


そして、その彼女の風変わりな呼び声がアパートの入口に響いたのでした。

……和装姿の中年女性。とは、ほど遠いイメージの物言いでしたが。



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