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第6話「激突」

ソウスケの両手に握られた二本の小太刀。

それは、彼が元の世界の科学知識とこの世界の希少鉱石を融合させて創り上げた特注品だった。

漆黒に染め上げられた下地。その柄から鞘、そして鍔に至るまで、まるで生きているかのように蠢く『黄金の細い龍』の装飾が施されている。抜き放たれた刀身もまた、光を呑み込むような深い漆黒。ただし、通常の小太刀と異なり、刃幅が極端に広く、そして分厚い。全長は柄を含めて約六十センチ、刀身の幅は四センチにも及ぶ、実用性と耐久性に極振りした無骨な双刃である。

対して、アリエルが抜き放ったのは、ファブール王国の国宝級の業物――純度の高いミスリル素材で鍛え上げられた硬質長剣だった。

全長百五十センチ、刀身の幅十五センチ。白銀の輝きを放つその剣は、女性である彼女の背丈に迫るほどの巨大な両手剣(ツーハンデッドソード)である。

抜刀の甲高い金属音が裏庭に響き渡った直後。

ギルドの異変を察知したアリエルの護衛の騎士三名が、血相を変えて中庭へと駆け込んできた。

「アリエル様!! 何をなさっておいでか!!」

「一般市民相手に剣を抜くなど――」

慌てて止めに入ろうとした護衛たち。

だが、アリエルが肩越しに『ギロリ』と彼らを睨みつけた瞬間。

「うぅ……っ」

「なっ……!」

護衛の騎士たちは、目に見えない巨大な壁に衝突したかのように、その場に縫い止められた。

アリエルの全身から立ち昇る、陽炎のような凄まじい『剣気』。彼女はすでに完全な臨戦態勢に入っており、その極度に研ぎ澄まされた集中と殺気は、迂闊に近づけば味方であっても斬り捨てられかねないほどの異常な領域に達していたのだ。

ソウスケはその姿を見て、内心で盛大に顔を引き攣らせた。

(……あらぁ……。やべぇ、完全に『スイッチ』入ってんじゃん……)

 己の甘さを、ソウスケは死ぬほど呪った。

「……おい! マスター! 何やってんだよ、止めろ!」

ソウスケは小声で横のトーマスに助けを求めた。

しかし、かつて「雷神」と呼ばれたはずのトーマスもまた、アリエルから放たれる美しくも恐ろしい剣気に当てられ、魅入られたように立ち尽くしている。

「……おいクソジジィ! 聞こえてねぇのか!」

ソウスケが舌打ちをした、次の瞬間。

ダンッ!!

地面が爆発したかのような踏み込みの音。

アリエルの姿がブレたかと思うと、百五十センチの巨大なミスリル剣が、上段からソウスケの脳天へと向かって振り下ろされていた。

(……はやっ!!)

ゴオォォォォンッ!!

ソウスケが咄嗟に交差させた二本の小太刀の腹に、白銀の巨剣が激突する。

まるで鐘を撞いたような重低音が裏庭に響き渡り、ソウスケの足元の石畳が衝撃で蜘蛛の巣状に砕け散った。

「ちぃっ!」

ソウスケはまともに受け止める愚を避け、瞬時に小太刀の角度をズラして巨剣の軌道を『滑らせる』ように受け流す。白刃がソウスケの肩口数ミリを掠め、地面を深く抉り取った。

そこからは、息を呑むような死闘の幕開けだった。

「はぁぁぁっ!!」

アリエルが巨剣を軽々と振り回し、暴風のような連撃を叩き込む。

横薙ぎ、斬り上げ、袈裟斬り。百五十センチのリーチと、ミスリルの質量、そして遠心力を乗せた一撃一撃が、全て『必殺』の威力を秘めている。

対するソウスケは、漆黒の小太刀のみで応戦する。

圧倒的なリーチと質量の差を埋めるのは、無駄を削ぎ落とした神業のような『足捌き』と『防御技術』だ。

アリエルの刃が触れる瞬間、ソウスケは小太刀の鎬(しのぎ)を合わせ、火花を散らしながら衝撃のベクトルを逸らす。巨剣が空を切る度に突風が巻き起こり、ソウスケのマントがバサバサと荒々しく翻る。

キンッ! ガァン! キィィィンッ!!

激しい金属の衝突音と、飛び散るオレンジ色の火花。

そのあまりにも高次元な攻防に、遠巻きに見ていたギルド員たちは息をするのも忘れ、完全に石像のように固まっていた。

「な、なんだよあれ……速すぎて、刃の軌道が見えねぇ……」

「アリエル様が凄いのは知ってたけど……あの万年Bランクが……」

ギャラリーの驚愕をよそに、ソウスケは内心で冷や汗を流していた。

(重てぇ! 速えぇ! なんだこのゴリラ女! 長剣(バスターソード)を木の枝みたいに振り回しやがって!)

ソウスケは終始、防御に徹しながらも、アリエルの連撃の『繋ぎ目』を狙い、隙あらば漆黒の刃で手首や膝裏といった急所をチクチクと突きにかかる。

これがアリエルをさらに刺激した。彼女はソウスケの嫌らしい牽制を躱しながら、さらにギアを上げていく。

「――シッ!!」

アリエルが鋭く息を吐き、巨剣を独楽のように回転させながらの連続旋風斬りを放つ。

ソウスケは身を低く沈め、背中スレスレを通る刃を紙一重で回避。そのまま地面を蹴り、反撃の刺突をアリエルの喉元へ放つ。だがアリエルは柄頭でそれを弾き落とし、至近距離から強烈な前蹴りをソウスケの腹部へ見舞った。

「ぐっ!」

ソウスケが蹴りの衝撃を殺すために後方へ大きく跳躍して距離を取る。

その瞬間。

極限の攻防の中で闘争本能が頂点(ピーク)に達したアリエルの全身から、青白いオーラが爆発的に噴き出した。

剣気(マナ)がミスリルの刀身に収束し、激しく明滅する。

(ヤバい、何か来る!)

ソウスケが身構えた直後。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

アリエルが渾身の力で巨剣を横薙ぎに振り抜いた。

刃から放たれたのは、空気を切り裂きながら飛翔する巨大な『オーラスラッシュ(遠距離剣気)』。三日月型の青白いエネルギー波が、ソウスケに向かって猛スピードで迫る。

ソウスケは咄嗟に姿勢を低くしてそれを躱した。

しかし――。

「あっ」

ソウスケの後方に視線をやったアリエルが、ハッと我に返り顔面を蒼白にさせた。

ソウスケが躱したその巨大な剣気の軌道の先には、戦いの凄まじさに圧倒され、逃げることすら忘れて固まっていた野次馬の『ギルド員たち』が密集していたのだ。

「逃げろっ!!」

アリエルが叫ぶが、遅い。

ギルド員たちが絶望に目を瞑った、その瞬間。

ずっと立ち尽くしていた巨大な影が、弾かれたようにその場に割り込んだ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「――舐めるなァァァァッ!!」

ギルドマスター、トーマス・トールマン。

彼は己の巨体をギルド員たちの前に晒すと、両腕をクロスさせ、全身に雷属性の膨大な魔力を纏いながら、アリエルの放った必殺の剣気を正面から受け止めた。

ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!

凄まじい爆発音と共に、裏庭に濛々とした土煙が舞い上がった。

濛々たる土煙が風に流され、視界が晴れていく。

そこには、巨大な両腕を交差させたまま、一歩も退かずに立ち尽くすトーマスの姿があった。

ギルド員たちは全員無傷。だが、盾となったトーマスの太い両腕には、防護していた魔力を貫通して刻まれた、青黒く生々しい打撲と火傷の痕がくっきりと残っていた。

(ひゅ〜っ……。流石は『雷神』。あのバケモンみたいな斬撃を、正面から受け止めるかね)

少し離れた場所からその光景を見ていたソウスケは、内心で舌を巻いた。

ガランッ!!

背後で、重い金属音が鳴った。

アリエルの手からミスリルの巨剣が滑り落ち、石畳を叩いた音だった。

「わ、私は……私は……っ!」

我に返ったアリエルは、青ざめた顔で自分の両手を見つめ、ガタガタと震えていた。

騎士としての誇りを胸に剣を振るう自分が、あわや戦闘に関係のない民間人(ギルド員)たちを巻き込み、惨殺しかけたのだ。その事実に、彼女の高潔な精神は激しいショックを受けていた。

「アリエル様!!」

護衛の騎士三名が慌てて駆け寄ろうとする。

「私に触れるな!!」

アリエルが悲痛な叫び声を上げ、騎士たちの足を止めた。

彼女はフラフラとした足取りでトーマスの元へと歩み寄ると、その巨体の前でガクンと片膝を突き、頭を深く下げた。

「……誠に、申し訳ございませぬ。己の未熟さゆえ、あわや取り返しのつかない凶行に及ぶところでした。この罪は、如何様にも……」

「ハッハッハッ!!」

懺悔するアリエルの言葉を遮り、トーマスは豪快な笑い声を上げた。

「気に病むな! これしきの傷、掠り傷にもならんわ。まだまだ私も中々いけますな!」

トーマスは腕の火傷を全く気にする素振りも見せず、ニカッと笑って見せた。

その器の大きさに、アリエルは唇を噛み締め、さらに深く頭を下げる。

やがて立ち上がったアリエルは、今度はソウスケの元へと歩み寄った。

そして、彼に対しても同じように片膝を突き、謝罪のために頭を下げようとした、その瞬間。

「やめろ」

ソウスケの低く冷たい声が、裏庭に響いた。

その言葉に、アリエルの動きがピタリと止まる。

「まだ負けてねぇだろ、お前。生きてるしな」

「……え?」

「命のやり取りだと言ったはずだ。死んでない以上、勝負は預かりだ。膝なんて突くな」

ソウスケはそう言い捨てると、くるりと背中を向けた。

「もう今日は帰れ。……次は『手土産』でも持って来ねぇと、二度と口きかんぞ」

ソウスケはスタスタと中庭の出口へ向かって歩き出し、ギルドの喧騒の中へと姿を消していった。

残されたアリエルは、その無愛想で冷徹な、しかし確かな気遣いを含んだ男の背中を、複雑な瞳で見つめ続けていた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

ギルドを出て、王都の裏路地へと足を踏み入れた瞬間。

周囲に誰もいないことを確認したソウスケの顔面から、それまで保っていたクールな余裕が綺麗に吹き飛んだ。

「いっっっっっっっったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ソウスケは顔をグシャグシャに歪め、両手を抱え込むようにして悶絶した。

小太刀による防御技術(受け流し)は完璧だった。

しかし、アリエルの巨剣から伝わる『物理的な衝撃』と『剣気の圧力』は、ソウスケの技術の限界を超えていた。刀身を弾いた時の凄まじい反動がグリップを通して指先に伝わり、結果として小太刀を握っていた彼の手――その両手の指の爪が、根元から無残に剥がれ飛び、血塗れになっていたのだ。

(……メッチャ痛え……! マジで痛え!! ほんっと、こっちの世界の強え奴ってバケモンなんだよな!! あんなゴリラの一撃、まともに受けてたら腕ごと粉砕されてたぞクソが!!)

ソウスケは両手をプルプルと震わせながら、あまりの痛みに涙目になりつつ、裏路地の奥にある娼館へと駆け込んだ。

――数分後。

「わお! 見事な剥がれっぷりねぇ!」

ソウスケの血塗れの手を見たキャスティンが、目を丸くした後に腹を抱えて大笑いした。

「貴方、拷問プレイ? ふふっ、そっちのハードな趣味もあったの?」

「……笑ってねぇで、早く薬を塗ってくれ!」

ソウスケは不機嫌の極みのような顔で、ズキズキと脈打つ両手をキャスティンに差し出した。

(……それはプレイじゃなくて、ただの拷問だろ……)

手際よく、しかし時折わざと傷口を押してくるキャスティンに包帯を巻かれながら、ソウスケは今日の自身の不運と、あの金髪の女騎士の理不尽なパワーを呪い続けていた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

王都ファフニール、第三騎士団兵舎。

自室の簡素な机に向かい、アリエルは白銀のミスリル剣を布で静かに拭い続けていた。

窓から差し込む月明かりが、美しくも冷たい刀身を照らし出している。

しかし、彼女の青い瞳に映っていたのは、剣の輝きではなく、昼間にギルドの裏庭で引き起こしてしまった自らの失態だった。

(……私は、騎士失格だ)

布を持つ手が微かに震える。

誇り高き騎士として剣を振るいながら、己の闘争心に呑まれ、あわや無関係のギルド員たちを巻き込むところだった。身を挺して剣気を受け止めてくれたトーマスが居なければ、自分は今頃、大罪人としてこの剣を折られていたはずだ。

「……己の未熟さが、心底恨めしい」

ポツリと、誰に宛てるでもない後悔の独り言が暗い部屋に溶けていく。

しかし、その深い自責の念の裏側で、アリエルの武人としての本能は、あの『漆黒の双刃』との極限の打ち合いを鮮烈に記憶し、熱を帯びて反芻していた。

(……ソウスケ・ババ。万年Bランクの冒険者。……いや、あり得ない。あれだけの斬撃を、あの小さな刃の角度と足捌きだけで全て『受け流し』てみせた。私の剣は、彼に一太刀も届いていなかった)

アリエルは剣を置き、自らの両手を見つめた。

打ち合った瞬間の、あの硬く重い感触。そして、彼の構えから放たれていた、文字通り『死』を予感させる異様なプレッシャー。

「誇りでも名誉でもない。生と死を懸ける、か……」

彼が言い放った冷酷な言葉が、耳の奥でリフレインする。

騎士の美学など一切介在しない、ただ純粋に生き残るためだけに最適化された泥臭くも洗練された技術。あの動き、あの無機質な黒い瞳――間違いない。一年半前、限界集落『エスト』の教会で自分を翻弄したあのフードの男は、ソウスケだ。

だが、疑問が残る。

なぜ彼は、あそこまで圧倒的な技量を持ちながら、自分の力をひた隠しにしてBランクに甘んじているのか。なぜ、国すら感知していない教会の件や、今回の不審なワイバーン討伐の現場に居合わせたのか。

そして――。

(……なぜ彼は、私をあそこで止めた?)

アリエルは目を伏せた。

膝を突き、騎士の誇りを捨てて謝罪しようとした自分を、彼は「生きてるんだから負けてない」と強引な理屈で引き留めた。

あの時、彼は背中を向けてすぐに立ち去ってしまったが、後になって冷静に思い返すと、一つの違和感に辿り着く。

(私のあの連撃と剣気を至近距離で捌ききって、本当に『無傷』でいられるはずがない。……もしかして彼は、私に怪我を悟らせないために、あえて悪ぶって早々に立ち去ったのではないか?)

無愛想で冷徹に見えて、その実、相手の誇りを傷つけまいとする不器用な気遣い。

アリエルの中で、ソウスケという男の輪郭が、謎に包まれた「底知れぬ強者」から、どこか「不器用で目が離せない男」へと少しずつ変化し始めていた。

アリエルはスッと立ち上がり、月明かりに向かって凛とした顔を上げた。

「……逃がしはしないぞ、ソウスケ殿。貴殿が何を隠し、何を背負っているのか。騎士として、いや、一人の武人として必ず見極めさせてもらう」

教会の件も、ワイバーンの件も、彼が深く関わっているのは明白だ。

ならば、彼との接触を保つことは、騎士団の調査としても完全に理にかなっている。アリエルはそう自分を納得させ、力強く頷いた。

「よし。まずは明日にでも、再びギルドへ赴こう。改めて非礼を詫び、彼と腹を割って話す機会を設けねば。……そのためには」

アリエルはふと、ソウスケが去り際に残した言葉を思い出し、真剣な顔で腕を組んだ。

『次は手土産でも持って来ねぇと、二度と口きかんぞ』

「……手土産。そうか、手土産だな」

アリエルは騎士団でも随一の真面目さ故に、その言葉を一文字も違わず文字通りに受け取っていた。

「冒険者が喜ぶ手土産とは何だろうか。……傷薬か? いや、それならギルドで買える。やはり、疲労を回復させるための『質の高い肉』か、あるいは『高級な酒』だろうか。……しかし、彼の好みが分からん。甘い焼き菓子なども持参すべきか……?」

王国の危機を前にしても微動だにしない第三騎士団副団長が、今、人生で一番真剣な顔で「中年冒険者へのお菓子の詰め合わせ」について頭を悩ませていた。

「……明日、朝一番で騎士団の料理長に相談してみよう。『男の胃袋を掴む、至高の手土産を見繕ってくれ』と」

どこかピントのズレた決意を胸に秘め、アリエルは夜の闇に向かって静かに闘志(?)を燃やすのだった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

翌朝。

王都の朝日に照らされながら、アリエルは第三騎士団の兵舎を颯爽と歩いていた。

その手には、騎士団自慢の料理長が徹夜で考案し、「男の胃袋を確実に落とすならコレです!」と太鼓判を押して持たせてくれた至高の手土産――『グランドボアの極厚カツサンド〜特製ガーリック香草ソース仕立て〜』が、可愛らしいバスケットに厳重に包まれて握られている。

(……よし。まずは昨日の非礼を詫び、これを渡して腹を割って話すのだ)

決意に満ちた凛々しい表情で、アリエルは冒険者ギルド・ファフニール支部の重厚な扉を押し開けた。

「失礼する」

ギルドのホールに、透き通るようなアリエルの声が響く。

彼女は鋭い碧眼でホール全体をぐるりと見渡した。掲示板の前、酒場の隅、受付の列――しかし、どこを探しても、あの無愛想な黒髪の男の姿はなかった。

アリエルは受付カウンターへと歩み寄り、顔馴染みの受付嬢シンシアに声を掛けた。

「すまない。ソウスケ殿は来ているだろうか?」

「あ、アリエル様! い、いえ……ソウスケさんなら、今日はまだいらっしゃっていません。現在受けている依頼もありませんし、どこにいるかはちょっと……」

シンシアが申し訳なさそうに答える。

ふとアリエルが周囲に視線を向けると、いつもなら「アリエル様だ!」「握手してください!」と目を輝かせて群がってくるはずの冒険者や女性ファンたちが、今日は遠巻きにチラチラとこちらを見るだけで、誰一人として近づいてこない。

(……無理もない。昨日、あわや彼らを巻き込んで斬り殺しかけたのだからな)

アリエルは己の未熟さを恥じ、困ったように微かな苦笑いを浮かべた。

「あ、あの……! もしソウスケさんがいらっしゃったら、何かご用件をお伝えしましょうか?」

気遣ってくれるシンシアに対し、アリエルは静かに首を横に振った。

「いや、直接彼に謝罪し、話したい事があるのだ。……また改めて伺うとしよう。仕事中に引き留めてすまなかった」

アリエルは礼儀正しく一礼すると、手土産のバスケットを抱えたまま、少し肩を落としてギルドを後にした。

(まぁ良い。冒険者なのだ、ふらりと薬草でも採りに行っているのだろう。明日また来ればいい)

彼女はそう自分を納得させ、兵舎へと戻っていった。

――しかし。

アリエルが彼にその手土産を渡す機会は、訪れなかった。

翌日も、その翌日も。

それ以降、ソウスケがこの冒険者ギルド・ファフニール支部に姿を現す事は、なかったのである。

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