『あなたが居れば大丈夫!』 (その1)
【(三)○○○姉さんに花束を♡】
『あなたが居れば大丈夫!』
(その1)
序、
私はユウキと申します。
18年前にはごく普通の17歳の女子高校生だったのですが、現在は、とある事件で現代にタイムスリップした際のアクシデントで『あやかしモドキ』となりまして第2の人生を歩んでいます。
この『あやかしモドキ』と言いますのは、名前に「あやかし」と付きますものの特殊な能力があるワケでは無く、単に老いや寿命の概念が無くなった「だけの」人間なのです。
つまり、現在の私は本来なら35歳の身体であるはずなのですが、17歳の身体のまま…という事なのです。
普通でしたら、そんな『あやかしモドキ』の私は奇異な扱いを受けまともな生活など出来ない状況となるでしょうが、幸運な事に心優しい『あやかし』の皆さんにめぐり合い、ともに「家族」としての毎日を過ごしております。
そして、さらに私は幸運に恵まれました!
私が今住んでいるアパートには、かつて『まりあ先生』が自室として使っていらした部屋があり、その室内には大量のお宝……いえ、先生の遺された品々が現在も当時のままで保管されており、その管理担当を、なんと!『まりあ先生御本人様』から直々に私めが賜わっているのです!
まさか、まりあ先生御本人と直接お会いして、一晩中お話しできるとは夢にも思っておりませんでした!
あの夜は本当に素晴らしいひとときでございました!!
あぁ、なんて私は幸せ者なのでしょう♡♡♡
あ……、ま、まりあ先生について語り出しますと止まらなくなりますので、ひとまず置いて置きます。
さて、そんな私めやお姉様がた、そして可愛い妹や弟、頼りになるお兄様やお爺様と暮らしているアパートに、数日前に新しい家族が増えました。
私はその中でも特に『7本尻尾の白狐』の「ななつ」さんとは大変親しい間柄となりまして、最近では二人で街なかヘお出かけする事も増えて参りました。
白狐と言いましても普段の姿は私と同年齢ほどの、いわゆる女子高校生な印象をされている方でいらっしゃいまして、感性と言うのか波長が私と凄く合う女性なので、まるで長くお付き合いしてきた友人だと錯覚すら覚えるほどでありますね。
ななつさん は、このアパートに来る前は色々な場所を短期間で転々とされていたそうで、当然ながら特定の親しい友人も作る機会も無かった。と言う事で、私との関係も新鮮で楽しい!と喜んでいます。
ええっ!もちろん、そんなのは私だっておんなじ気持ちに決まってますとも♪
1、
今日は日曜日。そしてお昼過ぎの時間帯と言う事もあって、駅から歩いて10分ほどの場所にある広い市民公園は大勢の人で賑わっています。
私と ななつさん も、木陰のベンチに座って昼食後のティータイムをしながらマッタリしておりました。
「ねえ、ユウキって。…え〜と18年前だっけ? 現役女子高校生だった頃もこの街に住んでいたの?」
「いえ、この街からだとかなり離れた場所でした。もっと都心近くでしたね。……そういえば、私、この時代に来てからは一度も帰った事が無いんですよね。18年も経ってるんですもの、かなり変わってしまっているでしょうねぇ」
「行ってみる?私、遠くだって付き合うよ!それに、家族とか昔の知り合いが今どうしているのかも気になるんじゃない?直接会う事は出来ないけど、こっそり見るぐらいなら……」
「ありがとうございます。ただ、以前、これはぬら爺様が仰っしゃっていたのですけど、私って18年前から現代にタイムスリップした時点で『最初から存在して居なかった人間』になってしまったらしいんです。良く判りませんが、何かしらの矯正力が働いたとか?」
「ええ!?そうなの? じゃあ、例えば両親に会っても、ユウキを自分の娘だとは思わないって事なの?」
「らしいですね。でも、その矯正力は当事者の私には働かないので、18年間の記憶とか消えずにそのまま残っているんです。
何か、切ない…ですよね」
「……そっかぁ。ごめんね、変な話しになっちゃって」
「いえいえ。そもそもの話し、本当なら私は18年前の事故で既にこの世に居ないはずの人間なんです。でも、こうして私はここに居ます。ここに居て、ななつさん とも親しくさせているんですからね。今は私、凄く幸せなんですよ?…どなたが仰言った言葉なのかは存じませんが、『生きてるだけで丸儲け』です!」
「あぁ、ユウキは本当に強い人だよねぇ。そんなユウキと友人になれて、私も幸せ者だよねぇ♪」
「そう!私めと ななつさん は、友人であり家族なのです♪」
二人でそんな感じに微笑みあっていた時でした。
突然、公園内の方々から悲鳴があがったのです!
え?何事?と、驚いた二人が周りを見渡すと、地面のアチコチから真っ黒い樹木が次々と突き出して葉の無い枝を拡げ、あっという間に公園を覆っていきました。
公園内に居た大勢の人たちは、そのほとんど無事に避難できたものの、まだ数人が逃げ遅れている状況だった。
「ななつさん!あれは『あやかし』なのですか!?」
「おそらく『樹木子』だわ!人間があの枝に捕らえられると血を吸われて死んでしまう。早く駆除しなければ!」
「そんな!?こんな真っ昼間の街なかの公園になんで突然?!」
「判らない。……うん?あれ?だけど、何でだかアイツら動かないね。よし、逃げ遅れた人たちを逃がすなら今のうちだわ!」
私たちは二手に分かれて公園内を走り回り、逃げ遅れていた人たちに声をかけ誘導した。
公園は樹木子で覆い尽くされ出口も無くなっているので、とりあえず広めのコンクリート地のスペースに集まってもらった。
逃げ遅れていたのは、幼い子供やその家族。そして老人の方がほとんどでしたが、一組だけ若いカップルが残っていました。
話しを聞くと、お二人は結婚式が間近で彼女さんは妊娠中との事。
なるほど。だから素早く動けなかったワケね。
というワケで、公園内に取り残されていたのは全員で20人ほどだった。
「まだ樹木子に動きが無いわね。どういう状況なのかは判らないけど、さて、ユウキ。どうしたものかしらね?」
私は改めて公園内を見渡した。
確かに不気味なほどに静かだ。
しかも街なかにある公園だと言うのに、何故かその街の喧騒すら全く聞こえて来ない。
おそらく、公園を取り囲む樹木子が一種の結界を形成しているのだと思う。
「樹木子を駆除するのは私のチカラなら難しくは無いけど、こんなに人が居たら私の『あやかし』のチカラは使えないわ。私は白狐の姿でないとチカラを使えないの」
それは駄目です。人前で白狐の姿になったら、ななつさん がこの街に住めなくなってしまう。
こんなに大事になっているんだもの。当然ながら、お姉様はじめアパートの皆さんや烏天狗の討伐隊の方々も状況を見守っていると思いますが、こんな日中の真っ昼間では『あやかし』のチカラや姿を人前で見せられない…のは同じ事。
どうする? 考えろ、私!
どうしたら良い?
「ななつさん。樹木子ってコチラから側に近づかなければ動かないのかしら?」
「基本的にはその場から動かないのだけど、さっきの状況を見るとまだ地面の中に潜んで居る可能性もあるわね。まぁ、それはこのコンクリートの上から動かなければ大丈夫でしょう」
足元のコンクリートの地面をつま先で突く。
「ただ、何処から現れるのかは判らないけど、老人の様な姿の『あやかし』を何人も召喚して襲って来る事もあるの。特に大して強くも無いのだけど、とにかく人数が多いんで相手をするのは面倒なのよねぇ」
「う〜ん、コチラには幼い子供やご老人の方が多いので、それは厄介だわね」
私は、自分たちをぐるりと取り囲む様に地面から突き出している樹木子を観察してみた。
長く伸びた枝は公園の上空で器用に絡み合い覆っていて、その僅かな隙間から辛うじて陽の光が射している。そのため、公園内は若干薄暗くはなっているけど、視界が悪いというほどでは無い。
樹木子が突き出しているのは土の地面からのみで、私たちの居るコンクリート地の場所と公園の各所に点在している芝生エリアからは出て来ていない。
何かしらの植物が群生している場所もそのままですね。
どうやら、地面上に何かが在る場所からは出て来れない様です。
少し離れた場所に、先程私たちが飲み物を購入した小さな売店がありますが、どうやら二人ほど居た店員さんは無事に逃げられたらしく店内は無人らしい。
とりあえず私たちはその店内に入りひと息つきました。販売メインの店舗なので店内は広くはありませんが、店員用の休憩スペースがあって何とか全員入る事が出来たのです。
ニュースを確認するために店内に設置されているラジオのスイッチを入れてみましたが、放送は入りませんでした。
何人かの人がスマホを取り出して使おうとしましたが、こっちも使えないと騒いでいます。
おそらく、結界の中では全て遮断されてしまうのでしょう。
う〜ん、外部との連絡も出来ませんか。
ななつさん は、ひとり店頭に立ち周囲を監視しています。
先ほど彼女が私に耳打ちしてきました。
「いよいよとなったら、私が白狐の姿になって対応するからユウキは安心して大丈夫だからね。私がこの街に居られなくなるより、今ここに居る皆んなを救ける事の方が重要だもの。しょうが無いよね!」
……そんなの駄目に決まってます。何とか、なんとかしないといけません!いったいどうしたら良いのか………。
それにしても、なぜ樹木子はこんな場所に出現したのでしょうか?
しかも、公園を覆い尽くすほど大量の樹木子。
今まで公園の地下に潜んで居た?
いや、それは考えられません。
先日お姉様たちが遭遇した『泥田坊』さんの事件の後、改めてぬら爺様や烏天狗様たちがこの街全域を密かに確認されたそうです。
もしこの公園の地下にこんなに大量の樹木子が潜んで居たら、気がつかないワケがありませんもの。
何かが可怪しいと感じました。
そこで、私はフと思いました。
「この状況、本当に現実に起きているのでしょうか? もしかして、私たちは たぬお姉様 のお使いになる幻術の様なモノに巻き込まれているのではないでしょうか?………」




