第三話 地球
赤い大地の上に、風が吹いていた。
かつて海だった場所には、乾ききった大地が広がっている。
空に雲はほとんどなく、太陽の光だけが、荒涼とした大地を照らしていた。
地表に人の姿はない。いや――正確には、人間が生きられる場所ではなくなっていた。
地球。そう呼ばれていた、この惑星では、人類はすでに、地表から姿を消していた。
地下深くに築かれた巨大な都市群。 そこには数十億の人々が暮らしている。
都市と都市は地下の交通網と通信網によって結ばれ、地上に出ることなく生活できる環境が整えられていた。
その理由は、単純だった。 惑星そのものが、少しずつ死に始めていたからだ。
地球の磁場が弱くなっている。それに伴い、上空へと伸びる大気の層が徐々に薄くなっていた。宇宙から降り注ぐ放射線も、年々増加している。
人類がいくら技術を進歩させても、それだけは止められなかった。
そんななか、地下都市の一室で、世界の未来を決める会議が始まろうとしていた。それは、世界に存在する全8都市の代表者によるG8サミットと呼ばれた。
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「G8サミットを開催します。今回の議長は第3地下都市首相である私 キョーコ・ムラノが努めます」
40代に見える細身の女性による感情の読めない声が響いた。
円形の会議室。中央には巨大な立体映像が浮かび上がっている。そこに映し出されているのは、地球だった。
赤茶けた大地。薄い大気。そして、惑星の周囲を取り巻く磁場の状態を示す無数のデータ。
円形の空間には、八つの席が浮かび上がった。それぞれの席に、地下都市群を代表する人物の姿が投影されている。
実際に同じ場所に集まっている者は、一人もいない。ここにいる全員が、それぞれの地下都市から接続している。
「本日の議題は三件です」
キョーコ・ムラノの言葉は同時自動通訳され、それぞれの言語で参加者に伝わる。
「第一議題。地球磁場の低下に伴う、今後の居住環境について」
映像が切り替わる。地球を覆う磁場の状態が、数十年前から現在までの時間軸に沿って表示された。その線は、ゆっくりと下降している。
「第二議題。火星テラフォーミング計画の進捗について」
次に映し出されたのは、青い海と緑の大地だった。現在の地球とは、あまりにも違う惑星。しかし、それは完成した姿ではない。まだ大気は安定しておらず、広大な地域が無人のまま残されている。
「第三議題。火星八拠点の今後について」
火星儀上に8つの光点が点滅する映像が現れる。
「では、第一議題から。地球磁場の低下に伴う、今後の居住環境について、ご意見のある方」
そこで、ホログラム投影されている第1地下都市プレジデントを務める壮年男性が口を開いた。
「確認したい」
低い声だった。
「我々は、あと何年この惑星に住める?」
議長が答える。
「現時点で、地下都市の生命維持設備を維持できる限り、人口の大半は生存可能です」
「大半?」
「ええ」
仮想空間にざわめきが生じる。
「地表環境は、すでに人類が長期間生活できる状態ではありません。今後、磁場の低下が予測値を超えた場合、地下都市の防護システムにも追加対策が必要になります」
「つまり、我々に時間は残されていない」
「正確には――」
議長が一瞬、言葉を止めた。
「残されている時間を、正確には予測できません」
沈黙。
やがて、第6地下都市首相である女性が口を開いた。
「第二議題に関連することですが、第一議題と表裏の関係にあることなのでご容赦ください。
残されている時間が不透明であるからこそ、火星計画を急ぐべきです」
立体映像の中で、火星が拡大される。
「テラフォーミング開始から、すでに数年が経過しています。大気組成、水循環、気温、土壌環境――すべて改善しています」
第6地下都市首相の言葉に、第8地下都市主席の最年少の男が尋ねる。
「しかし、人類が通常の身体で生活できる状態になるまでには少なくとも、あと数年かかるのではないですか?」
「数年……」
第5地下都市プレジデントを務める精力溢れる男性が小さく呟いた。
「我々に、その数年があるのか?」
第2地下都市首相が吐き捨てる。
再び沈黙が訪れた。
そのとき、第4地下都市首相の老人が口を開いた。
「ある」




