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第1話:業務開始

神は支配するために存在することすら必要としない唯一の存在である。


シャルル・ボードレール

 最終的には、俺が実行したことの背景や結果を資料にまとめ、神様に提出することになるのだろう。

 しかし、世界のバランスをとるなんて業務は初めてだし、どの情報が必要になるかもわからない。

 だから俺は、逐一記録を残すことにした。


 形式としてはメモだ。

 思ったことをそのまま書く。


 たぶんそのほうが柔軟性に富んだ運用ができるし、どこにでも持ち運ぶことができる。

 神様に報告するときだって、集めたメモをまとめるだけだ。

 俺の負担はとても少ない。


 幸いなことに、書類の扱いは、前職と比較にならないほど容易になった。

 神様の代行として、完璧かつ万能の力『奇跡』を手に入れたからだ。

 奇跡のおかげで、大量のメモを適切に一瞬でまとめることができるし、人工知能と違って絶対に間違えることはない。

 古いメモにしたって、無限の広さを持ち、自動整理された状態で保管できる『アカシック・レコード』という場所を使えるそうだ。


 冷静に考えれば、無茶苦茶恵まれているじゃないか……と俺は思わず、前職の劣悪な環境と比較した。


 前職は雑務が多かったけれど、なにより資料を作成することに時間を奪われた。

 質問に対する回答、通知、面会前の資料作り、面会後の議事録の作成はもちろんのこと、その全てで上司や関係省庁の確認を取る必要があった。

 様々な場面でメモを取らされたし、そのメモを残し続けなければいけなかった。

 個人用のロッカーがあるわけでもなく、メモが嵩み続けた結果、各種関係資料は俺のデスク周りを占拠した。

 紙をスキャンして電子データに残すことも、最初から電子データとしてメモすることも出来たが、今度はPC内の容量を圧迫した。

 メモから正式な書類に変える段階でも、上司や先輩の確認など、多くの手続きが必要だった。

 公務員の主業務とは、メモと資料を作ること……初登庁した日からずっと、俺はそんな風に理解している。


 だから神殿は、文字通り『神のような』職場だった。

 資料をまとめる時間も、誰かの確認を取る時間も、資料の整理をしたり、探したりする時間も存在しない。

 メモを書いてさえいれば、あとは本業に集中できる。

 雑務の大部分が省略されている。


「悲観する必要はないのかもしれない」


 色々考えたことで、俺の気持ちは軽くなった。


 たぶん俺は不安だったのだ。

 死んだとは言え、急に連れて来られた異世界は不慣れだし、神様の代わりなんて想像もできない。

 ただ、俺にやり遂げる以外の選択肢はなかった。

 交換条件とは言え、俺は神様に、代行業務を約束してしまったからだ。

 元の世界の元の時間に戻るために。

 俺が手をつけた仕事で、職場の人たちを困らせないために。


 気を取り直した俺は、最初の検討課題として、ステークホルダーに関する情報を思い出した。

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