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リターンコード:ホーム  作者: 藤苺めぇ


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第6話「ガイドロスト」

仮想空間・第三層。


 街はいつもより明るかった。


 明るすぎて、逆に影が濃い。


「……今日、軽いね」


 そらが言う。


 地面が少しだけ浮いている感覚。


 ひなは返事をしなかった。


 空中のパネルを何度も操作している。


「ねーちゃん?」


「……ガイド、再計算してる」


「また?」


「昨日、入口に近づいたでしょ」


 短い声。


 ひなの視界には、通常より多い座標線が流れていた。


 普段なら一瞬で決まるルートが、

 何度計算しても揺れている。


(……なんで)


 心の中でだけ呟く。


 ガイドが不安定になるなんて、初めてだった。



「はい、帰還ライン」


 光の線が伸びる。


 でも少しだけ歪んでいる。


 そらが首をかしげる。


「……細くない?」


「気のせい」


「絶対細い」


「気のせいだって!」


 ひなが強めに言う。


 その声に、そらは黙った。


 風が吹く。


 建物の壁が一瞬、遅れて描画された。


「……ねーちゃん」


「大丈夫。ガイドあるから」


 言葉はいつも通り。


 でも、手が少し震えていた。



 奥へ進む。


 未記録入口のあった方向。


 今日は何もない。


 ただ、空気が重い。


 警告音が鳴る。


『座標安定率、低下』


「……来た」


 ひなが息を吸う。


 空中の線が揺れる。


 一本、消える。


「……え」


 もう一本。


 また一本。


 ガイドが、崩れていく。


「ねーちゃん?」


「……待って、再構築する」


 ひなが必死にパネルをなぞる。


 でも線が出ない。


 何も見えない。


 ガイドが、完全に消えた。


 静寂。


「……見えない」


 小さな声。


 そらの胸がざわつく。


「ねーちゃん、帰ろ」


「……ルートがない」


「え」


「ガイド……ロスト」


 ひなの肩が震える。


 初めてだった。


 ひなが“道”を見失ったのは。



 周囲の建物が歪み始める。


 足元が透明になる。


 空気が重い。


 遠くで、足音みたいなノイズ。


 そらが一歩前に出る。


「ねーちゃん」


「……大丈夫、私が……」


 言葉が止まる。


 何も見えない。


 空間が、ただの迷路になる。


 そらがひなの手を握る。


「ねーちゃん、後ろ下がって」


「……え?」


「今は俺、前行く」


 ひなが目を見開く。


 いつも逆だった。


 自分が前で、そらを守る側だったのに。


「……そら」


「ガイドなくても、帰れる気する」


 胸の奥が、静かに熱い。


 でもまだ言葉にはならない。


 その時。


 空間が一瞬、歪む。


 遠くに“入口”の影が見えた気がした。


 ひなの呼吸が止まる。


「……見ちゃダメ」


 小さな声。


 そらは何も言わなかった。


 ただ手を握ったまま立っている。



 帰還。


 ゆいが静かに立っていた。


「……ガイド、消えたのね」


 ひなが小さく頷く。


「……初めて」


 ゆいは怒らなかった。


 ただ、そっと言う。


「ガイドはね、万能じゃないの」


「……分かってる」


「道が見えない日もある」


 ひなが目を閉じる。


 少しだけ涙が滲む。


「……私、調査員向いてないのかな」


 小さな声。


 そらが横から言った。


「向いてるって」


「……根拠は」


「ねーちゃんが前にいると、怖くないから」


 ひなが少し笑った。


 ゆいは何も言わない。


 ただ、二人を見ていた。


 その目が少しだけ優しかった。

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