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リターンコード:ホーム  作者: 藤苺めぇ


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第7話「リターンコード」

 第三層・未記録入口付近。


 街は、音がなかった。


 ひなのガイドはまだ不安定で、空中の線は細く揺れている。


「……今日は浅めで戻る」


 ひなが言う。


「昨日みたいになったら困るし」


「了解、ガイド様」


「その呼び方やめて」


 そらが笑う。


 でも、ひなの横顔が少し固いのに気づいていた。



 奥へ進む。


 建物の輪郭が遅れて描画される。


 影が少しだけ逆向きに伸びる。


「……また入口の方向じゃない?」


 そらが小声で言う。


「見ないで」


 ひなが即答する。


「見た瞬間、座標が引っ張られる感じするの」


「……怖」


 その時。


 空間が揺れた。


 警告音が鳴る前に、景色が歪む。


「来た……!」


 ひながパネルを操作する。


 ガイド線が一本、二本、三本――


 全部、切れた。


「……嘘でしょ」


 ひなが息を呑む。


 未記録入口が、目の前に“開いた”。


 色のない穴。


 光を吸い込むみたいな空洞。


 足元が透明になる。


「そら、下がって!」


「ねーちゃんも!」


 地面が崩れる。


 ひなの体が少しだけ滑る。


 ガイドが出ない。


 空間がノイズみたいに震える。


「……戻れない」


 小さな声。


 そらの胸が締め付けられる。


「ねーちゃん!」


 手を伸ばす。


 でも距離が遠い。


 未記録入口が広がる。


 視界が暗くなる。


 頭の奥で、何かが弾けた。


(……帰る)


 言葉じゃない感覚。


 強烈な衝動。


「……リターン!!」


 声が響いた瞬間。


 空間が“爆ぜた”。


 光が逆流する。


 崩れていた建物が一瞬で巻き戻る。


 未記録入口が強制的に閉じる。


 時間が止まったみたいな静寂。


 そらの体から、白い線が広がっていた。


 ひなが目を見開く。


「……え……?」


 次の瞬間。


 二人はリビングに立っていた。


 強制帰還。


 ガイドなしの帰還。



 ソファの前。


 そらは膝から崩れ落ちた。


「……なに、今」


 手が震える。


 心臓がうるさい。


 ひながゆっくり近づく。


「……あんた」


 言葉が出ない。


 ゆいが静かに立っていた。


 ログの光が目に映っている。


「……リターン、覚醒ね」


 小さな声。


「え?」


「帰還座標を書き換えた」


「……俺が?」


 ゆいが頷く。


「ガイドがなくても、帰れる力」


 ひなが小さく笑う。


「……ずるい」


「え」


「私、あんなに頑張って線引いてるのに」


「いやねーちゃんの方がすごいし!」


 そらが慌てる。


 ひなが笑った。


 少しだけ涙目だった。



 夜。


 ベランダ。


「……ねーちゃん、怖かった?」


 そらが聞く。


「……うん」


 素直な答え。


「でも」


 ひなが空を見る。


「帰れるって思った」


「俺が?」


「うん」


 少し間。


「……そら、もう“調査員の子供”じゃないね」


「え?」


「調査員だよ」


 その言葉が、静かに落ちた。


 空が一瞬だけ歪む。


 未記録入口が、遠くで微かに揺れていた。

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