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第2話:ステークホルダー

 幸いなことに、俺は前職の経験で、メモ用の短期記憶を鍛えられている。

 一字一句とまでは言わないが、一時間前までに聞いた話であれば、事実関係を正確に脳内復元することができる。

 だからいまも、神様の説明した情報を難なくメモに書き起こした。


 神様が言うには、俺の業務に関係するステークホルダーは三つ。



******************************************************

【人間】

 もっとも脆弱な生き物。教会を中心に、神様を崇拝し、信仰している。


【魔族】

 人間を捕食する生き物。知能は劣るし、信仰心がないために魔法も使えないが、圧倒的に強い。


【天使】

 神様の衛兵。人間が信仰心を失えば、最終戦争アルマゲドンを実行し、すべてを根絶やしにする。

******************************************************



 全体的に物騒な説明だが、異世界転生系の物語ではよく見る情報だった。

 そして俺の主業務は、これら三種のバランスを取り、すべてを絶滅させないように調整すること。

 放っておけば、魔族や天使が人間を滅ぼしそうだから、きっと俺は人間を守れば良いのだろう。

 直接介入して人間を保護しても良いと思うけれど、どうやら神様は、直接的な行為を避けていたらしい。

 いまはわからないが、きっと何か特別な理由があるとみたほうが良い。

 今後の検討課題として、一つ印をつけておく。


 足りない情報で考えても仕方がないので、俺は次に、『三つの世界維持システム』について精査した。

 いずれもやはり、どこかで見た情報だった。



******************************************************

【魔法】

 神様を信仰する者だけが使える。ジャンルは多岐に及び、魔族を打倒するほどの力がある。


【魔王】

 魔族の王。魔族全体を統率する能力があり、強く、長寿。神様と天使と勇者以外の攻撃では殺すことができない。仮に死んだとしても、時間をおいて、また新しい魔王が誕生する。


【勇者】

 神様に選ばれし人間で、人間の中では唯一、魔王を打倒する能力を持つ。

******************************************************



 改めて俯瞰すると、世界のバランスを維持するという意味で、『魔法』、『魔王』、『勇者』はよく出来たシステムだった。


 ……というか、ひどいマッチポンプだよ、これ。


 魔族は強いが、人間は魔法で対抗できる。

 魔王は人間の魔法でも打倒できないが、勇者という切り札がある。

 そして勇者は人間としての寿命を持ち、魔王は定期的に発生する。


 それぞれに強みと弱みがあり、一種による繁栄は出来ないように設定されていた。

 結果として、この世界の秩序は維持され、人間も魔族も天使も滅ぶことがない。

 たぶん、特殊な事件や事故が発生しなければ、このシステムは永遠に回り続けるのだろう。

 逆に言えば、事件や事故が起こったときこそ神様が必要となるのだ。

 つまり、そのイレギュラー対応が俺の仕事。


「なにが起こるか予想もつかないが、異動後の職場なんていつもそんなもんだ」


 俺は自分に言い聞かせ、ポジティブな要素を考えることにした。


 業務として、成果や変革を求められていないこと。

 すでにシステムが出来上がっていること。

 神のような職場環境であること。

 神様のように万能の『奇跡』を扱えること。


 加えて俺には経験があった。

 これまで企業、代議士、弁護士、上司……そういった曲者たちと共存し、議論し、解決してきたのだ。

 野党の議員の無理難題に比べれば、そんなに難しいとは思えない。


「まあ、どうにかなるさ」


 元はと言えば死んだ命だし、失敗でなにかを失うわけじゃない。

 失敗したとしても、俺を代理人に選んだ神様の責任だ。

 成功したときの褒美も美味しい。


 徐々に湧き上がってきたやる気を感じながら、俺は最後に、神様から厳命された三つの禁忌事項を確認する。

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