『あなたが居れば大丈夫!』 (その2)
【(三)○○○姉さんに花束を♡】
『あなたが居れば大丈夫!』
(その2)
2、
「…幻術の可能性かぁ。確かに本物の樹木子にしては可怪しい感じもするけど。何か試す方法はありそう?」
私の考えを ななつさん に聞いてみると、やはり彼女も違和感を感じていたらしいです。
もし本当に幻術ならば、それがどんなに精密に再現されていようとも「実体の無い虚像」でしかありません。ならば、それを確認するのが一番ですよね。
しかし、万が一本物だった場合の事を考えると、戦えるチカラがある ななつさん が、建物内に居る皆さんの近くから離れるワケにはいきません。
ええ、考える必要はありませんよね。
私には戦えるチカラはありませんが『あやかしモドキ』である特性上「致命傷を受けない限りは常に体調を良好な状態に保つ」という特徴があります。
多少、血を吸われたからといって、普通の人間の様に直ぐに死ぬ事はありません。
つまり、私が動くのが最良の選択なのです!
「え!?ちょっとまってユウキっ!私が側に居るのにあなたにそんな危険なマネはさせられないよ!!」
まぁ、そういう反応になるでしょうね。
「あの、わがままなお願いをひとつ聞いてくださいますか?
もしあの樹木子が幻術で無く、私が絶体絶命となったなら白狐のチカラで救出してくださいませ。
もちろん、それでこの街を出る時には私もご一緒いたします。
私は、あまりお役には立てないかも知れませんが、身の回りのお世話ならば出来ますから!」
「もう!ホントにそれは『わがままなお願い』じゃないの!
……でも、ユウキと二人旅かぁ。そうだね。それも楽しいかも知れないね。判った!必ず救けるから!!」
というワケで、半分心配で半分嬉しそうな顔をしている ななつさん に見送られながら私は土の地面に足を踏み出しました。
…やはり特に変化は起こりません。
そもそも、先ほど逃げ遅れていた人を探すために公園内を走り回った際にも変化はありませんでしたものね。
私は慎重に歩みを進め、一番近くに立っている樹木子に触れてみました。いや、触れようとして出来ませんでした。
伸ばした私の手は樹木子をすり抜けてしまったのです。
やっぱり、幻術の樹木子でした!
それを見守っていた ななつさん と店内から様子を伺っていた皆さんから「おお〜っ!」という声があがりました。
「へえ、なかなか度胸があるお嬢さんじゃないか」
突然、一部の樹木子の幻影が消えて黒い影が地面から現れて声をかけてきました。
声は男性の様ですが、姿がハッキリと判りません。
そこへ駆け寄って来た ななつさん が私の前に立ちました。
「誰よ、あんた!ネタバレしたんだから正体を見せたらどうなのよ!」
「ほお、あんたは白狐だね。妖気で判るよ。う〜ん、そっちの長髪のお嬢さんは良く判らないけど、やっぱり人間じゃないみたいだね。コレは天狗族の神通力かな?
でも天狗では無さそうだな」
良く喋る人だと思った。
しかし『あやかし』なのは間違い無い。コレだけ大掛かりな幻術を使う『あやかし』だもの、危険な存在な事に変わりは無い。
とにかく、私たちの後ろに居る皆さんを早く逃がさないとマズいと思うのだけど、しかし、樹木子が幻影だったとしても結界は消えて無い様だ。
果たして、ななつさん が白狐化して本気で対応すれば何とかなる相手なのだろうか?私は彼女の完全態を未だ見た事が無いので判断が出来ない。
ななつさん も本気を出して良いのか迷っている様に見える。
黒い影の男は動かない。
そもそも、この人は何をしたいのだろうか?
樹木子の幻影で公園を取り囲んでどうするつもりだったのか。
私たち、逃げ遅れた人を結界に閉じ込めて何かしらするつもりなのか、或いは本当は全員を公園から追い出そうとしていたのか?
そんな思いでどうにも判断が出来なくて立ち尽くしていた時でした!
いきなり結界の中に残っていた樹木子の幻影が全て消え、そして結界の表面に亀裂が入り大きな穴が開きました。
黒い影の男が動揺している。
つまり、コレは………!
「ふう〜。やっとこさ切れました!ユウキちゃん、ななつちゃん、お待たせしましたぁ!」
穴から出て来たのは、化け狸モードのたぬお姉様。
続いて、砂かけのお姉様と、ぬら爺様も現れました!
良かった!どうやら私たちは助かった様です。
ぬら爺様は逃げ遅れていた人たちの処へ向かい、何か術を使ったみたいです。皆さん、座り込み寝てしまいました。
おそらく『あやかし』に関する記憶を曖昧にしたのだと思います。
「おやまぁ。砂かけ、ぬらりひょん、そして…化け狸の皆さんですか。コレはかなり旗色が悪い状況となりました。困りましたねえ」
3人が結界を破って現れた時には一瞬動揺していた男ですが、口ではこんな事を言いながら妙に落ち着いているのが不気味です。
「お姉様、ありがとうございます。どうにも対応しづらい相手なので困っていました」
「砂かけ姉さん、たぬ姉さん。コイツ何なんです?幻術のチカラはやたら強力なんですけど、何をしたいのかサッパリなんです」
私と ななつさん はお姉様方の元へ駆け寄りました。
「たぬちゃん、この幻術の妖気ってアイツじゃないかしら?」
「そうね。悔しいけど幻術の腕前は私より格上の『彼』に間違い無いと思うよ。…そうですよね?『貉』さん!その黒い影は何のつもりなんですか!?」
「いやあ。私も有名人になりましたねぇ。いやあ、困った困った♪」
あああっ。砂かけお姉様が本気でムカついてます。
優しい たぬお姉様 もちょっと目つきが怖いです。
いったい、どういう意図で彼はあんな態度を続けているのでしょうか……。
「あゝもうっ!何なんですか、コイツ!もう限界です!私がケリをつけます!!」
そう言うやいなや、ななつさん の身体が輝いて白狐の姿になり、お尻から巨大な尻尾を7本出現させて『貉』の前に立ちました。
あれが彼女の本態なんですね!
「おやおや。遂に化けぎつねの姿になりましたねぇ♪凄い凄い♪♪」
「ななつちゃん、ムキにならずに落ち着いて!やっぱりどうも『彼』の態度が可怪し過ぎる。
絶対、何かしら意図があるはずよ!」
「でも たぬ姉さん。『貉』って確か幻術以外には大したチカラを持ってませんよね!
単に打つ手が無いから余裕がある様に見せているだけなんじゃ?」
「はいはい。そうまで仰っしゃるのならば、少しだけ遊んで差し上げましょう♪
…そうですね。よし、決めた!あなたが面白そうですね!」
『貉』がそう言いながらパチンと指を鳴らすと、お姉様方の後ろで状況を見守っていた私の両サイドに黒い影が現れ、私は両腕を掴まれてしまった!
あああ!ゆ、油断していましたっ!!
そして私はそのまま連れて行かれてしまったのです!!
「ユウキ!」
「ユウキちゃん!」
砂かけお姉様、たぬお姉様、そして ななつさん が振り返った時には『貉』の姿も消えていたのだとか。
「ユ、ユウキーーーッ!!」
後には、呆然とした ななつさん の絶叫が響き渡った………そうです。




